忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第2章:てんぱい異世界の足跡

第21話 天貴、手を伸ばす

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 そして7日後。止まない雨の中、農場の皆が真っ赤なトマトを目の前にして口をあんぐり開けている。それが嬉しくてニヤける俺。

「じゃあ、実食タイムだ!」

 20個いや30個は実ったであろうトマトの枝から一番大きな実をもぎ取ると、ラクターさんに手渡した!

「おぉ、女人の柔肌のような繊細さだ」

 その表現に少しムッとするコンバインさん。

「隊長!?そういう感想はどうでもいいんで!ってか、早く食ってくださいよ!」

 アリスも他のメンバーも期待のまなざしを向けている。

「で、では…ガブッ!!!」

 口に入れた瞬間、ラクターさんの動きが止まる。衝撃の甘み、濃厚な味、ジューシーな果肉。まるで時が止まったかのようにそのまま硬直し、食レポを完全に放棄。そんな様子を見て口元がゆるむ俺。

「ちょっと!大袈裟よ、お父様!」

 その様子を見ていられなくなったアリスが、ラクターさんの手からトマトをひょいっと奪う。

「ガブリッ!」

 一口かじった瞬間、アリスの目がまんまるになる。

「なにこれ!本当にトマトなの!?」

 グルメサイトなら満点付きそうな食レポを聞いた瞬間、我慢の限界を迎えた面々が一斉にラクターさんの顔を見る。さながら、餌を目の前にしたワンコが「よしっ」を待っている状態。ちなみに、俺の口元はずっと緩みっぱなしだ。

「隊長…!」

 懇願するような瞳で見つめる忠犬、いや、コンバインさんの声にラクターさんは無言で深く頷いた。

「うぉっしゃぁ!総員、もぎ取り開始!!」

 コンバインさんの掛け声と共に、僕も私もと赤く実ったトマトへダッシュ!

「甘い!それにすっごく瑞々しい!」
「うぉぉぉぉぉ!これはまさに神のトマトぉぉぉ!!」

 次々にもぎ取られるトマト。

「やば!これじゃ、すぐ無くなっちまう」

 俺も慌ててひとつもぎ取り、ガブリとかじる。

「え!?おやっさん農場で作ってるやつより美味い!?」

 おやっさん農場で作られたトマトよりも、肉質がぎゅっと詰まっていて、皮は柔らかいのに噛みごたえがある。

「…そ、そうか!このブリリアンな弾力!この農場の土壌ならではの効果なんだ!」
「ふふ、それはね!肥料の中に乾燥させたスライムを混ぜてるからなの!」

「ス、スライム!?」
(ファンタジーの王道がまさかこんな形で登場するとは)

 肥料の話になった途端、トマトを両手にがっつくシーダさんがザザッと登場。

「乾燥スライムを混ぜた肥料は、土壌をふっくらさせつつ保水&通気力をUPし、スライムの肉質に宿る微量の魔素が根の活性を刺激して、害虫よけの効果もあったりして実の付きが断然変わります。そしてスライムの種類によっても……」

「も、もう十分です、ありがとう…」

 スライムが肥料としてすげえのは分かったけど、このまま聞いてたら夜が明けそうだ。このスライムの特性…玄太なら全部記憶しそうだな。

「とっ、言うわけでアリス!このトマト、イケるだろ!?」

 ニヤリとした天貴の歯がキラーンと光る。

「イケるかですって!?これ、アルカノアに城が建つわよ!!」

 アリスの目もキラーンと光ると、トマト畑は笑い声に包まれた。





 今日この農場で収穫されたのは、トマトだけじゃない。新しい仲間たちとの絆。そして。ライラのアストラも照明要員じゃないし、グロウ君もみんな、この農場に必要ない人なんていない。

「いける!きっとみんなで、もっとすごいものが作れる!」

 止まない雨の中、天貴の心に燃えるような希望が芽生え始めていた。


 *****

 次の日。昼飯を早々に食い終わった俺は、うっすらと小雨の降る小高い丘の草原の上に座って、遠くアルカノア農場を眺めていた。ここは、転移によって最初に降り立った場所だ。この世界で“ここ”が玄太に一番近い場所な気がして。

「玄太、俺やったよ」

 空は曇ってるけど、俺の心は青空のように澄み渡っていた。そして、ふっと思いたって、そっと片手を空に掲げた。

「映してみろ、スカイリンク!」

 すると、白く覆われた曇り空が、油まみれの水に洗剤を一滴垂らしたように、掲げた手の上空を中心にサ―っと薄くなり、奥にあった青い空がサークル状に姿を現した!

「こ、応えた!?」

 この農場に来た日、俺が何を言っても、何をやっても呼べなかった青空。それが今は、たった一言で簡単に呼ぶことが出来た。

「スカイリンク!?マジかよ!?」

 丸く繰り抜かれた青空のど真ん中には、煌々と輝くアカボシが俺を見下ろしていた。俺は丘を駆け下り、アルカノアへ向かって全力ダッシュ!農場に近づくと徐々に降り出していた雨。それにも気づかず、俺は屋敷の中にパターンと飛び込みリビングに直行。

「アリス!!」

 ぜーぜーと息を切らしながら、びしょ濡れで屋敷のリビングへ飛び込むと、アリスとシーダさんがお茶を片手に驚いた顔で俺を見る。

「て、天貴さん!?ど、どうしたの?」
「あの俺!いま丘の上でスカイリンクを使ったら…はぁはぁ」

「落ち着いて、ゆっくりでいいから!」

 俺はその場で深呼吸して、もう一度空を見上げるような仕草をしてから…。

「晴れたんだ!白い雲の向こうから青空!一瞬で!スーーっと!」

 その言葉を聞いたアリスとシーダは顔を見合わせ、すぐに立ち上って外へ飛び出る。

「あっちの丘!あの辺で使ったら空が晴れて……!」

 俺は丘の上空を指さした。

「ねえ?スカイリンク、もう一度ここで使ってみてもらえる?」

 そういうアリスにうんと頷き、さっきと同じように片手を掲げる。

「俺の心を映せ!スカイリンク!」

 すると、青空は―――――出ない。青空どころか雨すら止まない。

「はぁ。気のせいだったのかも……すまん」
「いいえ天貴さん。なんだか少し雨足が弱まった気がする」

 そう言われれば、少し勢いが落ちたような?

「でもさっきは本当に青空が…」

 そう言って俺はまた空を見上げた。そして、目線を地上に戻した時にはアリスとシーダはすでにそこにいなかった。

「はぁ。また落胆させちまったか…」

 やれやれと玄関に向かおうとすると、玄関から傘を持ったアリスとシーダが現れた。

「だったら、あの丘に行ってみましょう!ね、アリスちゃん!」
「もちろんよ!はい、天貴さんの傘!」

 そう言って葉っぱの傘を差し出すアリス。

「お、おぅ…!」

 もう一度、あの丘なら…!と、気を取り直した俺はアリスとシーダさんと花畑へと歩き始めた。

 *****

 小高い丘では、アリスとシーダが見守る中、再び花畑に座り片手を空に掲げる俺がいた。なるべくさっきと同じシチュエーションにしたいから、なるべく力を抜いて。

「俺の…いや、青空を見せてくれ!スカイリンク!」

 すると、今度は俺の言葉に応えるように空はサークル常の青空に変わり、アカボシのやわらかい光が三人を包み込む。

「晴れた…晴れたじゃない!」
「すごいです、天貴さん!」

 急遽、俺と女子二人による、花畑「異世界スカイリンク会議」が始まった。

「どういうことかしら?なんでアルカノアだけ晴れないのよ!?」

 アリスが苛立ち混じりに言うと、シーダさんが落ち着いた声で補足する。

「そもそも農場の中心は特に雨が強かったのよね。となると、天貴さんのアストラの影響力、魔力マナが足りてないのかも?」

 確かに、俺は数日前にこの世界に転移してきたばかり。アストラの力が未完成という可能性は高い。

「要するに、俺の力不足って事か」

 アリスはその言葉に耳を貸さずに、別の可能性を示す。

「もしくは、あの場所にだけ何か、アストラの力を遮る原因があるのかもしれないわ!?」

 その考察に、シーダさんは首をかしげて疑問を口にする。

「でも、私たちのアストラは普通に使えてるわ?特定のアストラだけ阻害する力なんてあるのかしら」

 再びう~んと悩んでしまう俺たちに、またうっすらと小雨が降り出してきた。

「スカイリンクの効果は長続きしないのか?」

 疑問に思ったまま、俺たちは無言でアルカノア農場にむかって歩き出した。すると突然、先頭を行くアリスが急に「ここよ!」っと言って立ち止まり、俺たちの方は振り返った。

「ここで、もう一度使ってみて!」

 農場と丘のちょうど中間地点に立ち、アリスがまっすぐ俺を見る。シーダさんも静かにうなずいたのが分かった。

「よ、よし!」

 俺はふたたび、片手を空に向かって掲げる。

「スカイリンク!」

 風が少し吹き、徐々に雨足は弱まる。そして数秒後、なんと雨は完全に止まった。

「止んだ…」
「うん、でも…」

 青空が出ることはなく、空は依然として曇り。しかしよく見ると雲の切れ目から青空が、ほんのわずかに現れた。

「今の見た!?雲が、ほんのちょっと!」
「ああ!反応があった!」

 アリスの声に、思わず俺も拳を握る。

「みんな、これって…」
「ああ、多分俺も同じ考えだ」

 三人は目線を農場に向けた。

「謎はアルカノアにあり!みんな行くわよ!!」

 アルカノア農場に戻り屋敷の玄関前にたどり着くと、なぜか農場のメンバーがずらりと出迎えていた。

「え、なにこの歓迎ムード?」
「どうしたの?みんな。お父様まで」

 戸惑う俺たちに、ライラが手を上げて口を開く。

「さっき、お部屋の窓を拭いていたら、花畑の丘の方に青空がパァって広がって!」
「ライラがそう言うもんだからよ、皆で見てたらアリス嬢たちが丘から戻ってくるのが見えたって話よ」

 コンバインさんが補足する。

(さっきのスカイリンクに気づいてたってことか)

「みんな、聞いて!」

 アリスは軽く咳払いして、今までの流れを一通り説明すると、俺もそれに続いた。

「つまり、農場に何かがあるのかもしれない!俺のスカイリンクを妨げるような、何かが」

 そのやりとりを、玄関のドアにもたれながら黙って聞いていたラクターさんが口を開いた。

「天貴君。俺は最初の日に、君がアストラに立ち会えなかったんだが、どこで試したんだ?」
「えーっと、たしかこの辺で…」

 そう言ってみんなの前でスカイリンクを初めて使った場所に移動した。皆がうんうん!とうなずく場所で立ち止まり、そこで片手を上げた。

「スカイリ…」
「ちょっと待った!」

 俺が言いかけたその瞬間、ラクターさんが俺の言葉を遮るように前へ出た。そして、人差し指でシーダさんをちょいちょいと呼び、そのままその指で地面を指した。シーダさんは静かに頷くと、地面に手をかざしながら、そろりそろりと移動する。

「波動を感知するエネルスキャン…この地面に何かあるっていうのか!?」

 ──ピタッ。ダウジング・シーダさん(俺命名)が、ある一点で手を止めて静かにラクターさんを見上げる。

「でかした」

 ラクターさんの口元が、「ニヤリ」と動いた。
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