忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第2章:てんぱい異世界の足跡

第22話 天貴、晴れを呼ぶ

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 それから数日経ち、ゲド一行はいつものように空の馬車を携えて従者と共に、アルカノア農場に向かっていた。

「そろそろ…この私の申し出、受け入れざるを得ないだろうな」

 馬上のゲドの視線は、向かう先のアルカノア農場に注がれている。

「今日の野菜はまっずいナスですかね!?」
「ふん、どうせ馬の餌にするんだ、なんだってかまわないさ」

 チャラ…。

 胸元から赤いネックレスを取り出してニヤリとするゲド。その目はまるで、獲物を仕留める寸前の獣、そんな冷たい目つきだ。そんなゲド一行を村人数人がかごを持って走りながら追い越していく。

「む?何事だ?」

 ゲドの従者は村人を捕まえ、慌てる理由を問いただす。

「アルカノア農場で、すごい美味いトマトが売ってるんですって!」
「早く!急がなきゃ無くなっちゃう!」

 村人は一行にお辞儀し、足早に走り去った。ゲド一行も急ぎアルカノア農場に入ると、見たこともない人数の客でごった返すアルカノア農場。

「ど、どういうことだ!?あんなまずい野菜が…」
「ゲド様!!大変です!」

 今度は何だ!?というゲドは従者の指さす方向を見ると、そこにはラクターを先頭に農場の仲間たちがズラリと並び立っていた。アリス、モーちゃん、メーちゃん、シーダさん、そしてコンバインさんに俺。

「ふ…ついに、閉店激安セールでも始めたのか?父君よ」
「それよりゲド、これはどういうことだ?」

 そう言うとラクターさんは、あの日地面に埋まっていた青く光る宝石をゲドに突きつけた。

「そ、それは…!」

 ラクターさんの読み通り、そのネックレスを見て青ざめるゲド。分かりやすぅ、めちゃくちゃ怪しい。そんな容疑者・ゲドをさらに追い詰める敏腕刑事・ラクターさん。

「これは、雨呼びの石。王宮の宝物殿に保管してあるはずのこれが、なぜこの農場に埋まっていた!?」
「し、知らん!俺はそんなものは持ち出していない!」

「ほう?」

 そう言って、ゲドの胸元を指さすラクター刑事。

「では、お前が今胸に付けている赤いネックレス!その、晴れ呼びの石はどう説明する?」
「んぐ、しまった!」

「そういう事か…」

 筋書きが読めたのか、アリスがずいっと前に出る。

「ゲド!あなた、農場に雨呼びの石を埋めて、作物の質を落としてアルカノアを窮地に追い込もうとしたのね!!」

 止まらないアリス。

「あなた、ここへ来るときは“雨に濡れたくない”って理由で、晴れ呼びの石を使って中和したんでしょ……!」

 雨を呼ぶ石と、晴れを呼ぶ石。そこまで聞いて、ようやく腑に落ちた。俺のスカイリンクは、雨呼びの石の魔力に押さえ込まれて無効化されていたのだ。ムカつく話のはずなのに、異世界特有の魔法道具の仕組みについ感心してしまう俺。

「はぁ…せっこい男!!」
「なんだと!!ちょっと顔が良いからって、無礼は許さんぞ!」

「顔が良いって……い、今はそんなの関係ないでしょ!!」

 アリスが思わず叫ぶ。

(いや、アリス。ちょっと顔が赤いぞ?)

 その声に、ゲドがさらに苛立ったように顔をゆがめた。

「さあ、父君!その石は王宮のものだ!速やかに返却せよ!」
「ふん。元王宮勤めの俺をあなどるなよ、ゲド」

 ラクターさんが更に一歩前に出て、雨呼びの石を高く掲げる。

「この雨呼びの石は、俺が正式に盗品として王宮へ返却する…!お前の罪状と共にな」
「っく…皆の者!とっとと取り上げろ!」

 外道――いや、ゲドが子分にありがちな突撃命令を飛ばす。だが次の瞬間、気づけば興奮した牛と羊の大群に取り囲まれていた。

「それ以上近づくと、牛さんが黙ってないモ!」
「とっとと帰らねぇと、メーメー軍団が一気に突撃するべ~!」

 モーちゃんとメーちゃんが、それぞれ仲間を引き連れ、包囲をさらに強化する。ゲドの顔が見る見る引きつった、その時。

 ヒヒィィィン!!

 乗っていた馬が大きくいななき、ゲドを見事に地面へブチ落とした。そこへ、全力ダッシュで距離を詰めるコンバインさん。狙うはゲドの頭。右手を振り抜いて、ザシュッ!!っと、まるで稲刈りでもするかのように、ゲドの自慢の金髪の上半分がスパッと収穫された。

「コンバインさんのアストラ…!?す、すげぇ!!」

 感動したのも束の間。振り返ったゲドの髪型を見て、俺の視界は一瞬で崩壊した。

「ぶはっ!!!」

 上面スッパリの金髪スライス。いやそれ、ソニックブームでも撃ちそうな髪型。

(ぶはっ…ま、まずい…!みんな真剣なのに…!)

「おのれぇぇぇぇぇ!!!」

 金髪スライスを押さえながら絶叫するガイ…いや、ゲド。

「この借りは、必ず返すぞぉぉぉ!!!」
(すげぇ……本当にそのセリフ言う人、初めて見た…!)

 ゲド一行は馬に乗って一目散に退却。いや、退却なんて上品なもんじゃない。尻尾を撒いて逃走ってやつだ。すると、いつの間にか敏腕刑事・ラクターさんが、馬上の騎士にジョブチェンジしていた。

「奴らより先に雨呼びの石を王宮に届ける!我々が盗んだと嘘をつきかねんからな!ここは任せたぞ!」

 そう言い残すと、ラクターさんは馬を操って颯爽と駆け出す。やば、かっこよすぎだろ!?さすが元・王宮隊長。冷静な危機察知と瞬時の判断力、そしてあの馬さばき。頼もしさとスマートさを兼ね備えた、まさに大人の渋みMAX。

「ああいうの、大人のカッコよさって感じだよな…」

 ちょっと惚れそう――って、まさにこういう時に使う言葉だろう。その後ろ姿にぽーっと見とれていたら、コンバインさんが無言でじぃっと俺を睨んでいた。

(う…背中からゲド以上の殺気が…!?)

 気づかないふりをしつつ、ラクターさんの背中から目線をそらして、コンバインさんからのヘイトもそっと外す。

「さぁ!みんな!嵐は去ったわ!!お客さんいっぱいだよ!」

 アリスの元気な声が響いた瞬間、全員が一斉に持ち場へダッシュ!

 さて、農場の様子はというと。

「三つ、いや四つくれ!」
「私は…五つ!」

 新作・ブリリアントトマトが、まぁ当然ながらめちゃくちゃ売れている!ずーっとお客さんが列をなしてて、もうウキウキの大盛況!!
 あの日以来、グロウ君には木材業者を“脱林”してもらい、菜園チームに正式移籍!連日アストラ全開でブリリアントトマトを怒涛の育成促進中!その成果が今、採れたて野菜販売所にドドン!と大量入荷だ!!今日はアルカノア・ファーマーズ総出の大騒ぎ。品出しに接客に、もうてんやわんやだ。

「いやほんと!嬉しい悲鳴って、こういう時に使うんだな!」
「ええ!最高の再スタートよ!」

 そんな中、客の波の中でふと目に入った、ぽつんと立ち尽くすひとりの少女。服は薄汚れ、どこか心細げにきょろきょろと辺りを見回している。

「あれ……あの子、迷子か?」

 気になって、俺はそっと店先の小さなトマトをひとつ手に取り、その子に差し出した。

「ほら、食べてみな。すごく甘いぞ」
「え、あ…でも、その…」

 戸惑う彼女の背後から、聞き慣れない男の声が飛んだ。

「君!うちの下人に余計な施しは不要だ。遠慮してくれたまえ」

 振り向くと、飾りボタンのついたジャケットを着た男。その声に、少女はびくりと肩をすくめ、唇をぎゅっと噛みしめたまま視線を落とした。

「あんな小さな子が…下人だって?」

 ざわつく人波の中、男の言葉だけがやけに耳に残る。アストラが使えないってだけで、こんな扱いかよ。

「……天貴……」

 俺の腕にそっと触れ、首を横に振るアリス。

「農場をもっと盛り上げて、ああいう子を全員うちで面倒みましょ!」
「全員って……アリスそれ、農場がパンクするだろ?」

 苦笑まじりに言ったつもりだったのに、アリスは真剣な顔でにっこりと笑った。

「そのときは、畑を倍に拡張するわ!」
「マジかよ…」

(でもまあ、そういう考え方…嫌いじゃない)

「おーい!アリス嬢!マナトマソースの補充たのむぜ!」
「あ、はいはーい!」

 アリスはクスッと笑いかけて、屋敷の中へスタスタと駆けていった。

 マナトマソース。俺…というか、心の中の玄太のひと言から始まった…そう、例のトマトソース作戦だ。

「美味しくないトマト?そんなんはトマトソースにして食っちまえばいいんすよ!」

 あいつの食い意地(の記憶)が、異世界で革命起こしてる。いや、冗談抜きで。

 数日前、ライラの案内で農場をぐるっと回ったときのこと。温室にハーブが育っているのを見つけて、防腐効果を期待して試しに混ぜてみたら、なんとそれが魔力回復効果を持つ貴重ハーブだったというサプライズ。乾燥させた在庫もけっこう残っているという話だったので、じゃあもういっそ、マナ回復トマトソースにしてみようって話になって……。結果、美味くて、腐りにくくて、マナも回復するという奇跡の神フードが誕生した。

「はは…玄太の食い意地、バカにできねぇ」

 そんなことを考えていたら、つい笑いが込み上げて空を見上げた。ふとクータンの言葉が頭をよぎる。

『能力とは天の決めた ことわり――すなわち、絶対的なルールそのものじゃ。意図的に阻害する力でも働かん限り、その実行は絶対なのじゃ』

「あの時は意味が分からなかったけど、今なら分かるぜ」

 見上げた空は、まだ分厚い白い雲に覆われていた。その向こうに、俺と玄太とクータンが三人で笑っていた、あの日々がある気がした。

「玄太とクータンに…届け!スカイリンク!!」

 シューーーン………パァァァァァ!!

 何ヶ月も厚い雲に閉ざされていたアルカノア農場の空が、雲一つない真っ青な晴天へと変わっていく。アリスも、農場の仲間たちも、客も、牛も、羊も、すべての生きとし生けるものが空を見上げ、言葉を失った。雲が割れ、アカボシの光がゆっくりと差し込んだ。雨に沈んでいた大地が、まるで呼吸を始めるように、その光を吸い込んでいった。
 一方その頃、ゲド一行を追い越して王都へと馬を走らせるラクターの目にも、アルカノアの空が晴れ上がっていく光景が映っていた。

「やったな、救世主…!」

 ラクターはフッと笑うと、手綱を強く引いた。

「――はっ!!」

 馬がいななき、王都へと駆け出した。


 *****

 三つの持ち物のひとつ、野菜の種が農場を救った。スカイリンクも、もうちゃんと使えた。自分で選び、自分の手で結果を出せた。その事実が、ただただ嬉しかった。

「やべぇ!俺いま、ちょ~嬉しい」

 思わず声が漏れる。心の底から湧き上がるこの気持ちの空に、雲はひとつもない。

「玄太ぁぁぁ!!クータァァァン!!晴れたぞぉぉぉ!!!」

 俺の叫びは、誰にも意味が分からないまま青空に吸い込まれていった。
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