勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

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第9話 ミノケンタウロスのヤリ

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「あら、スタンス。そんな大きなヤリ担いで何してんのさ」
武器屋への道すがらデボラさんに偶然出会った。

「さっき拾ったので武器屋に売りに行こうかと」
ミノケンタウロスから手に入れたものだが拾ったことは確かだから嘘はついていない。

「そんなもんが落ちてたのかい? 物騒だねーまったく。あ、それより今あんたの家に豚汁を届けに行ったらフローラに会ったよ。まあ正確にはフローラの家だけどさ」
「あ~」
「昨日帰ってきたんだって? 悪かったね、あたしゃてっきりもう帰ってこないもんだと思ってたからさ」
「いいんですよ、フローラも家に置いてくれるって言ってくれてますし」
毎月金貨三枚を家計に入れることを条件にフローラの家に居候させてもらうことが決まっている。

「そりゃよかったよ、あたしのせいで突然ホームレスになったら困っちまうからね。ま、そん時はあたしのうちに置いてやったって構わないけどさ」
デボラさんは「あっはっはっ」と豪快に笑ってみせる。

「フローラに追い出されたらうちにおいでな」
「はい、わかりました」
リックたちに続いてフローラにまで追い出されたくはない。
俺はフローラに優しく接しようと心に誓った。


☆ ☆ ☆


デボラさんと別れると俺は武器屋の暖簾をくぐる。
「すいませーん、これ買い取ってもらえますか?」
ミノケンタウロスのヤリをカウンターの上に置いた。ずしんとなかなかの重量がある。

「おう、スタンスじゃねぇか。冒険者たちにうちの店宣伝しといてくれたか?」
武器屋の主人が奥の部屋から顔を出した。

「すいません、ギルドには俺以外に冒険者はいなかったので宣伝出来てません」
「なあんだ、そっかよ。そりゃそうか、あんなちっこいギルドじゃ冒険者も集まらねぇよな」
大して期待していなかったらしく武器屋の主人はあっけらかんとしている。

「それで、なんだこのヤリは?」
「拾いました」
「嘘つけよっ。こんな立派なヤリが落ちてるわけねぇだろうが」
やはり本職、拾ったでは通じそうにない。

「本当はどうしたんだよ、これ。ええ?」
にやりとしながら俺の目を見据える武器屋の主人。

まいったな。
ミノケンタウロスから手に入れたと正直に話すと俺の正体も話さなければいけなくなりそうだし……。

俺はちらっと武器屋の主人の顔を盗み見た。
こわもてだが人懐っこそうな顔をしている。

……駄目だ。この人に喋ったら村中に広まりそうな気がするぞ。
もしそうなったらこの村には住みにくくなる。
勇者たちにパーティーを追い出されたことを変に気遣われたくもないし、魔法使いという理由で奇異な目で見られたくもない。
俺はこの村に溶け込んでただの村人Aになりたいだけなのだ。

「えっと…………やっぱいいですっ」
「あっ、おいスタンス……」
いい作り話が浮かばなかったので俺はヤリを掴むと武器屋の主人の声を背にして武器屋を飛び出た。


少し走ったところで立ち止まる。
「ふぅ……あの店には当分近付かないようにしよう」

それにしても……。
「このヤリどうするかな~」
先が円錐状に尖った大きなヤリを見上げる。
魔法使いの俺には持て余す代物だ。

すると、
「スタンスさん、それなーに?」
「うわあ、かっけー!」
村の子どもたちが駆け寄ってきた。
俺が持つヤリを見て目をきらきらさせている。

「ヤリだよ」
「大きいね。それどうするの?」
女の子が訊いてきた。

「うーん、どうするか今考えてたところなんだ」
「じゃあ、ぼくにちょうだいっ」
男の子がぴょんぴょん俺の足元を飛び跳ねる。

「別にいいけどこんなのどうするんだ?」
「こっちの方を地面にぶっ刺して家の前に立てるんだっ」
持ち手の部分に触りながら男の子が言う。

「わー、絶対かっこいいじゃんか」
「ずりー、おれも欲しい」
気付くと子どもたちがわんさと集まっていた。

「スタンスさん、ぼくが一番に言ったんだよ。ぼくがもらうからねっ」
「こら、危ないからしがみつくなって」
こぞってヤリに群がる男の子たち。そしてそれを冷静に見守る女の子たち。
どこの世でも男はバカな生き物だ。

「わかった、お前にやるからっ」

俺はロッベンという男の子にヤリをあげることにした。
もちろんロッベン一人では持ち運び出来ないので俺が家まで運んでやった。


「本当にこんなとこに突き刺していいのか? あとで親に怒られても知らないからな」
「うん。いいからやってやって!」

ロッベンがしつこいので仕方なく家の前に円錐状のヤリが地面から飛び出るように持ち手部分を地面に突き刺した。

「よいしょっと……これでいいのか?」
「かっけー!」
三角ポールよろしく地面から飛び出たヤリの先端を見て目を輝かせるロッベン。

「まあ、お前がいいならいいけどさ」

どうせ親が文句を言ってくるに違いない。
そう思っていたのだがこれがロッベンの親にも意外と好評だったらしくあとで会った時にお礼を言われてしまった。

そして今では村のちょっとした名物になっているのだから世の中わからないものだ。
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