婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta

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魔道具

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「では、登録証を作成致します。こちらに必要事項を記入ください」

(どれどれ……名前、本名、出身地または住所、身元引受人……意外としっかりした書類だな)

「ジェシカ。透明ペンを使えるか?」
「はい、勿論です」
「とうめいぺん?」
「こちらです」

ジェシカさんが取り出したのは一見普通の羽ペンだった。

「これは魔法のペンなんだ」
「ほう! 魔法のペン!」
「特殊なインクでな。書くと数分で色が消えるようになっている。だから透明ペンだ」
「え? 見えなくなっちゃうの?」
「そうだ。だから、人に見せたくない情報はこのペンで書くといい。このインクを見ることが出来るモノクル型の魔道具もあるのだが、それを使うことが許されているのはギルドの中でも相当身分が高い人に限られている。この支部ではギルド長だけ、だったかな」
「そうですね。では、私は登録証作成に必要なものを用意してまいりますので、失礼致します」

そう言ってジェシカさんが席を立った。恐らく書いているノアの手元を見ない為だろう。

「……これって嘘を書いちゃダメなの?」
「あまりお勧めはしないな。俺も全部本当の事を書いている」
「ふぅん……」

(つまり、本名の欄はローラン・リシャールで登録しているってことね。じゃあ俺も正直に書いた方がいいな)

 受付の際に、名前と年齢以外は見えなくても問題ないらしい。なので、それ以外の部分は透明ペンで記入した。赤いインクは暫くするとスッと紙の上から消えていった。

(おぉ! 本当に文字が消えた……すごい魔法だな)

「名前はどうしよう」
「ノアだけでいいんじゃないか? ジェシカにも既にそう紹介してしまったし」
「そうだね」

ローランと違って万が一バレても、家族以外には問題ないノアは彼の意見に従うことにした。


「書類は書き終えましたか? では次に写真をお撮りします」
「写真かぁ」

ファンタジーな世界には不釣り合いな気もするが、そこは魔道具が発達した世界である。もちろん撮影器具も魔法道具である。

(魔法を扱える人間は少ないけど、魔法から生み出された道具はこうして多くの人に利用されているのがなんだか感慨深いよな……つまり、俺の土魔法も金儲けになる可能性が高いという訳だ)

 公爵家にいる以上、金の心配はあまりしなくていい……とは言い切れないのがノアの悲しい現実だ。何せニートである。

(ギルドに登録するのも、再就職の一環だし。冒険者が合わなかったら、フィギュア職人として生きていくのも手だな。この世界で果たしてどこまで需要があるのかわからないけど)

「ノアさーん、笑ってください。もしくは真顔でお願いします。眉間に皺寄っちゃってますよ」
「あ、すみません」

(いけないいけない、撮影中だった)

 魔道具を使っているとはいえ、ここは現代日本ではない。スマホなんていう便利なものがないので、被写体は数秒間静止して動かないことを求められる。

「……はい、バッチリです! やっぱりモデルが良いと撮影楽しいですね」
「……その写真、一枚もらえないか?」

(いや、真顔で何言ってんの? ローランさんよ)

「一枚一万Gなら考えます」
「買おう」
「ジェシカさん!? 職権乱用しないで! あと、オルランドもそんな大金写真一枚に使わないで!」

まぁ、そんなくだらない茶番もあったが、登録証に使う顔写真の撮影は無事に終わった。

「最後に登録料のお支払いをお願い致します。5Gか10フィルになります」
「では、フィルの方で」
「ありがとうございます……では只今より発行手続きを致します。登録証が完成するまでに一時間程お時間をいただきます。時間が過ぎてからまた受付にいらしてください」
「わかりました。よろしくお願いします」


「一時間か……なら、一旦外に出て昼食を食べに行くか」
「そうだね。少し早いけど、混む前に行った方がいいよね」

時間を持て余したノア達は一旦ギルドを出て、外に食べに行く事にした。




 冒険者ギルドを出て大通りを歩いていると、パン屋の前に出店が出ていた。

「そこのお嬢ちゃん! パウンドケーキはどうだい? まとめ買いで安くしておくよ!」

出店には大量のパウンドケーキが並んでいた。

(はて? 今日って祭日だったっけ?)

「どうしてこんなにたくさんのケーキが……」
「聞いてくれるかい!?」
「は、はい……」

ノアの何気ない呟きに反応した出店の女主人の話によると、実は大口のキャンセルがあったらしい。

「数年前から御贔屓にしてくれてる旅一座がね、また今年もこの町に来たんだよ。そんで、そこの女優さんがいつものように大量に予約注文してくれたんだけどさ。急遽、体調を崩しちまって、公演も中止になったからって、キャンセルされちまったんだよ。仲間や仕事の関係者に配るからってパウンドケーキを10本も注文してたのにさ! それなのに今日の朝ドタキャンだよ!? 向こうも看板女優が体調不良で大変だと思うけど、キャンセルされちまったこっちもたまったもんじゃないよ」
「はぁ……それで急遽出店をだして安売りをしていると……」
「そう! ねぇ、頼むよ……一本だけでもいいからさ、買っておくれよ」

店先に並んでいるパウンドケーキは、焼き色もよく、匂いも甘い果物の香りがして美味しそうだった。

(パウンドケーキ10本か……丁度良いかもな)

「わかった。10本全部買うよ」
「本当かい!?」
「その代わり、パンの耳とか余っていたらおまけしてくれると嬉しいな」
「はいよ! ついでに白パンも買っていくかい? 丁度昼時だろう。安くしておくよ」

女主人はノアの行き先に見当がついているようだ。見透かされたように言われて『じゃあ、そちらもお願いします』とノアは更に大量の白パンを購入した。

「ノア、そんなに買ってどうするんだい? 店の主人の話に同情して無理に買い込んだ訳じゃないよね?」

女主人が、店の中に商品を取りに行った隙にオルランドが心配そうな顔をして、こそっとノアに耳打ちをする。

「俺もそこまでお人好しじゃないよ。オルランドには悪いと思うけど、今日のお昼ご飯の場所とメニューは俺に指定させてね」
「それは構わないが……どこに行くんだ?」



「町の外れにある孤児院だよ」


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