不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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最終章 前編 〈王都編〉

閑話 〈王妃の子 その2〉

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――シノビ・カゲマルの手によって連れ去られた王妃の子供はカゲマルが隠れ家としている廃屋へ閉じ込められ、両手と両足を拘束した状態で地面に横たわっていた。だが、普通の子供ならば攫われた時点で取り乱すのだが、王妃の子供は至って冷静に自分を見張るカゲマルに話しかける。


「誘拐犯さん、これから僕はどうなるんですか?」
「……静かにしていろ」
「お願いです、どうか僕の話を聞いて下さい」


腕を組んだまま柱に背を預けるカゲマルにレアは怯えもせずに話しかけ、そんな彼の様子にカゲマルは訝し気な表情を浮かべながらも王城の様子を伺う。カゲマルはどうにか王子であるレアを誘拐した後、彼の部屋に手紙を残してきた。

王子の命が惜しければヨツバ王国で拘束しているマリアを解放しろ、この返事に従う場合は夜が明ける前に王城の全ての旗を白旗に返る事を記した手紙を置いてきた。今頃は既に王妃の元にも手紙の内容が伝わっているはずだが、一向に王城に変化はない。

カゲマルは王妃が自分の子供の命が惜しくないのかと考えたが、第一王子は彼女がバルトロス王国を支配するために必要不可欠な王位後継者であるため、易々と見捨てるはずがないと考えていた。だが、結果は夜が明けても王城側からの反応はなく、白旗は掲げられなかった。


「……時間切れだ。貴様の親はお前を見捨てたようだな」
「ああ……そうですか」


夜明を迎え、遂に朝日が差しても王城に変化がない事を確認したカゲマルはレアと向き合う。母親が自分の事を見捨てたにも関わらずにレアは取り乱す事もなく、少し落ち込んだ表情を浮かべる。そんな彼の反応にカゲマルは疑問を抱き、これから自分がどんな目に遭うのか理解していないのかと考えた。


「これから俺はお前を殺すかもしれないんだぞ。なのにどうして冷静でいられる?」
「冷静というか、諦めというか……もう、どうでもいいやと思いました」
「何?」
「やっぱり、母上は俺の事を何とも思っていなかった……そう考えると何だか全部どうでもよくなりました」


レアは母親が自分の存在をもう必要としていない事を悟り、全てを諦めたように横になる。そんな彼の姿にカゲマルは無言で近づき、刃物を構える。


「おい、逃げなければお前は死ぬんだぞ」
「どうでもいいですよ……殺すなら殺してください」
「お前、死ぬのが怖くないのか?」
「怖い……とは思います。でも、それ以上にもう面倒くさいんです」


母親に自分の存在を認めてもらうために頑張ってきたレアだが、結局どれだけ努力しても母親は自分に見向きすらしなかったという事実にこれまでの努力が馬鹿らしくなり、黙ってカゲマルを見つめる。あまりにも無気力な視線を向けてくるレアに対してカゲマルは戸惑い、過去の自分と重ね合わせる。



――十数年前、一流の暗殺者として父親から育て上げられたカゲマルはある依頼人からマリアの暗殺を命じられた。カゲマルは持てる力を尽くしてマリアに挑むが、結局は彼女を殺す事は出来ず、逆に生け捕りになってしまう。



隙があれば自害しようとするカゲマルに対してマリアは決して許さず、あろうことかカゲマルの父親と取引をして彼の事を引き取った。どうして自分にそこまで執着するのかとカゲマルが問いただしたとき、マリアはこう答えた。


『貴方の顔を見て放っておけなかったのよ。勝手に絶望して勝手に自分の人生を諦めようとする人間ほど苛立つ存在はいないわ』


そのマリアの言葉を聞いた時のカゲマルは意味が分からなかったが、彼女の元で拾われてからマリアの側近として仕え続ける事で人としての心を持つようになった。




カゲマルの目の前に存在するレアは十数年前の自分自身の姿と重なり、そんな彼を見てカゲマルは刃物を下ろす。自分を殺すつもりではなかったのかとレアは驚くが、そんな彼にカゲマルは告げる。


「お前の人生はまだ終わっていない。これからは好きに生きろ……だが、王妃の元に戻るのならば容赦はしない」
「あっ……」


レアの拘束を解くとカゲマルは廃屋から立ち去り、残されたレアはカゲマルが残した小太刀を拾い上げ、自分がこれからどうするべきなのか分からず、黙って空を見上げた。




※息子とはいえ、レアも王妃の被害者なので悲しい終わり方は描きたくありませんでした。
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