不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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S級冒険者編

ケンゾウ

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「そういえば名前を名乗ってなかったな。俺の名前はケンゾウ、この近くにある道場の師範をやっている」
「道場?」
「ケンゾウといえば……思い出した、剣術指南役を任されていたケンゾウ殿でござるか?」
「ははははっ、今はもう引退して実家の田舎道場を継いだ普通の爺だがな」


ハンゾウの驚いた声を上げるとケンゾウは笑い、そんな彼に対してレナに突っかかって来た男は慌てふためく。


「そ、そんな!!今でも師範はこの国最強の剣士ですよ」
「おだてるんじゃねえよ。この足じゃあ、もうまともに剣を振る事も出来ねえ」
「その足、どうしたんですか?」
「まあ、今の剣術指南役との試合で斬られてな……年は取りたくないな。昔と比べてもうキレを失ちまった」


ケンゾウの片足は彼が剣術指南役として働いていた時、ある剣士に敗れた事で失ったという。その剣士はケンゾウを破った事で剣術指南役と認められ、一方でケンゾウの方は職を失って実家の道場を引き継いだという。


「それよりも兄さん、ここにいる男は一応は俺の道場の師範代を任せているんだが、こいつがあんたに負けたと聞いて興味をもってな。あんた、何者だい?」
「通りすがりのS級冒険者です」
「ほう、S級冒険者か。ヨクヒの嬢ちゃんと同じ立場の人間という事か」
「冒険者だと……くそ、俺は魔物狩りにやられたのか」
「魔物狩り?」
「和国では冒険者の事を魔物狩りと呼んでいるでござる」


自分の道場の師範代が敗れたと聞いたケンゾウは興味を抱き、レナ達の事を探し回っていたという。彼は許可を貰う前にレナ達の机の椅子に座り込むと、人懐っこい笑みを浮かべて向き直る。


「兄さん、俺とこいつはこんな見た目だが別にあこぎな商売をやっているわけじゃねえ。あんたを探していたのは純粋にどんな強い剣士なのか気になったからさ」
「そうですか。でも、俺は生粋の剣士じゃありませんけどね」
「ん?どういう意味だい?」
「レナ殿は魔術師でござる」
「ま、魔術師だと……魔術師に俺は負けたというのか!?」
「タロウ、うるさいぞ。お前のでかい声は足に響くんだ。静かに座ってろ」
「す、すいません……」


タロウと呼ばれた男性は落ち込んだ様子で座り込み、まさか自分が戦った相手が剣士ではない事が余程ショックだったらしい。一方でケンゾウの方はレナに視線を向け、何かに気付いた様に頷く。


「なるほど、人生長生きするもんだな……まさかこの年齢で俺と同じ領域の人間に巡り合えるとはな」
「……貴方も只者じゃなさそうですね」
「そういう事だな」


レナとケンゾウはお互いに視線を交わすと一瞬だけ瞳の色を「赤色」に変色させる。それだけでお互いの正体を見抜くと、ケンゾウは真剣な表情を浮かべて扉の方を指差す。


「とりあえず、俺に付いてきてくれないか?悪いようにはしないぜ」





――ケンゾウに誘われるままにレナ達は付いていくと、彼が経営している道場まで案内された。道場といっても随分と古びた建物であり、ヨクヒの屋敷よりも年季を感じさせた。元々は剣術指南役を任されていた男性が経営するような建物とは思えない程に寂れているが、それでもケンゾウ本人は気に入っているらしい。

建物の中に案内されたレナ達は一先ずは座り込むと、タロウが用意した酒と杯を頂く。あまり酒は好きではないレナだが、代わりにハンゾウが酒を飲む。


「おおっ、これは良い酒でござるな。飲みやすく、喉越しもいい」
「だろう?嬢ちゃんはこの酒の良さが分かるか、こいつは俺のダチの秘伝の酒だ。そっちの兄さんも遠慮せずにのみな」
「はあ……それで、俺達を呼び出した理由はなんですか?」


酒を進めてくるケンゾウに対して一応は盃を受け取ったレナだが、酒を飲む前に本題を尋ねる。レナとしてはハンゾウから過去に召喚された勇者がどのような手段で地球へ戻ったのか聞きたい所だが、この男と会った時に何故か無視できなかった。

ケンゾウは盃の酒を飲み干すと、一息吐いてしばらくは天井を眺めていたが、やがて杯を床に置くと杖を使ってゆっくりと立ちあがる。そして彼は杖を握り締めると、仕込み杖だったのか刃を露わにした。その彼の行動にハンゾウは咄嗟に立ち上がって武器に手を伸ばすが、レナの方は冷静に視線を向けたまま動かさない。


「いや、何……さっきも言ったが、俺はこの人生で一度も同種の人間と会った事がなくてな。少しばかり気になって兄さんたちを呼び出したというわけさ」
「同種!?それはどういう意味でござる!?」
「兄さん、あんたも剣鬼なんだろう?」


剣鬼という言葉を告げた瞬間に雰囲気が一変し、ケンゾウの瞳が赤色に染まる。それを見たハンゾウは背筋が凍り付くが、レナの方は特に変化はなく、手にした杯を口元に運ぶ。


「ふっ……俺の殺気を受けてここまで平然とした態度を取る奴は初めてだ。だが、俺の勘が行ってるぜ。あんたは只者じゃないとな」
「だろうね……前に叔母様から聞いた事があるよ。同じ時代に二人の剣鬼が存在する事は出来ない。何故なら剣鬼同士が出会えば必ず殺し合いに発展するとね」
「そういう事だ。じゃあ、殺し合うか?」


レナの言葉にケンゾウは握り締めた仕込み杖の刃を構えた時、レナは盃を床に置いてゆっくりと立ちあがる。
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