不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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蛇足編

バジルの弟

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「ば、馬鹿な!?有り得ん!!何をしている愚か者が!!」
「愚か者はお主の方でござる!!」
「ぎゃああっ!?」


鬼人王に命令を与えていた老人の背後にハンゾウは何時の間にか移動し、手刀を首に叩き込んで気絶させた。一方でレナは鬼人王に視線を向けると、そこにはバジルそっくりの男が倒れていた。鬼人王は完全に破壊され、もう動く事はない。

神器の類を破壊できるのは同じく神器かあるいは聖剣しかない。鏡刀の場合はどちらにも属さないが、リーリスの技術で鍛え上げられた鏡刀はどちらにも匹敵する武器と化していた。


「グギィッ……!?」
「わっ!?」
「まだ生きているようですね。しかし、この傷では……」
「止めを刺すでござるか?」
「いや……」


バジルの弟は辛うじて生きており、レナは倒れた弟に対して鏡刀を構えた。外見はバジルと似ているが、こちらは人語はあまり理解していない様子であり、傷を負いながらもレナの事を睨みつけた。


(あの時と同じだな……)


かつてレナが倒したバジルは自分の配下のゴブリンに食い殺されたが、バジルの弟は仲間すらいない。今まで捨て駒同然に扱われて生きてきたのだろう。そう考えると同情の余地はあり、レナは掌を構えた。


「動くな」
「グギィッ……!?」
「レナ殿!?いったいなにを……」
「その男は……」


レナが回復魔法を施すと、流石に魔人族なだけはあってバジルの弟の傷はすぐに治った。バジルの弟は驚いた表情を浮かべ、身体を起き上げるとレナと向かい合う。


「フゥウッ……!!」
「……もう悪さをするなよ」
「レナ殿、駄目でござる!!」
「この男は帝国の人間です!!放っておけばどんな事をするか……」
「待って二人とも!!」


ハンゾウとリンダはバジルの弟を始末するように告げるが、ティナはそんな二人の前に立つ。彼女は魔物使いであるため、魔人族のバジルの弟とも意思疎通ができた。


「ねえ、君に命令する人はもういないんだよ……だから、これからは自由に生きて良いんだよ」
「ウガァッ……?」
「大丈夫、君を傷つける人はもういないから……ね?」
「…………」


ティナは手を伸ばすとそれを見たバジルの弟は不思議な表情を浮かべ、彼女と手を合わせた。その光景を見てリンダとハンゾウは驚き、一方でレナも鏡刀を手にしながら二人の様子を伺う。もしもバジルの弟がティナに手を出そうとしたら切り伏せるつもりだが、バジルの弟はやがてティナの前に跪く。

魔人族であるアインもミノもティナは従えているため、バジルの弟も彼女の力ならば従えさせる事ができる。だから彼女ならばなんとかできるのではないかとレナは思ったが、本当にバジルの弟さえも彼女は従えさせた。


「ねえ、レナたん……この子が安全に暮らせる場所はないかな?」
「ティナ様、まさか連れて行く気ですか!?」
「うん、流石に他の子みたいに一緒に暮らす事はできないけど、せめて安全な場所まで連れて行きたいな」
「本気でござるか!?その者は帝国の……」
「いいんだ、責任は俺が取る」


ティナの言葉にリンダとハンゾウは反対しようとしたが、レナがそれを遮った。ティナの意思を尊重し、彼はバジルの弟でも暮らしていける環境へ連れて行く事にした――





――レナが考えた末に連れて行ったのは深淵の森だった。この森は一般人は立ち入り禁止とされており、ここならば餌も豊富なので生活には困らない。何かあった時は自分の屋敷に来るように伝え、バジルの弟を解放した。


「ここならお前も安全に暮らす事ができる。もう二度と悪さはするなよ」
「ウガァッ……」
「ありがとう、と言ってるみたい」


バジルの弟を深淵の森まで連れて来ると、彼はレナ達に対して頭を下げた。人語は完璧には理解できないようだが、レナ達が自分のために安全地帯に連れてきてくれた事は理解したらしく、彼等に頭を下げてバジルの弟は森の中に消えた。

まさかバジルの弟を救う日が来るとは思わなかったが、レナは不思議と気分が軽くなった。バジルとの戦闘では最後はゴブリンに止めを譲ったが、今回は後味の悪い終わり方をせずに済む。


「あの者、本当に大丈夫でござるか?もしも森から逃げ出して悪さをすれば……」
「もう、大丈夫だよ。あの子は本当は良い子だと思う。今までしてきた悪い事は全部他の人に命令されていただけだよ」
「ティナ様がそうおっしゃるのであれば私はもう何も言いません」
「大丈夫だって……もしもあいつが何か仕出かしたら俺が何とかする」


深淵の森に去っていたバジルの弟にそれぞれが思う所はあったが、もう彼は森の中に消えたので後を追いかける事はできない。そしてバジルの弟は二度とレナ達の前に現れる事はなかった――






――数年後、深淵の森の奥地にてバジルはたくさんの動物に囲まれて暮らしていた。彼は森の魔物から動物達を守り、そのお陰で動物達も彼に懐く。バジルは動物に囲まれながら幸せそうに暮らす。
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