貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第972話 論功行賞

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――飛行船が帰還した日の翌日、王城には討伐隊の面子が呼び出されて「論功行賞」が行われた。まずは今回の討伐隊の指揮を執ったバッシュが最初に表彰される事になり、彼は国王から直々に宝剣を手渡される。


「我が息子よ、次期国王として恥じぬ功績を上げた。これを受け取るがいい」
「はっ……今後もこの国のために尽くす事を誓います」
「うむ、頼んだぞ」


バッシュは宝剣を仰々しく受け取ると、国王は彼の両肩に手を乗せてこの国の未来を託す。続けて魔導士のマホが前に出ると、彼女に対して国王は新しい杖を差し出す。


「ゴノの街を魔物の脅威からよくぞ守ってくれた、どうか受け取ってくれ」
「ほう、これは見事な……有難く受け取らせてもらおう」


マホは見事な杖を差し出されて満足そうに頷き、膝を着いて杖を受け取った。次に王国騎士の代表としてドリスとリンが前に出ると、二人に対して国王は金と銀の勲章を差し出す。


「我が国の誇る騎士達よ!!これからもこの国の剣と盾として戦ってくれる事を期待しているぞ!!」
「「謹んでお受け取りします」」


二人は頭を下げて勲章を受け取ると、顔を伏せた時に笑みを浮かべる。騎士が勲章を貰う事は非常に名誉な事であり、しかも二人のために金と銀の装飾が施された勲章をわざわざ用意した。これは国王が二人に多大な期待を抱いている事を意味する。

ドリスとリンが下がると今度は討伐隊に参加した黄金級冒険者達が一斉に呼び出され、彼等には報酬金として金貨がそれぞれ100枚ずつ支払われ、更に勲章も与えられた。


「お前達もよくやってくれたな。リーナ、これで父親に負け知らずの武勇伝を手に入れたな」
「えへへ……」
「きょ、恐縮です」
「どうも」


リーナは国王の言葉に照れた表情を浮かべ、フィルの方は緊張した面持ちで受け取り、ガオウは慣れた様子で勲章を受け取る。彼等が終わると次はイリアとアルトが呼び出され、二人は今回の作戦の時に薬方面で色々と支援してくれたと報告を受けているため、二人のために国王は特別な報酬を用意していた。


「我が息子アルト、それに魔導士イリアよ。今回のお前達の功績を認め、既存の研究室の拡張と新しい研究施設の開発を認めよう……本当にこの報酬でいいのか?」
「ええ、お願いします」
「ありがとうございます、父上」


国王の言葉に二人は若干黒い笑みを浮かべ、その二人の反応に国王は引きつった表情を浮かべるが、二人の功績を考えると今更拒否する事はできない。そして最後に国王は討伐隊の中で最も功績を上げた人物を呼び出す。


「では最後に……英雄よ!!前に出てくれ!!」
「……あ、えっと、すいません。僕の事ですか?」


名前で呼び出されたわけではないので最初は誰か分からなかったが、ナイは国王が自分の事を見ているのを知って慌てて前に移動する。この時に何人かが笑ってしまったが、国王は気にせずにナイが跪く前に肩を掴む。


「今回もよくやってくれた。お主はこの国の一番の功績者だ、そのため我が国の最高の勲章を授けよう」
「「「おおっ……!!」」」


国王が用意したのは太陽の模様が刻まれた剣の形をした勲章を差し出し、それを見た者達は声を上げるのを抑えられなかった。この太陽の模様はこの国で親交されている「陽光神」を表し、そして剣はこの王国の象徴である。

この二つの特徴を持つ勲章を与えられた人間は歴史上でも数えるほどしかおらず、この勲章を与えられるという事はナイは歴史上の英雄と並ぶ存在だと正式に認められた事になる。国王が直々にナイの服に勲章を付けると、割れんばかりの拍手が起きた。


「皆の者!!英雄を讃えよ!!」
「「「英雄、万歳!!ナイ、万歳!!」」」
「あっ……ありがとうございます」


皆が自分を讃える姿にナイは焦るが、不思議と悪い気分ではなかった。こうして彼は王国の英雄として誰からも認められた。しかし、彼等は知らなかった。間もなく王国の歴史上最悪の事件が起きようとしている事を――





――論功行賞から数日後、王城に呼び出されたナイは黄金級冒険者のリーナ達と共に会議室に訪れる。中には既に各王国騎士団の団長と副団長が待機しており、マホと彼女の弟子達の姿もあった。そしてリーナの父親のアッシュ公爵も存在し、全員が揃うとアッシュは会議を早速開始した。


「今回、皆を呼び出したのは他でもない。グマグ火山に関する相談のためだ」
「グマグ火山?」
「おいおい、また問題事か?」
「ガオウ、公爵に失礼だぞ!!」


アッシュの言葉にガオウは嫌な表情を浮かべ、そんな彼をフィルが注意する。しかし、アッシュの方は若干申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪する。


「ナイ君達はゴノの護衛の疲労が抜けきっていないところを悪いが……今回は一刻も早く対処しなければならん」
「いったい何が起きたんですか?」
「実は……」


グマグ火山にはかつて火竜が生息していたが、その火竜を討伐した事でマグマゴーレムが大量発生した。マグマゴーレムが増えた理由は火竜が彼等の栄養源である火属性の魔力を独占していたからだが、その火竜が消えた事でマグマゴーレムは現在数を増やし続けている。

今現在ではグマグ火山にはのマグマゴーレムが生息していると考えられ、グマグ火山付近には街や村は存在しないので今まで放置されていた。しかし、アッシュによるとマグマゴーレム達を見過ごす事はできない段階に陥っていた。


「君達が土鯨の討伐に出向いていた頃、我々も火山の調査を行っていた。そして判明した事がどうやらグマグ火山のマグマゴーレムが数を更に増やし続けているらしい」
「おいおい、また増えたのかよ……」
「ですけど、マグマゴーレムはグマグ火山を離れる事はできないのでは?」


マグマゴーレムが溶岩の肉体を維持するためには定期的に火属性の魔力を摂取する必要があり、良質な火属性の魔石の原石が採れる場所からは離れられない。だからこそマグマゴーレムがいくら増えようとグマグ火山から遠くに離れる事はないと思われたが、問題なのはグマグ火山で採取できる火属性の魔石の原石だった。


「グマグ火山は良質な火属性の魔石が採れる事は皆も知っているだろう。そして我々の国に存在する大きな火山はグマグ火山とグツグ火山のみ……しかし、グツグ火山の方は例の事件があってから火属性の魔石が採取できなくなった」
「えっ……」
「我々の生活を支えるには魔石は必要不可欠な代物なのは諸君らも知っているだろう。それに飛行船を飛ばすにも火属性の魔石は必要不可欠な物だ」
「うむ……そろそろ魔石の在庫も心許ないのう」


この世界では魔石を利用して生活を支えている面があり、例えば火を使う料理の場合は火属性の魔石を利用して火を生み出す。ちなみに普通の人間は魔石を扱う事はできないが、専用の魔道具を利用すれば魔石を使って火を起こす事はできる。

一般人以外も魔術師や魔法剣の使い手は火属性の魔石を利用し、特に飛行船などは移動の際に大量の火属性の魔石を必要とする。他国に魔石を流す事もあるため、魔石は国を支えるのに必要不可欠な代物だと言える。


「グツグ火山で今後は火属性の魔石が採取できない以上、今後はグマグ火山から火属性の魔石を採取しなければならん」
「なるほど……だからグマグ火山を独占するマグマゴーレムが邪魔なわけか」
「これまではグマグ火山から魔石を採取する時はどうしてたんですか?」
「雨が降る時期を狙い、鉱夫を送り込んでいた。雨が降る間はマグマゴーレムは姿を隠すからな……だが、グマグ火山はこの一か月の間、一度も雨が降っていない」
「むうっ……それは困ったのう」


グマグ火山の付近には村や街が存在しないため、火山から離れた場所に鉱夫が暮らす集落を作っている。勿論、マグマゴーレムに襲われない距離を測って作り出した場所なので安全なのだが、彼等は雨が降る度にグマグ火山に出向いて魔石の回収を行っていた。

しかし、この一か月の間はグマグ火山に雨が降らず、そのせいで鉱夫も火山の採掘を行う事ができなかった。先の飛行船を稼働させるために大量の火属性の魔石を消費し、そのせいで王国が保管している火属性の魔石も底を尽きそうなため、完全に尽きる前にグマグ火山から魔石を補給する必要があった。


「グマグ火山に生息するマグマゴーレムを掃討し、火属性の魔石を採取する。これが今回の作戦だが、何か意見はあるか?」
「意見と言われても……」
「マグマゴーレムの大量討伐か……確かにそいつは苦労しそうだ」


グマグ火山に生息するマグマゴーレムの数は正確には不明だが、少なくとも百や二百という数ではない。下手をしたら千を超える数のマグマゴーレムが潜んでいる可能性もあり、それだけの数のマグマゴーレムの討伐となると作戦を立てなければならない。

幸運なのはマグマゴーレムの活動範囲が火山限定であるため、危険を感じたら火山から撤退すれば問題はない。だが、マグマゴーレム自体がゴーレム種の中でも厄介な存在で討伐に苦労させられる事は間違いなかった。
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