【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠

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「お嬢様、見て下さい!海が綺麗ですね!」
「そうね!風も気持ちいいわ!!」


 私は今、領地の隅っこにある港町に来ている。隅とは言えど馬車で四時間くらいの所だ。夏の長期休みを利用して、来たいと思っていた。ここにはお父様の母親…私にとっては祖母であるシャリエ・シュバルツが住んでいる。私の大好きなお祖母様と楽しく過ごす為にやって来たのだ。本当は毎年ここに来たいのだが、アリーシャがお祖母様を苦手としているのでアリーシャに合わせて違う避暑地で過ごしていた。


 でも、今年はアリーシャは気にしなくてもいい。もちろん、リュダールも。


「お祖母様お元気かしら?」
「お元気な姿以外を想像出来ませんね…」
「そうねぇ」


 モニカと目を見合わせて笑った。久々にこんなに気楽に笑える気がする。やっぱり来てよかったと思った。


「あっ!お嬢様!屋敷が見えて来ましたよ!!夜になる前に着けて良かったですね」
「そうね!お祖母様が道の整備に力を入れてくれたおかげよね。…あぁ、変わっていないわね!!」
「早くお会いしたいですね!!」
「えぇ」


 私達の乗った馬車は、屋敷の門を潜り見慣れた景色を連れて来た。屋敷自体はそんなに広くはないけれど、外装が素敵でおしゃれなお祖母様らしい。


「う、うわー!!!もう勘弁してください!!シャリエ様あああ!!」
「何をふざけた事を言ってるんだい!?さっさと行きな!!」


 外観に全くそぐわない悲鳴が庭から聞こえて来る。あぁ、お祖母様はお元気らしい。声がイキイキしているもの…。


「シャリエ様…お元気そうですね」
「そうね…犠牲者はアーノルドかしら」
「ですね、きっと」


 アーノルドはお祖母様の護衛騎士だ。明るく元気な人で、見た目もいいから領民、とくに女性にはかなり人気が高い。そんな彼は度々お祖母様に遊ば…いや、鍛えられている。


「もういいじゃないですかー!そんなに狩ったら!!」
「足りないよ!!ティアラが来るんだよ!!そしたらあいつらだって集まってくるさね!」
「だからって今からは無理ですってえぇぇ!!」


 バタバタと足音が聞こえてアーノルドが必死に走って来るのが見えた。
 あぁ、のどかだなぁ。私は変わらないこの光景にほっとした。


 昨日は、とても長い一日だったから。


 リュダールとアリーシャがパーティーに行った次の日は、リュダールとのランチの予定だった。パーティーの夜は帰りが遅くなることもあり、リュダールは予めシュバルツ邸に泊まる事になっていたのだ。


 随分遅くに馬車の音がして、二人が帰って来たのを私は窓から見ていたのだ。
 馬車から降りた二人は、どこかふらつきながらも屋敷に入って来たらしい。


「お二人ともかなり酔っていらっしゃいました」


 モニカが様子を教えてくれたので、彼女を下がらせ少し様子を見に行こうと部屋を出た。すると、割と大きな声で話している二人の会話が聞こえて来る。


「どうして?私は婚約者になれないの!?」
「そんな事ないよ、大丈夫だから」
「何が大丈夫なの!?このままじゃ私達は結ばれないのに!!」
「結ばれるから、いい子で待っててくれ」
「親が決めた婚約なんて不幸しか生まないのよ!!愛し合ってる私達が一番相性がいいのに!!」
「そうだな、愛し合ってるからな」


 どうやらアリーシャは興奮しているらしい。声がだんだん啜り泣きみたいになって来た。
 親が決めた婚約は不幸しか生まない…の一言にもざっくり刺された気分だが、私はその後の一言に凍りつく。


 愛し合ってるからな…って…どう言う事?誰と誰の話なの?


「もう!リュダールはいつもそう言うばっかり!!私の気持ちなんてわからないのよ!!」
「あっ!アリーシャ!」


 バタバタと走るアリーシャを追って、リュダールが廊下を走っていく。そしてそのまま、アリーシャの部屋に二人で入った。数人のメイドが慌てて水などをアリーシャの部屋に運んだがすぐに追い出されている。


「俺が落ち着かせるから、君達はもういいよ。遅くにすまない」
「いえ…何かありましたらベルを鳴らして下さい」
「すまない、水をありがとう」


 開いたドアの隙間からリュダールの声がして、メイド達はそっと部屋を離れた。変わらずドアは開いているが、このまま見に行くべきか…それとも…。


「私を愛してるって言ったじゃない!!嘘だったの!?酷い!!酷いわ!!」
「嘘じゃないって。本気だから。だから、もう少し待つんだ」
「ずっと待ってるわよ!!もうっ…ずっと…」


 声が聞こえなくなり、心配になった私はそっとアリーシャの部屋を覗いた。
 そこには…アリーシャの肩を抱き頭を撫でるリュダールが…いた。


「大丈夫、絶対上手くいくから」


 私は声も出せずにただ呆然とその光景を見るしか無かった。





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