【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠

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29 リュダール視点

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「……ティアラは今、海に行っている。会いに行っても良いが、婚約者だった頃の距離は許さない」
「っ!はいっ!!ありがとうございます!!」


 シャリエ様がどこか呆れた様に教えてくれた。お義母さんはこめかみを押さえて目を閉じていた。でも、許可が出た!!ティアラに会える!!俺はすぐさま海に向かった。


「海…に何をしに行ってるんだろう…」


 俺の両足が早く早くと急かす様に早く動く。すると漁師たちが大きな声で話をしているのが聞こえた。


「謎の美女が釣りしてるからって最近はあの界隈は人で溢れてるらしいぜ!」
「あぁ、今度はスズーキン狙うってお付きの女が言ってたな!」
「ははっ!あの細腕で上げられるもんか!」
「いや、リーンが付いてるからな!わかんねぇぞ!」


 お付きの女…謎の美女…。一瞬でティアラの事だと思った。俺はすぐに場所を聞きに行こうとしたが、その後で出て来たリーンって誰だ。ティアラはそいつと釣りをしてるって事か!?


「ほらほら、今日も男どもがお近付きになろうと列をなしてる!」
「しかし相手にされねぇんじゃしょーがねーよな!」
「そりゃ隣にリーンがいたら仕方ねぇよ!!」
「あの色男には勝てねぇよな!」


 わっはっは!!と大声で笑う漁師の声が耳に絡みついて離れない。ティアラが…もし…いや、考えたくない。


「…確かめないと」


 俺は走り出した。あの男達についていけば、ティアラのいる場所に辿り着ける。ぞろぞろと彼らが歩くのを急かしてやりたい気持ちになりながら、どこか見たくない気持ちも生まれて。


「勘違いであってくれ…」


 無意識にそう呟いた。彼らが見ている先に視線を移せば、ずっと焦がれていた愛しい彼女がはしゃぎながら歩いていくのが見える。お付きの女とはやはりモニカだ。そして、その先には真っ赤な髪の男がいて、魚を釣り上げている最中だった。


「ティアラ…やっと…」


 会える、と思った矢先…ティアラとその男が笑顔で何かを話している。ここじゃ声が聞こえない。俺は回り込んで会話もかろうじて聞こえる場所に移動した。近付くにつれ、聞こえてくるずっと聞きたかった声。


「ティアラ様!やりましたよ!ターイです!」
「くっ…凄い力…っ!!」
「俺も手伝います!!」
「お願いします!」


 えっ…と思った瞬間に、男は慣れたようにティアラの背後に回りその手をティアラの手に重ねた。ドクンと心臓が跳ねる。


「ティアラ様!行きますよ!これかなりデカいですよ!」
「絶対釣り上げるわ!!」
「じゃあ、せーのっ!!!」
「きゃあっ!!」


 バランスを崩した二人はそのまま倒れ込んだ。男はティアラの頭を庇って抱き込み、自分が下になるように上手く受け身を取った。


「あっ…!」


 思わず声を出してしまう。アクシデントだから仕方ないとは言え、ティアラはあの男に抱き締められていた。腹の奥からぞわりと湧き出る黒い感情が俺を絡め取っていく。ティアラは魚の心配をしているが、頼むからそいつから早く離れてくれ!!ギリギリと奥歯が軋んだ。


「わぁっ!!リ、リーン様っ!!あっ!!すみません私…!!」


 聞こえた声にふと我に帰り、二人を見ると…。


「な…んだ…あれ…」


 俺は呆然とそれを見ていた。
 はっ…はっ…と荒くなる呼吸を落ち着かせようと胸に手を当ててみても意味がなかった。
 二人は頬を赤く染めて、まるで想いを告げあった直後みたいに見えた。


「…嘘…だろ…」


 錆びた刃で何度も切り付けられたような、ぐりぐりとそこを抉られる様な…そんな思い。一気に煮えたぎる嫉妬心がぐつぐつと腹を巡る。


「あ……」


 笑い合う二人を見るのが辛くて目を逸らそうとした時、ティアラはこんな思いをずっと抱えていたのかと今更気付いた。俺は、ただのアクシデントでもこんなに痛いのに…。隠れて…偶然じゃなく必然にしていた自分は…。


「最低だ…俺……」


 謝って済むか…?いや…済まない、済ましちゃいけない。でも…離れたくない。ダメだ、それは俺の要望だ。ティアラの希望を最優先にしなきゃ…でも…会いたい…話したい…違う、ダメだダメだ!!
 せめぎ合う二つの思いが見え隠れする。


「俺に選択肢なんてない」


 ティアラはこの痛く苦しい気持ちをずっと持ったまま、俺にもアリーシャにも気を配って生活をしていた。ならば、俺は…?ティアラの為に何ができる?


「…話す事さえも…嫌がられるかな…」


 モニカと共だって歩いて行くティアラをちゃんと見たいのに涙が浮かんでそれも出来ない。


「ほんと…俺…情けね…」


 ずるずると木の下に座り込んだ俺は雲一つない空を見上げるしか出来なかった。燦々と照り付ける太陽に、「馬鹿は燃えてしまえ」と言われている気がした。


俺に傷付く資格なんてないのに。



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