生まれ変わった大魔導士は、失われた知識を駆使して返り咲きます。

三歩ミチ

文字の大きさ
34 / 73
2 真相解明! 砂漠の行き倒れ

2-4.聞き込み調査

しおりを挟む
「その誘拐事件のことって、サラは、詳しく知ってる?」
「全然。行き倒れた人が見つかったときに、あれは誰かの家の家出した息子だった、とか噂になるだけ」
「……そう」

 サラの話を聞いていると、それは連続した誘拐事件であるようにも捉えにくい。

「誰に聞きに行ったらいいのかしら……」
「その……砂漠でその人たちを見つけるのは、警備の人たちみたいよ」

 この王都に入ってくる時、門のところで会った警備の兵を思い出す。なるほど。彼らの仕事には、王都周辺の砂漠の見回りも入っているのか。

「聞きに行ってみる?」
「そうね」

 私が頷くと、ニコの視線はサラに向いた。

「俺たちは、警備の人に聞きに行くけど……どうする? 嫌なことを思い出すなら、一緒に行かなくても……」
「ううん、行きます。あたしが発端なのに、二人に任せて帰るなんて、さすがにできないから」

 サラの目尻はまだ赤いものの、涙は乾き、すっきりした笑顔を浮かべている。気丈な女性だ。

「でも、歩いて行くと暑いから、飲み物買っていかない? 美味しい果実水があるのよ」
「いいわね。知りたいわ」

 軽やかに歩くサラの後を追うと、小さな店に出た。店先に、色とりどりの果物が付けられた水が並んでいる。

「おすすめで良い? えーっと、これを三つ」

 そのうちのひとつを指して、サラが注文する。店主が要求した料金を、サラは懐からさっと出し、直ぐに払った。

「え、俺たちの分は出すよ」
「ここは出させて。おじさんほどじゃないけど、私からのお礼」

 ニコの申し出を断り、私とニコの手に、受け取った容器を押し付けてくる。

「飲んでみて」
「……あ、リンゴの匂いがする」

 口に含むと、淡いリンゴの香りが、すっと抜けて行った。残った爽やかな甘みも、ふわっと消えて行く。

「不思議な飲み物だね。見た目はただの、水なのに」

 ニコも、容器の中を見ながら、そう感想を述べる。太陽に熱されて火照った体に、リンゴの香りと甘みは心地よく、皆、あっという間に飲み干してしまった。

「美味しかった。初めて飲んだよ、ありがとう、サラ」
「お礼なんて。あたしの方こそ、もっとお礼を言いたいのに。おじさんもそうだけど……あたしの抱えた問題に、真面目に向き合ってくれた人って、そんなにいないから」

 ニコとサラはすっかり打ち解けて、あれこれ会話を交わしながら歩く。よく喋る二人は、会話のテンポが合うらしい。口を挟むのも興醒めな気がして、私は景色を眺めながら、少し後を歩いた。
 誘拐されて、砂漠で死んで発見される事件が、本当にあるのだとしたら。どんなことがあって、そんな結果に終わるんだろう。もしこの肉体がその被害者だったとしたら、どんな辛い経験を、したのだろうか。
 私には、肉体の記憶は全くない。今はまだ想像する手がかりは何もなくて、同情すらできないが……真相を解明して、その死を悼んであげたいと思う。

「行き倒れ? まあ、確かに時々、そういう奴はいるよ。可哀想に、な」

 ニコが声をかけたのは、門のところにいる警備員である。暇そうな時を見計らって話しかけたので、話を聞くことはできたが、彼自身もそれほど多くのことを知っているわけではなさそうだった。

「彼らが行き倒れている理由を、知りたくって」
「砂漠だぜ? 偶にいるんだよ、甘く見て、何の準備もしないで出て行っちまう奴らが。俺たちだって見かけたら止めるけど、よくわからねえが、その隙を縫って砂漠に出てるんだろうなぁ」

 軽快な口調の青年からは、全く危機感が感じられない。門にいる自分たちが見ていないのに、複数の人が砂漠で行き倒れているのなら、もう少し、深刻に受け止めても良さそうなものだ。

「何にせよ、俺は担当じゃないから、噂話に毛の生えた程度のことしか知らない。その辺りのことは、俺じゃなくて、砂漠のパトロール部隊に聞いてくれ。あっちに待機場があるから」
「……わかりました」

 担当ではないという彼は、雑に手で示し、私たちにそちらへ行くよう促す。

「……思っていたのと違う反応だったわ」
「ああなの。行方不明になって、暫くして砂漠で死んでいるのが見つかるなんて、おかしいと思わないのかしら」

 サラは唇を尖らせ、そう文句を言う。

「なのに、見つかった人の家族が抗議に行っても、ああやって流されるのよ。これから行くパトロール隊だって、きっと同じ」
「……どうしてかしらね」
「知らない。皆、いろいろ不満を伝えるのに、全然改善されないって。お客さんの中には、いつも文句を言っている人もいるわ」

 王都が砂漠化し、人々の今までの生活は全て崩れ落ちた。内部からの不満は多く、それをひとつひとつ取り上げるわけにもいかないのだろう。
 辛い過去を負ったサラには同情するが、彼女の言い分が、果たして本当にあり得る話なのか。それもわからない。

「でも、聞いてみないと、わからないから。行こう、二人とも」
「……そうね、ニコ」
「はーい」

 砂漠パトロール部隊の待機所は、そこから暫く歩いたところにあった。

「うわ……」

 最近の砂出しの働きにより、周囲の砂はない状態ではあるが、外には乱雑に物が積まれ、窓や壁には砂が張り付いている。手入れがされていない印象が強い。
 それだけではない。扉の外から声をかけても、ノックをしても、誰も出て来ない。

「開けていいと思う?」
「いいと思うわ」

 不安げなニコを私が後押しし、彼は砂だらけの取っ手に手を掛ける。ぎし、とそのまま壊れそうな不穏な音がして、ゆっくり、扉が開いた。

「こんにちは~……」

 薄暗い部屋の中を、ニコが覗き込み、恐る恐る声をかける。

「なんだ? お前達」
「ひぃっ!」

 野太い声は、室内からではなく、背後から掛けられた。私たち三人は、揃って飛び上がる。
 振り向くとそこには、大きな荷物を背負い、ゴーグルを掛け、砂まみれの男が二人。今まさに砂漠から帰ってきたという風情で、立ちはだかっていた。

「あれぇ? 『オアシス』のサラちゃんじゃん」

 片方の男がゴーグルを上げ、その緑の瞳でサラを見る。隣にいるごつごつした男性と比べると、細身でしゅっとした印象だ。

「あ、こんにちは」
「どーしたの? こんなむさ苦しいところに来たって、何にもないよ」
「パトロールの方々に聞きたいことがあって。スミスさん、パトロールのお仕事をされてたんですね」

 サラは、この細身の彼と知り合いらしい。青年は頷き、帽子を取ると、金髪が現れた。

「まあねー。わざわざこんな仕事してるって、外では言わないからさ。俺たちだって、悪く思われてるのは、知ってるし」
「スミス。外で滅多なことを言うんじゃない。……話は中で聞く。汚いところだが、入れ」

 対して、まだゴーグルを掛けたままの、体格の良い男性が、低い声で言う。熊さん、みたいだ。昔、どこかの森の中で、彼みたいな体格をした、毛むくじゃらの獣を見た。
 大きくて、のっそりしていて、可愛いと思ったけれど、ずっと見ていたら牙をむき出しにして魚を獲って食べていた。野蛮なのだ、あの野生の獣は。

「イリスちゃん、入るよ!」

 彼の後ろ姿を熊と重ねながらぼんやり眺めていたら、サラに背を叩かれる。

「あ、うん」

 私は皆に続き、待機所へ入る。足を踏み入れると、地面がじゃり、と砂の音を立てた。室内なのに、まるで外みたいに砂が積もっている。

「……けほ」

 喉がいがらっぽくて、思わず小さく咳をした。なかなかな環境である。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...