生まれ変わった大魔導士は、失われた知識を駆使して返り咲きます。

三歩ミチ

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2 真相解明! 砂漠の行き倒れ

2-5.スミスと熊さん

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「まあ、座れ。それで? どういった用件だ」

 熊のような大男に促され、私たちは、点在する椅子に腰掛ける。座った尻の下で、ざら、と砂の感触。
 大男は、紺色のレンズが鈍く光るゴーグルを、ゆったりした動作で外す。すると、二重で存外ぱっちりとした目元が現れた。茶色の、垂れた太眉が優しげな印象だ。次いで口元を覆うスカーフを下ろすと、茶色のヒゲが現れる。熊のような彼は、顔を明かしても、やっぱり熊のようだった。

「砂漠で行き倒れている人たちについて、聞きに来たんです」

 こういう時に口火を切るのは、さすがのニコである。すると、熊さんは、目を鋭く細めた。途端に、威圧感が増す。

「ああ、そういう系? あのね、サラちゃん。それに、おふたりさん。知り合いが行き倒れたんだか何だかしらないけど、俺たちを責めても、どうにもならないんだよ。俺たちはただ、仕事で外をパトロールして、行き倒れた彼らを、拾って帰ってきているだけなんだ」

 ぴりぴりした雰囲気を漂わせる熊さんと私たちの間に口を挟むのは、もうひとりの細身の男性、スミスである。物腰柔らかな態度ではあるが、その言い方には、有無を言わせぬものがある。

「それに、死んだ人は帰って来ないよ。俺たちだって、砂漠で亡くなったの死を悼んでるんだ。気持ちだけ……ほら、あそこに供えてあるでしょ」

 スミスが示すのは、砂漠に最も近い側にある小窓。そこには、新鮮なリンゴと、コップに注がれた透明な水が並べて置かれている。

「俺と君たちは、亡くなった人たちを悼む点では、同じ。……悲しいよな、砂漠で死んじまうなんて」

 スミスが目を伏せると、思いの外長い睫毛が強調された。
 彼は本気でその死を悼んでいるのだとは思うが、同時に、行き倒れた人々の死の責任を彼らに求める人々が多いのだろうと想像させる。立て板に水の話しぶりからも、彼はこの話をし慣れていることが窺える。
 知り合いが砂漠で見つかり、行き場のない思いを抱いている人が、ここへ来て、こんな風に話されたら、どうだろう。きっと、自分の思いと重なる部分があって、何も言えずに帰ってくるのではなかろうか。
 スミスの思惑通り、現に、サラとニコは沈痛な面持ちをしている。

「……違うんです。私たちは、亡くなった人について何か言いに来たんじゃなくて、詳しい状況を知りたいんです」

 私の発した言葉は、自分が思っているよりも、部屋に響いた。スミスが片眉を上げ、熊さんが「ほう」と息を吐く。

「どうして砂漠で行き倒れる人がいるのか、知りたいんです。さっき門の警備の方にも話を伺ったんですが……彼らの目をかいくぐって、わざわざ砂漠で死にに行くような人が、そういるものでしょうか?」
「どうして気にするの? そういうことを調べても、金にはならないよ」

 私の言葉は、スミスにばっさり切られる。金銭を目的にした探偵なら、ここで躊躇うだろう。

「お金が目的じゃないので。ただ……ここにいるサラが、砂漠で行き倒れている人たちの話を聞いて、心を痛めているので。私はそれを、解決したいだけです」
「サラちゃんのため?」

 スミスの視線が、私からサラに移る。サラは、こくりと頷いた。水色の髪が揺れる。

「この人たち、本当に、あたしのためにここまで来てくれたんです」
「それで? 何、行き倒れを解決する、って?」

 スミスの声に、小馬鹿にした調子が混ざる。サラがしゅんと眉尻を下げると、熊さんが「スミス」と咎めるような声を上げた。

「まず先に、お前たちに言っておく」

 私たちひとりひとりを、ゆっくり見ながら、熊さんは低い声で続けた。

「俺たちは、どこでどんな奴が見つかったかを、言うことはできねえ。それを聞きにくる奴はたくさんいるが、俺たちが砂漠で見たものは、部外者には口外できない。そういう決まりだからだ」

 仕事の上で知ったことを、人に話してはいけない。王城から仕事をもらっている人の多くは、そうした決まりに縛られている。破ると、罰を与えられるのだ。
 私はそちら側にいたこともあるので、深く頷きながらその言葉を聞いていたが、ふとサラを見ると不服そうに頬を膨らませていた。

「教えてくれれば、規則性とか、そういうのが見つかるかもしれないのに」

 頬を膨らませるだけでなく、サラは実際にそう反論した。彼女には、その辺りの感覚が、今ひとつ理解できないのだろう。

「それが俺たちの仕事なんだよ」
「サラ、この人達は、王家に雇われた警備の方々なのよ。言えないことは言えないの」
「なんで……?」
「なんでも」

 これ以上サラに何か言っても、彼女は納得しないだろう。私はサラとの会話を切り上げ、熊さんの方を向いた。

「私たちは、砂漠で不本意に行き倒れる人がいるのなら、それを減らしたいんです。だから、話せる範囲でいいので、話を伺えればと」

  私たちは、この件について、何も知らない。話せることが少しでもあるのなら、それを聞いた方がいい。

「お嬢ちゃん、お前、なかなか物がわかってるじゃねえか。名前は?」
「イリスです」
「イリス、な。俺はヴァンだ。よし、わかった。話せることは話してやるよ」

 熊さん……もとい、ヴァンはそう言ってにかっと笑った。

「何、珍しいね、ヴァン」
「俺だって、不本意に行き倒れる奴が減るのなら、その方が良いからな」
「まあ、そうだね。亡くなった人を見つけた時ほど、悲しい気持ちになることはないし」

 スミスとヴァンは顔を見合わせて頷き、軽く身を乗り出した。

「何を知りたいんだ?」
「そうですね……」

 思いついたいくつかのことを質問し、彼らは問題のない範囲でそれに答える。わかったことはいくつかあった。
 行き倒れている人は、外から来たらしい旅人と、内から出て行ったらしい王都の人に限られる。外から来た人の情報がないのは当然だが、内から出て行った者でも、門での記録に残っていないことの方が多い。そのうち何人かは、事前に行方不明者として届け出があった者であった。
 その期間や人数には、特に規則性はない。ただ、大体行き倒れた人が見つかるのは、王都の西側だという。

「最寄りの街は、西側にあるからな。そっから来てるんだろう」
「中からの人は……記録がないってことは、西側の壁を乗り越えているのかしら?」
「いやぁ……あの壁を乗り越えるのは無理だろう。梯子なんて、いくら壁際でも目立つ上に、魔法だけじゃそんなことできねえし」

 ヴァンの言葉に、私とニコは目配せをした。ニコのように空を飛べるのなら、壁を越えることも容易だ。そうした魔法の使える人が、いないとも限らない。

「俺たちが言えるのは、そのくらいだよねえ。そりゃ、気をつけて見てるけどさ。砂漠をふらふらしてる旅人は見たことあるけど、王都の住人が、砂漠を不用意に出歩いてるのは見たことがない」
「そうだな」
「そうですか……イリス、聞きたいことは聞けた?」
「ええ。参考になったわ」

 そう返事をすると、ニコは笑顔でスミスとヴァンに向き合う。

「貴重なお時間をいただいて、ありがとうございました」
「おう。まあ、頑張れよ」
「はい」

 私は頷き、立ち上がる。服に付いた砂を軽く払った。

「サラちゃん、またお店でね」
「はい。お待ちしてます!」
「ああ。もしお店でお会いすることが会ったら、ぜひお礼をさせてください」

 ニコが言うと、スミスは目を丸くし、そのあと「おっ」と嬉しそうな表情をした。

「なら今度行くよ、ヴァンと一緒に」
「俺も行くのか?」
「そうだよ。『オアシス』の料理って旨いし、奢ってくれるなら行かない手はないね」

 ゴードンが私たちに「お礼」をしてくれたのと同じ。時にそうした心遣いは、人との距離を縮めるらしい。私たちはゴードンの姪の悩み事を解決するために行動しているし、スミスの剣呑な雰囲気はすっかり消え失せた。

「じゃ、またいつか」
「はい」
「失礼します」

 口々に挨拶をし、私たちは外へ出た。吹いてきた風が、不思議なほどに新鮮なものに思える。

「良い人たちだったね」
「部屋の空気は悪かったわね。砂埃がひどくて」
「イリスちゃん、けっこう言うね……」

 サラが笑顔をひきつらせた。
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