生まれ変わった大魔導士は、失われた知識を駆使して返り咲きます。

三歩ミチ

文字の大きさ
45 / 73
2 真相解明! 砂漠の行き倒れ

2-15.いくつかの進展

しおりを挟む
「本当に、一晩中、張り込んでくれたの?」
「まだ俺には、寝ながら魔法を使うってことはできないからさ。しばらく続けてみるよ」
「すごい……ありがとう。ここまでしてくれるなんて、本当に嬉しい」

 オアシスに向かうと、サラが出迎えてくれる。ついでに昨晩の首尾を伝えると、彼女は驚いた様子だった。
 私とニコも、サラの話には、半信半疑である。私のルーツに繋がるかもしれないという利己と、私たちの行動自体がサラの気持ちを変える可能性もあるという予測があって、実際に夜間の見張りに乗り出したわけだ。
 サラも同様に、私たちの話を、半信半疑で受け取っていたのかもしれない。本当に一晩中、張り込みなんてするのかな、みたいに。

「はい、これ、ご予約のお弁当です」
「ありがとう」
「あの……」

 サラが、ニコの服の袖を軽く引く。ニコが少し屈むと、その耳元に口を寄せ、小声で言った。

「嫌じゃなければ、明日からは、あたしにお弁当を作らせて。お金受け取ってるの、申し訳ないから」
「いや……いいよ別に、どっちみちご飯は食べるわけだし」
「でも……やっぱり、気が済まないの。二人が、張り込みをしている間だけ」

 ニコが、こちらを見る。

「じゃあ、お願いしようかしら」
「……お店に悪くないかな」
「いいの。店主に断っておくわ。最近料理を作らせてくれるようになったから。まだ始めたばかりだし、味は良くないかもしれないけれど」
「食費が浮くならありがたいわよね」

 それに、サラが気にするのなら、好意を素直に受け取った方が良い。

「その分お昼に、お金を払ってしっかり食べましょ」
「そうだね。サラ、席は空いてる?」
「ああ、ならこちらへどうぞ」

 今日の私たちの昼食は、食後に果実水とデザートを付けた、幾分か豪華なものになった。

「またのご来店を、お待ちしております」
「じゃあ、またね」
「また明日、サラ」

 見送るサラにそう言うと、彼女はにこっと笑った。その屈託のない笑みは、恐らくは、ただの客には見せないもの。心を許してくれているのだと思うと、嬉しくもあり。

「今夜も、ちゃんとやらないといけないわね」

 そんな、責任感も増す。

「そうだね」
「頑張るのはニコなんだけどね」
「そんなことないよ。イリスが隣にいるから、俺は一晩中魔法を使っていられるわけだし」

 事実上、ニコが魔力を使いすぎた時に、私から吸い取ることで、彼は自分の力を人並み以上に伸ばすことができている。普通の人は、一度魔力を使いすぎたら、自然回復をしばらく待たないといけない。
 この体は魔法を使えない分、どうも多く魔力を保有している気がする。私自身は魔力を感知できないので推測でしかないが、何にせよ、ニコの魔法に私が貢献しているのは間違いない。

「それはそうね」

 ニコの分析は正しいので、私は謙遜せず、肯定した。私も前の肉体で、自分みたいな魔力の補給法があれば、もっと爆発的な威力の魔法を使えていたと思う。各領どころか、王都全体に広がる規模の魔法が。

「戻って仮眠をとりたいわ、そろそろ」
「……そうだね」

 日はまだ高いが、先ほどに比べると、やや傾いた気がする。夜に備え、部屋で眠ろう。私たちは弁当を手に宿に戻り、そのままベッドに直行した。
 そして、夜。教会に向かい、挨拶をして、鐘の間に上がる。鐘の間はしっかり腰を落ち着けて座れ、西の壁も少し遠いが、よく見える。弁当を食べ、ニコは魔法を使い、私は星を見る。

「……この間と比べると、間隔が少し長くなったわ」
「どのくらい?」
「そうねえ……」

 床に線を引いて長さを比較すると、ニコはその違いを確認し、私から魔力を補給してまた壁を見る。朝になると、挨拶をして、宿に戻って昼まで眠る。
 翌日からは弁当が、サラのお手製に変わった。サラ自身は謙遜していたが、美味しく、見た目も可愛らしい弁当。
 ニコの空気の膜に引っかかる人はなく、ただ、魔法の持続時間だけが延びて行く。そんな夜が、この後暫く、続くことになった。

「おはよ、ニコ。……どうしたの?」
「いや、ちょっと首が痛くてさ」

 首元を押さえるニコの手のひらの下は、たしかに薄っすらと赤く痣になっている。何かに打ち付けたような形だ。

「そんなところ、ぶつけるものなの?」
「いろいろあってね」

 そうそう、近頃私は、夢の中で大蛇を撃退することを覚えた。締め付けられる尻尾を掴んだり、蹴ったりして、追い払うのだ。おかげで寝覚めは、ずいぶん良くなった。
 昼過ぎに起きると、初代国王の像の広場へ向かう。

「あっ、こんにちは、イリスさん!」
「ちょっとリック、途中で放り出すなよ!」
「ジャックもちゃんと挨拶しろよ!」
「今日は二人とも、来てたんだね」

 王都は暑いし、空気も乾燥している。池に溜めた水は、毎日少しずつなくなってしまう。今のところ水を自動的に足す術はない(あるけど、魔力の消費量がその効果に見合わない)ので、毎日顔を出して水を足すことにしている。
 オットーがくれた資材を使い、池の周りに、バランス良くベンチを配置できた。私も試しに座ったが、高さもちょうどよく、長時間座ってもさほど疲れない。細かいジャックと勢いのあるリックは、互いに口出しし合いながら、うまくやってくれている。

「日除けの形を考えたんです」
「リックじゃなくて、僕がね」
「俺だって意見を言っただろ!」
「色について、だけね」

 ジャックが差し出した日除けの案を、私とニコは覗き込む。木で枠を作り、そこに布をかける形だ。

「なるほど。手入れがしやすそうね」
「お店の庇を参考にしたんです。神父様に伺ったら、端切れの布ならけっこうあるってことだったので、縫い合わせてもいいかなと思いまして」

 ニコの魔法に、リックとジャックも加わって、軌道に乗り出した作業は、どんどん進んでいる。

「ただ、僕は裁縫はできないんですけど。リックは、もちろんだし」
「うるせえな、余計なこと言うなよ。俺だって」
「裁縫できるの?」
「できないけど」

 ジャックの言うことに、リックはいちいち噛み付く。ニコが「俺、できるよ」と口を挟むと、二人は「えっ」と顔を上げた。

「なんでニコラウスさんが、裁縫できるんですか」
「田舎でちびたちが服を破いたときなんか、縫ってやってたからね。大したことないよ」
「すげえ……」
「私も、やってもいいわ。夜は星を見るだけだから、合間に縫うくらいなら」

 裁縫なんてしたことないけど。ニコの教えを受けながら、私は魔法を使う彼の隣で、指に針を刺しながら縫い物を進める毎日となった。
 設置したい日除けは何箇所かあり、それぞれに大きい。教会で端切れをもらい、目的の大きさに合わせて縫って行く。怪我してばかりで気の遠くなるような作業だったが、最終的には、それなりの速さで縫うことができるようになった。

「……最初の倍くらい、保つようになったわね」
「俺、自分でもそんな気がする。わかんないけど、節約できてるってことだよね」
「そうだわ」

 ニコが、魔力を節約する感覚を、なんとなく掴めるようになり。空気の膜を張っていても、喋れるくらいの余裕が出てきて。

「あれ、もう縫い終わったの?」
「ええ。これで最後だわ」
「すごいじゃん。……引っ張っても、縫い目も緩まないし」

 私が、縫い合わせる技術を向上させ。縫うときに、怪我もしないようになって。

「このまま何も起こらなくても、なんだか満足だね」
「そうね。得たものはあったわ、既に」

 私たちがそんな気持ちになりかけていた、そのとき。

「……あれ?」
「どうしたの、ニコ」
「今、空気が揺れた。何かが壁を通った気がする」

 リラックスして座っていたニコが、片膝をついて立ちかけた。

「行こう、イリス」
「……そうね!」

 ニコに手を引かれ、私も夜空へ飛び出す。そうそう、ニコが私を抱えなくても、触れていれば飛べるようになったのも変化のひとつだ。
 生ぬるい風が頬を切り、私たちの体は、迷いなく西壁の一点に向かって行く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...