老聖女の政略結婚

那珂田かな

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第二章

初対面

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カルディアの王都は坂と階段の街だった。石畳の道を馬車がぎしぎしと登るたび、遠くの王宮が少しずつ近づく。白亜の壁は朝日を受け、まるで氷山のように冷たく輝いていた。
 やがて大きな中庭に入ると、花壇の奥に重厚な宮殿の正門がそびえる。衛兵たちが敬礼し、扉がゆっくりと開いた。
 セラはリゼットに支えられ、ふらつく足を叱咤して馬車を降りる。宰相ランベールの先導で王宮の中へと進んだ。
 広間の床は磨き上げられた黒大理石。両脇には鎧姿の近衛兵が並び、その中央に一人の若い男が立っている。
 濃紺の正装に金糸の刺繍。漆黒の髪と逞しい体躯。わずかに伏せられた瞼の下から、金の瞳が真っ直ぐにセラを見据えていた。
「エドモンド陛下」
 ランベールが恭しく頭を下げる。
 セラの足は緊張と疲れで震えていたが、聖女の威厳をかき集め、背筋を伸ばす。裾を持ち上げ、静かに一礼した。
「初めまして。太陽神ソレイユにかつて仕えし聖女、エルダリス王女セラフィーヌ・ド・エルダリスと申します」
 国王は一歩前へ進み、落ち着いた声で応える。
「カルディア王、エドモンドだ。遠路の旅、さぞお疲れだろう」
 若さに似合わぬ穏やかな口調。しかしその瞳には、年齢を超えた老成と、どこか距離を置く冷淡さが宿っていた。
 感情を映さぬ視線に、セラの胸がわずかに締めつけられる。
「お気遣い、痛み入ります」
 それだけの言葉を交わし、互いに礼を終える。
 エドモンドは「では」とだけ告げ、側近と共に去っていった。
 その背中を見送りながら、セラは小さく息をつく。
(あれが“あのお方”)
 オスカーが言った「一人にしないでほしい」という言葉の意味は、まだ分からない。
 ただ、あの瞳の奥に潜む孤独の影だけは、確かに見えた気がした。


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