機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット

身命を賭して

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「あ……」

 しばらくたって僕は泣き止むと、そっと背中を撫でる感触があった。

 それは、ゴツゴツしていて、冷たくて、でも……温かくて……。

「大丈夫、ですか……?」

 見上げると、一切表情を崩していない少女の顔があった。
 でも、そのまなざしは、誰よりも……四年前、村を一緒に飛び出した時に見たカルラよりも温かった。

「す、すいません、伯爵様……」

 僕は急に恥ずかしくなり、慌てて少女から離れようとすると。

「“ライラ”」
「……はい?」
「これからは、“ライラ”と呼んでください」

 そう告げると、表情は変わらないけど少女はそっと顔を俯かせた。

「え、ええと……さすがに伯爵様にそのような……」
「お願いします」

 すると今度は、少女が深々と頭を下げる。
 その身体を持ち上げようとするけど……ピ、ピクリとも動かない……。

「……ライラ“様”、せめてこう呼ばせてください……」
「っ! は、はい!」

 ガバッと勢いよく顔を上げ、少女……ライラ様はジッと僕の顔を見つめた。
 ……もちろん、表情は同じだけど。

 でも……今、僕にはライラ様のお尻からブンブンと揺れる尻尾の幻影が見えてるけど、ね……。

「そ、それで……私の傍にいていただけ、ますでしょうか……?」

 打って変わり、不安そうな声で尋ねるライラ様。
 尻尾の幻影も、今では下に垂れ下がってしまっているように見える……。

「こんな僕で、よろしければ……」
「! は、はい!」

 うん、ライラ様の尻尾は今、最高潮に振り切れております。

 僕は居住まいを正し、ライラ様の前に膝をつくとこうべを垂れた。

「このアデル、身命を賭してライラ様のお傍に……」

 そう告げると、ス、と差し出された鋼の右腕に、僕は誓いの口づけをした。

「ハンナ! 見ましたか!」
「ええ……! お嬢様、よろしゅうございました!」

 無表情ではしゃぐライラ様と、涙ぐむハンナさん。
 その光景は素敵、ではあるんだけど……部屋の中がガシャガシャと鳴り響いているな……。

 あれ? そういえば……。

「す、すいません。ライラ様はどうしてそんなにその腕や脚を見事に扱えているのですか?」

 僕は気になり、ライラ様に尋ねる。
 だって、いくらなんでもそんな簡単に自由に扱えるなんて……。
 さっきの、僕の顔を両手でつかんだり、優しく背中を撫でたり……こんなの、かなり操作が難しいと思うんだけど……。

「……なれるまで大変でしたが、必死で頑張りました」
「はい。アデル様がお眠りになられている間、お嬢様はそれはもう必死で特訓されていましたので」

 成程……僕が寝ている一か月の間に、かあ……。

「へあ……!?」
「ライラ様……頑張りましたね……」

 僕は、気がつけばライラ様の頭を優しく撫でていた……って!?
 な、何やってるんだよ僕!? 相手は伯爵様なんだぞ!?

「も、申し訳ありません……!」

 僕は慌てて手を引っ込め、ライラ様に深々と頭を下げる。

「い、いえ……う、嬉しかったです……」

 そう言うと、ライラ様がプイ、と顔を背けた。
 表情は変わらないけど、その頬と耳はほんのり赤くなっていた。

「ふふ……良かったですね、お嬢様」
「っ!? ハ、ハンナ!?」

 ライラ様の頬はますます赤くなり、ポカポカとハンナさんを叩いていた。
 はは、二人って本当に仲がいいんだな。

「コホン……まあいいです。それで、これからのことについて少し話をしましょうか」

 気を取り直したライラ様が居住まいを正すと、少し低い声で話し始めた。

「……私の目的は、殺されたお父様、お母様、私をこのような目に遭わせた連中への“復讐”です」

 ライラ様の言葉に、僕とハンナさんが無言で頷く。

「ところで、失礼ですがその連中の目星はついているのですか?」
「……いえ」

 僕がそれとなく尋ねてみると、ライラ様は俯きながらかぶりを振った。

「ハンナさんは?」
「調べはしたんですが……」

 ……おかしい。

 貴族を襲ったような賊であれば、国からも手配されている筈だし、何より、追い出されるまで足しげくギルドに通っていた僕ですら賊の情報を知らない。

 これは……。

「……この件、かなり闇が深そうですね」
「……はい」

 僕の呟きに、ハンナさんが同意する。

「ええと……どういうことですか?」

 僕達の言葉の意味が理解できなかったライラ様が、おずおずと尋ねる。

「あ、はい……普通、伯爵家ほどの貴族が賊に襲われたのであれば、この国……“アルグレア王国”が賊討伐に動き出している筈です。そしてそうなれば、少なくとも領地であるこの街で噂にならない筈がない」
「はい……」
「ですが僕は、その賊討伐に関する話を聞いたことがない。ずっとギルドで冒険者として活動していた、この僕が」
「あ……」

 ライラ様がハッと気づいたかのように声を漏らした。

 そう……つまり、国はカートレット伯爵家が賊に襲われた事実を知らないか、知っていて黙殺しているか……あるいは、国そのものが首謀者か。

「……いずれにせよ、まずは情報集めですね。早速、僕は明日にでもギルドに顔を出してみます」
「ギルドに、ですか?」
「はい。やはり、結局のところ一番情報が集まるのは、ギルドか酒場ですから」

 まあ、ギルドでそんな話を聞いたこともないから、望み薄ではある。
 それに……僕はギルドでまた馬鹿にされるかも、だな……。

 だけど、僕の心を救ってくださったライラ様の悲願成就のためだ。僕のちっぽけなプライドなんか、どうだっていい。

「あ、あの!」

 すると、ライラ様が何か意を決したように、僕を見つめた。

「何でしょうか?」
「そ、その……わ、私もアデル様とご一緒にギルドに行きます!」
「「ええ!?」」

 僕とハンナさんは驚きの声を上げた。
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