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第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ
鋼鉄の馬車
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「お嬢様、アデル様、出発の準備が整いました」
王都にあるカートレット伯爵家の別邸のテラスでライラ様とお茶をしているところへ、ハンナさんがやってきて恭しく一礼した。
「……なんですかハンナ。私は今、アデル様とお茶を楽しんでいるのですよ?」
「うふふ……ならばお嬢様は引き続きテラスでお茶をお楽しみくださいませ。私はアデル様と楽しく帰路に着きますので」
ジト目で見るライラ様に、ハンナさんはクイ、と眼鏡を持ち上げてそう言い放つ。
……ハンナさんの口元が少し緩んでいるから、本気ではないと信じたい。ですよね!?
「……抜け駆けは許しませんよ?」
「……お嬢様は私が準備をしている間、こうやって抜け駆けをしてるではありませんか」
「あ、あははー……」
険悪な空気の二人を眺めながら、僕は頭を掻いて思わず苦笑する。
こ、これは巻き込まれる前に離れたほうが無難だな……。
僕はソロリ、と席を立ち、その場を離れようと……「「アデル様?」」……はい、ダメでした……。
「あ、あははー……ちょっと馬車の状態を確認しておこうかと思いまして……」
愛想笑いを浮かべながら、何とか誤魔化そうと試みるけど……。
「うふふ……私が出発の準備を整えたから、最終確認をしてくださるのですね?」
口元に人差し指を当てながら微笑むハンナさん。
「ふふ……帰りの道中、私が快適に過ごせるようにするためのアデル様のお心配り……本当に、ありがとうございます……」
ほんのり赤く染まる頬に手を当て、潤んだ瞳で僕を見つめるライラ様。
「……お嬢様、話を聞いておられましたか?」
「あら? ハンナこそ」
うう……お腹が痛い……。
「と、とにかく! 僕は馬車のところに行きます!」
「「あっ!」」
クルリ、と踵を返し、僕はダッシュで馬車を格納してある納屋へと向かった。
少しむくれた二人を置き去りにして。
◇
「うーん……せっかくだし、ライラ様が仰っていたように道中が快適になるようにしてみようかな……」
僕はチラリ、と納屋の隅に積まれてある鉄や木材、布、革などを見やる。
……うん、これだけあれば、いける……かな。
僕はすう、と息を大きく吸うと。
「——【設計】、【加工】、【製作】」
[技術者]の能力を開放し、馬車を作り変える。
まず御者席。
ここは何だかんだで僕達三人が一番座る機会が多いところだから、特に念入りに座り心地を良くしておこう。
ということで、鋼鉄を圧縮した木材で覆い、その上に綿を敷き詰めて革でカバーすれば……うん、完成。
おっと、車内の椅子も同じようにしておかないと。
次に車輪だ。
石畳や段差を通る時、ガタガタして腰やお尻が痛くなるんだよね……。
それに、下手に片方の車輪だけ段差に乗り上げたりしたら、転倒する危険だってある。
だから……鉄を【加工】して細長くて薄い鋼鉄を何枚も作り、それを一番ん長い板をベースに数枚重ね合わせ、スライドできるように金具で止める。
で、車輪の軸を独立稼働式にして、そこにこの鋼鉄の板を重ね合わせたものを固定して……うん、こんな感じかな。
「アレ? だけど図面には、まだ【製作】するものがあるぞ?」
ええと……必要な材料の一つに“油”があるなあ……。
「うーん、ハンナさんに言って調達してもらおう……「承知しました」……って、ハ、ハンナさん!? それにライラ様も!?」
「「はい♪」」
僕が驚きのあまり身体を仰け反らせると、ハンナさんは微笑み、ライラ様は尻尾の幻影をブンブンと振り回していた。
「え、ええと……いつからいたんですか?」
「ふふ……アデル様が馬車に手をかざした時、ですね」
「うふふ……夢中になって馬車をお作りになられているアデル様……その、可愛かったです」
ううー……来てたのなら声を掛けてくれても良かったのに……。
「それで、油でよろしかったですよね?」
「あ、え、ええ……はい……」
僕はまださっきのハンナさんの『可愛い』って言葉が頭から離れなくて、恥ずかしさのあまりつい俯いてしまった。
「うふふ、すぐにご用意いたしますね」
そう言うと、ハンナさんはご機嫌で納屋を出て行った。
「ふふ……それで、この馬車をどのように作り変えているのですか?」
「あ、はい。やはり長旅となりますので、快適性を高めるために御者席や椅子の座り心地を良くしたのと、少々の段差でも問題がないように四つの車輪をそれぞれ独立式にして上下に動くようにしているんです」
「あ、あうあうあう……」
あ、ライラ様が混乱してしまった。
「ま、まあ、アイザックの街までの帰りは、楽しいものになるということですね」
「そ、それはいいですね!」
ライラ様は嬉しそうに僕の手を取る。
すると。
「アデル様、お待たせしました」
「早っ!?」
さっきこの納屋を出て行ったばかりなのに、もう用意できたの!?
「うふふ……油は料理や燃料などにも使いますので、大量に保管してあるんです」
「ああ、成程……」
「それに……そう簡単には二人きりにはさせませんよ」
「…………………………(チッ)」
ハンナさんがチラリ、とライラ様を見やると、ライラ様が顔を逸らしながら舌打ちした!?
……ぼ、僕は何も見てませんし、聞いてませんからね!?
「じゃ、じゃあ早速作りますね……【加工】、【製作】」
僕は鉄を【加工】して筒状の部品と棒、筒の穴の広さに合わせた円盤のようなものを四組作り、筒の中に粘性を高めた油を注入して部品を組み上げる。
そしてそれを馬車の独立式の車輪に取りつけて……。
「ふう……これで完成、ですね」
僕はグイ、と額の汗を拭った。
「さ、早速乗ってみてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
すると、ライラ様とハンナさんが嬉しそうに御者席に座る。
「うわあああ……ふかふかです……!」
「こ、これは心地いいですね……!」
うん、二人に喜んでもらえたみたいで何よりだ。
「車輪の部分については、実際に走らせてみないと実感できませんけど、乗り心地は相当良くなっている筈です」
「「うわあああ……!」」
そう説明すると、二人が感嘆の声を漏らした。
あはは、こんなに瞳をキラキラさせて、可愛いなあ……。
「で、では早く出発いたしましょう!」
「ええ! そうしましょうお嬢様!」
善は急げとばかりに二人がはしゃぐ。
ま、まあ、ハンナさんも準備が整ったって言ってたし、いいんだけどね……。
王都にあるカートレット伯爵家の別邸のテラスでライラ様とお茶をしているところへ、ハンナさんがやってきて恭しく一礼した。
「……なんですかハンナ。私は今、アデル様とお茶を楽しんでいるのですよ?」
「うふふ……ならばお嬢様は引き続きテラスでお茶をお楽しみくださいませ。私はアデル様と楽しく帰路に着きますので」
ジト目で見るライラ様に、ハンナさんはクイ、と眼鏡を持ち上げてそう言い放つ。
……ハンナさんの口元が少し緩んでいるから、本気ではないと信じたい。ですよね!?
「……抜け駆けは許しませんよ?」
「……お嬢様は私が準備をしている間、こうやって抜け駆けをしてるではありませんか」
「あ、あははー……」
険悪な空気の二人を眺めながら、僕は頭を掻いて思わず苦笑する。
こ、これは巻き込まれる前に離れたほうが無難だな……。
僕はソロリ、と席を立ち、その場を離れようと……「「アデル様?」」……はい、ダメでした……。
「あ、あははー……ちょっと馬車の状態を確認しておこうかと思いまして……」
愛想笑いを浮かべながら、何とか誤魔化そうと試みるけど……。
「うふふ……私が出発の準備を整えたから、最終確認をしてくださるのですね?」
口元に人差し指を当てながら微笑むハンナさん。
「ふふ……帰りの道中、私が快適に過ごせるようにするためのアデル様のお心配り……本当に、ありがとうございます……」
ほんのり赤く染まる頬に手を当て、潤んだ瞳で僕を見つめるライラ様。
「……お嬢様、話を聞いておられましたか?」
「あら? ハンナこそ」
うう……お腹が痛い……。
「と、とにかく! 僕は馬車のところに行きます!」
「「あっ!」」
クルリ、と踵を返し、僕はダッシュで馬車を格納してある納屋へと向かった。
少しむくれた二人を置き去りにして。
◇
「うーん……せっかくだし、ライラ様が仰っていたように道中が快適になるようにしてみようかな……」
僕はチラリ、と納屋の隅に積まれてある鉄や木材、布、革などを見やる。
……うん、これだけあれば、いける……かな。
僕はすう、と息を大きく吸うと。
「——【設計】、【加工】、【製作】」
[技術者]の能力を開放し、馬車を作り変える。
まず御者席。
ここは何だかんだで僕達三人が一番座る機会が多いところだから、特に念入りに座り心地を良くしておこう。
ということで、鋼鉄を圧縮した木材で覆い、その上に綿を敷き詰めて革でカバーすれば……うん、完成。
おっと、車内の椅子も同じようにしておかないと。
次に車輪だ。
石畳や段差を通る時、ガタガタして腰やお尻が痛くなるんだよね……。
それに、下手に片方の車輪だけ段差に乗り上げたりしたら、転倒する危険だってある。
だから……鉄を【加工】して細長くて薄い鋼鉄を何枚も作り、それを一番ん長い板をベースに数枚重ね合わせ、スライドできるように金具で止める。
で、車輪の軸を独立稼働式にして、そこにこの鋼鉄の板を重ね合わせたものを固定して……うん、こんな感じかな。
「アレ? だけど図面には、まだ【製作】するものがあるぞ?」
ええと……必要な材料の一つに“油”があるなあ……。
「うーん、ハンナさんに言って調達してもらおう……「承知しました」……って、ハ、ハンナさん!? それにライラ様も!?」
「「はい♪」」
僕が驚きのあまり身体を仰け反らせると、ハンナさんは微笑み、ライラ様は尻尾の幻影をブンブンと振り回していた。
「え、ええと……いつからいたんですか?」
「ふふ……アデル様が馬車に手をかざした時、ですね」
「うふふ……夢中になって馬車をお作りになられているアデル様……その、可愛かったです」
ううー……来てたのなら声を掛けてくれても良かったのに……。
「それで、油でよろしかったですよね?」
「あ、え、ええ……はい……」
僕はまださっきのハンナさんの『可愛い』って言葉が頭から離れなくて、恥ずかしさのあまりつい俯いてしまった。
「うふふ、すぐにご用意いたしますね」
そう言うと、ハンナさんはご機嫌で納屋を出て行った。
「ふふ……それで、この馬車をどのように作り変えているのですか?」
「あ、はい。やはり長旅となりますので、快適性を高めるために御者席や椅子の座り心地を良くしたのと、少々の段差でも問題がないように四つの車輪をそれぞれ独立式にして上下に動くようにしているんです」
「あ、あうあうあう……」
あ、ライラ様が混乱してしまった。
「ま、まあ、アイザックの街までの帰りは、楽しいものになるということですね」
「そ、それはいいですね!」
ライラ様は嬉しそうに僕の手を取る。
すると。
「アデル様、お待たせしました」
「早っ!?」
さっきこの納屋を出て行ったばかりなのに、もう用意できたの!?
「うふふ……油は料理や燃料などにも使いますので、大量に保管してあるんです」
「ああ、成程……」
「それに……そう簡単には二人きりにはさせませんよ」
「…………………………(チッ)」
ハンナさんがチラリ、とライラ様を見やると、ライラ様が顔を逸らしながら舌打ちした!?
……ぼ、僕は何も見てませんし、聞いてませんからね!?
「じゃ、じゃあ早速作りますね……【加工】、【製作】」
僕は鉄を【加工】して筒状の部品と棒、筒の穴の広さに合わせた円盤のようなものを四組作り、筒の中に粘性を高めた油を注入して部品を組み上げる。
そしてそれを馬車の独立式の車輪に取りつけて……。
「ふう……これで完成、ですね」
僕はグイ、と額の汗を拭った。
「さ、早速乗ってみてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
すると、ライラ様とハンナさんが嬉しそうに御者席に座る。
「うわあああ……ふかふかです……!」
「こ、これは心地いいですね……!」
うん、二人に喜んでもらえたみたいで何よりだ。
「車輪の部分については、実際に走らせてみないと実感できませんけど、乗り心地は相当良くなっている筈です」
「「うわあああ……!」」
そう説明すると、二人が感嘆の声を漏らした。
あはは、こんなに瞳をキラキラさせて、可愛いなあ……。
「で、では早く出発いたしましょう!」
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