出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ

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第四章

これ以上ない解決策

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 結局ダナは出来レースについて話しかけた内容についてあれ以上のことは教えてくれず、どうやら事情を知っているらしいセブリアンもだんまりを決め込んだ。
 二人の様子からクレトにはあの出来レースに何か関わりがあったらしいということはわかったけれど、エステルの知りたかった恋人とは、の定義についてはわからないままだった。
 ダナもセブリアンも自信を持てばいいと言ってくれたけれど、クレトから見れば自分はまだ一緒にお酒も飲めないような子供だ。そもそも恋人の範疇に入れる場所にはいないのかもしれない。
 考え出すと余計に不安は膨らみ、ダナとセブリアンと別れ邸に戻ると、ブラスとの用事を終えたマリナを捕まえた。
 
「あの、マリナ……」

 ワインの商談からマリナとは別行動で、最近マリナはよくブラスの手伝いをしている。
 エステルが呼び止めると、「なんでしょう」とマリナは足を止めた。

「あのね、ちょっと相談があるんだけれど……」

「はい、何でございましょう」

「ここではその、何だからお茶を淹れるわね」

 玄関ホールだった。他の邸の使用人たちの耳もある。
 エステルが自室に誘うと、マリナは「お茶は私がお淹れしますよ」と先にエステルを自室に向かわせた。

 部屋の応接間で待っていると、すぐに茶器を手にしたマリナが入ってきた。
 手早くお茶を用意するとエステルにすすめ、「それで? どうなさいました?」と先を促す。

 恋人とは、の話をしようと思えば、昨日のクレトとのことを話さなければ始まらない。
 エステルはえいやっの気持ちで打ち明けた。

「あのね、わたし昨日クレトに好きって伝えたの」

「そうですか」

 こちらとしては幼いころからずっと側にいてくれたマリナにこんなことを言うのはとても恥ずかしかったのだけれど、マリナはあっさり頷いた。

「驚かないの?」

「お嬢様のお気持ちはこのマリナ、気が付いておりましたので」

「え? そうなの?」

「はい。ですから以前にも申し上げました。クレト様が女性とホテルから出てこられたのを目撃したお嬢様が、胸が苦しいとおっしゃられていましたよね。それ以前からうすうす感じてはいましたが、あの時確信を持ちました」

 そういえばマリナは答えは自分で見つけたほうがいいとあの時言っていた。すでにお見通しだったのだ。肩の力がほっと抜けた。

「緊張して損しちゃったわ」

「それでクレト様はなんと? やはりエステル様をお好きだとおっしゃられましたか?」

「え? どうしてそう思うの?」

「それはもちろん、クレト様を見ていればわかりますよ。おそらくこの邸にいる全ての者が知っていることですよ」

「ええ! そうなの?」

 他人から見て、そんなにクレトはエステルのことを好きなように見えるのか。驚きだ。知らぬはエステルばかりだったのか。

「それで? どうなさいました? ようやくご自分のお気持ちに気が付かれ、クレト様からもよいお返事をいただけましたのでしょう? 何か問題でも?」

「あのね、マリナ。お互い気持ちを伝え合ったら、恋人になるのかしら」

 これにはマリナはえっと一瞬言葉に詰まり、

「お互いのお気持ちが通じ合ったのですから、恋人なのではないでしょうか。申し訳ございません。このマリナ、恋のご相談はあまり経験がないゆえ……」

 急にしどろもどろになった。その機会を奪ってきた自覚のあるエステルは慌てて言った。

「ごめんなさい、わたしのせいよね。なのにわたしったら一人で浮かれてこんなこと……」

「お嬢様のせいではございません。何度か郷里からその手のお話はあったのですが、あまり乗り気になれず断り続けてきたのは私ですから」

「でもそれってわたしのせいよね」

「違います」

 マリナはきっぱりと否定した。

「お嬢様は関係ございません。私自身、なぜか幼い頃から結婚に対しては夢がなかったと言いますか、したいと思ったことがないのです」

「そうなの?」

「はい。両親からは、家を出るときは結婚するときだと言われておりましたが、何となくそれも違うと勝手に家を出、お嬢様のお屋敷で働くようになったのです。充実しておりましたよ。今でもこれでよかったのだと思っております」
 
 それに、とマリナは続ける。

「失礼かもしれませんが、今ではお嬢様のことを、少し大きな我が子のようにも思いますし、歳の離れた姉妹のようにも感じております。ですから私が今ここにお嬢様の側にいることも、私の意志です。お嬢様のためにではありません。私がお嬢様のお側にいたいのです」

「……マリナ…」

 嬉しくてぐすんと涙が出た。

「そんなふうに思っていてくれてたのね」

 エステルにとってもマリナはいつも側にいてくれた大切な人だ。寂しいときも、辛いことがあったときも、マリナは優しくしてくれた。

「―――話が脱線いたしましたね」

 マリナは笑って話を元に戻し、「お嬢様の危惧されていることについて、私はお答えすることはできませんけれど、一番の解決方法はわかります」ときっぱりと言った。

「それは何?」

「クレト様ご本人にお聞きすることですよ、お嬢様」

 確かに、これ以上ない解決策だった。



 

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