出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ

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番外編2

どんなことがあろうと

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 どたどたと騒がしい足音にエステルは目を覚ました。

 知らない部屋の中だった。何度か目を瞬いて薄暗がりの部屋を見回し、エステルは身を起こそうとした。が、両腕と両足が拘束されており、加えて腰に結ばれた縄がベッドの足に括りつけられている。

 麻袋をかぶせてきた金貸しだと言うあの男が縛っていったのだろう。部屋内を見回すも男の姿はない。エステルはひとまずほっとしてなんとか身を起こし、ベッドの足に背を預けた。

 男はどこかへ出かけたのだろうか。部屋内にあるいくつかの扉からも物音や気配はない。簡素な机に椅子、ベッドがあるだけのどこか宿屋の中のようだ。男が外出しているのなら今の内にここから逃げたい。ここが港町からどの程度離れた場所かはわからないが、とにかく外へ出て助けを呼ぶしかない。宿屋ならばたいてい一階は食堂になっていて夜遅くまで酔客や主人がいるものだ。

 エステルは手首にまかれた縄を解こうと手首をひねってみた。きつく結ばれた縄はびくともせず、ぎりぎりと余計に縄が食い込んで痛い。それならば足はどうかと試みたが、こちらの方もどうにもなりそうにない。それなら手と足の縄は諦め、とにかく腰に巻かれた縄だけでもベッドから外せれば……。そうすれば這ってでも動けるようにはなる。

 エステルはベッドの下に潜り込むと力の限りベッドを背中で押し上げた。同時に足を使ってベッドの足に括られた縄を下へと移動させ、少しでも浮いた隙間から縄を抜こうとがんばった。簡素なベッドのおかげで、何度か続けていると縄は少しずつ抜けていき、エステルは最後の力を振り絞ってベッドを持ち上げた。

「……あっ」

 縄がベッドの足からするりと抜けた。よし、これで動けると思った矢先、荒々しい複数の足音が廊下を行き来しだした。眼を覚ました時も慌ただしい足音に目を覚ましたのだった。一体なんの騒ぎだろうか。
 また新たな事件に巻き込まれては大変と、エステルはベッドの下で息を潜めて足音が遠ざかるのを待った。

「おい! この部屋だ!」
 
 扉前でひときわ大きな声が放たれ、同時に鍵を開ける音がし部屋の扉が勢いよく開かれた。
 ベッドの下の隙間から見ると複数の足が入り乱れてなだれ込んでくる。彼らが何者なのか何の用があってこの部屋へ入って来たのか。わからないだけに、不用意には出られない。男の仲間という可能性もある。

「いないぞ! この部屋で間違いないのか?」
「あの男がそう言ったんだぞ」
「うそをつかれたということはないのか? 人さらいをするような奴だ。信用ならんぞ」
「よし、他の部屋も片っ端から見てみるぞ!」

 大きな声で複数人が言い合い、入って来た時同様ばたばたと慌ただしく部屋を出ていくと隣室にも踏み込んでいくような音が響いてきた。

 助けに来てくれた……?

 さっきの会話を聞く限りではエステルを助けに来た人達のように思えた。しかもあんなに大勢で……。宿屋のあちこちから「エステルさん!」と呼ぶ声が届き、その声は宿屋の外、窓の方からもしている。

 もう間違いない。きっとクレトが手を回して街の人たちに協力を要請し探してくれているのだ。
 エステルはベッド下から出ようともぞもぞと体を動かした。その時、新たに一人の人物が入ってくる足が見え、そのシルエットからそれが誰なのかすぐにわかったエステルは「……クレト」と呼びかけた。

「エステルか?」

 クレトはエステルの声から居場所を見つけ出し、しゃがみ込むとベッド下をのぞいた。エステルの姿を認めるとクレトは大きく息を吐きだした。

「……よかった…。エステル……」

 クレトは「少し我慢して」と言うとエステルの両脇下に手をさしこみ、ベッド下からエステルを引きずり出した。そしてなぜか持っていた短剣で縄を切った。

「……エステル…。大丈夫かい? 手首も足首も赤くなって切れている。外そうとしたんだね……」

 クレトはエステルを引き寄せると壊れ物に触れるようにそっと抱きしめた。

「……悪かった…エステル。怖い思いをさせてしまった……。捕まえた男からロレッタのことは聞いたよ。まさか彼女がそんなことをするとは思ってもみなかった…。私はどうエステルに謝ればいいのかわからない……」

 亡くなった友の妻が困っているのを放っておけないと助けたのが間違いだった。もっとよくロレッタの真意を図るべきだった。
 クレトは絞り出すように言葉を紡ぎ、エステルに謝った。

「もし、君をさらった男が少しでも君を傷つけていたら、私は……」

 握りしめた短剣を震わせる。
 エステルはそっとクレトの手から短剣を放した。

 どんな策士でもロレッタの真意を見破れたかどうかはわからない。エステルだってロレッタは、クレトのことは別にして、イアン思いの優しい女性だと思っていたのだから。人さらいまでするような女性にはとてもみえなかった。

「わたしなら大丈夫。何もされていないし……。クレトはちゃんと助けに来てくれたわ」

「見つかって本当によかった。エステルがどんな思いでいるのかと考えたら、生きた心地がしなかったよ」

「……クレト…」

 エステルは背伸びしてクレトの首に腕を回すと、もうたとえどんなことがあろうと絶対に離れたくないとその耳元に訴えた―――。











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