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09. 次の約束 (内藤視点)
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駅構内から出た。
内藤の目の前には海が広がっている。やはりデートといえばベイエリアだ。ムード満点である。五月の青空を映し取った水面が日差しを弾き返し、白くきらめいている。
かたわらにいる悠理は清々しい表情だった。ストリートピアノを弾き終えて、すっきりしたのだろう。
美しすぎるオメガとして生まれたことが、悠理にさまざまな制約をもたらした。そう思うと、内藤は彼の望みをなんでも叶えてあげたくなった。
潮風が吹いてきて、ふたりの髪を弄んだ。
内藤は悠理に笑いかけた。
「映画にで出てきたパフィン、可愛かったね」
「そうだな」
悠理が目を細める。子どもと動物が彼の癒しなのだろう。
海辺の公園には恋人たちが集まっていた。もつれ合うように腕を絡めているカップル。大胆にもキスをしているカップル。内藤を見つめる悠理の視線が曇っていく。
「あんたもベタベタしたいんだろ」
「まさか。ここできみに手を出したら、俺は自分を軽蔑する」
「……変なところで義理堅いね、あんた」
「きみに本気で惚れてしまった」
潮風がふたりのあいだを吹き抜けていった。悠理は神妙な面持ちでうつむいている。
「本気って……結婚したいってこと?」
「そうだよ」
「ヤリチンなのに我慢できんの」
「それは昔の話。いろんな相手なんてもういらない。一生をかけてきみを愛したい」
「重すぎだろ……」
言葉とは裏腹に悠理は嬉しそうだった。照れ隠しなのか前髪をいじっている。
「次のデートだけど、料理教室に行かない? 俺、魚を捌ける男に憧れてるんだよね」
「食の好みは一緒に暮らすうえで重要だからな」
「俺との婚約、前向きに考えてくれた?」
「まだテスト期間だ」
ツンとした表情でそう言い放った悠理だが、予定を訊ねれば空いている日を教えてくれた。完全に脈がないわけではないらしい。
「腹減っただろ。メシ食いに行こうぜ。何がいい?」
「脂っこくない料理」
「なら、和食だな」
幸い、周辺にある商業施設に和食の店があった。悠理はホッケの塩焼き定食を頼み、両手を合わせて「いただきます」と言った。きちんとした家庭に育った子だなと改めて思う。
悠理は箸の使い方が上手で、ホッケの塩焼きを見事に平らげた。
「何ボーッとしてるんだよ」
「いや、きみの食べ方が綺麗だなと思って」
「……あっそ」
「悠理くんは和食が好きなんだね。覚えておくよ」
「あんたは?」
「俺? あんまり食にこだわりがないんだよね。大好物がない代わりに、大嫌いな食材もない」
「ふーん」
内藤は和風おろしハンバーグを食べ終えた。悠理は何か言いたげである。
「今日はその……ありがとう」
まさか礼を言われるとは思っていなかった。内藤は目を丸くした。
「映画館やストリートピアノの思い出ってロクなもんじゃなかったけど……悪いイメージをあんたが払拭してくれた」
「悠理くん。俺がきみを癒すから。不愉快なアルファのことは忘れてしまうぐらい、楽しい思い出を一緒に作ろう」
「あんたってやっぱり変わってる。そこまでして俺と一緒にいたいの」
「惚れちゃったからね」
視線を絡める。先に目をそらしたのは悠理だった。頬がチークを塗ったように赤くなっている。
──この反応……期待してもいいんだよな?
内藤はお冷の入ったグラスを傾けた。
内藤の目の前には海が広がっている。やはりデートといえばベイエリアだ。ムード満点である。五月の青空を映し取った水面が日差しを弾き返し、白くきらめいている。
かたわらにいる悠理は清々しい表情だった。ストリートピアノを弾き終えて、すっきりしたのだろう。
美しすぎるオメガとして生まれたことが、悠理にさまざまな制約をもたらした。そう思うと、内藤は彼の望みをなんでも叶えてあげたくなった。
潮風が吹いてきて、ふたりの髪を弄んだ。
内藤は悠理に笑いかけた。
「映画にで出てきたパフィン、可愛かったね」
「そうだな」
悠理が目を細める。子どもと動物が彼の癒しなのだろう。
海辺の公園には恋人たちが集まっていた。もつれ合うように腕を絡めているカップル。大胆にもキスをしているカップル。内藤を見つめる悠理の視線が曇っていく。
「あんたもベタベタしたいんだろ」
「まさか。ここできみに手を出したら、俺は自分を軽蔑する」
「……変なところで義理堅いね、あんた」
「きみに本気で惚れてしまった」
潮風がふたりのあいだを吹き抜けていった。悠理は神妙な面持ちでうつむいている。
「本気って……結婚したいってこと?」
「そうだよ」
「ヤリチンなのに我慢できんの」
「それは昔の話。いろんな相手なんてもういらない。一生をかけてきみを愛したい」
「重すぎだろ……」
言葉とは裏腹に悠理は嬉しそうだった。照れ隠しなのか前髪をいじっている。
「次のデートだけど、料理教室に行かない? 俺、魚を捌ける男に憧れてるんだよね」
「食の好みは一緒に暮らすうえで重要だからな」
「俺との婚約、前向きに考えてくれた?」
「まだテスト期間だ」
ツンとした表情でそう言い放った悠理だが、予定を訊ねれば空いている日を教えてくれた。完全に脈がないわけではないらしい。
「腹減っただろ。メシ食いに行こうぜ。何がいい?」
「脂っこくない料理」
「なら、和食だな」
幸い、周辺にある商業施設に和食の店があった。悠理はホッケの塩焼き定食を頼み、両手を合わせて「いただきます」と言った。きちんとした家庭に育った子だなと改めて思う。
悠理は箸の使い方が上手で、ホッケの塩焼きを見事に平らげた。
「何ボーッとしてるんだよ」
「いや、きみの食べ方が綺麗だなと思って」
「……あっそ」
「悠理くんは和食が好きなんだね。覚えておくよ」
「あんたは?」
「俺? あんまり食にこだわりがないんだよね。大好物がない代わりに、大嫌いな食材もない」
「ふーん」
内藤は和風おろしハンバーグを食べ終えた。悠理は何か言いたげである。
「今日はその……ありがとう」
まさか礼を言われるとは思っていなかった。内藤は目を丸くした。
「映画館やストリートピアノの思い出ってロクなもんじゃなかったけど……悪いイメージをあんたが払拭してくれた」
「悠理くん。俺がきみを癒すから。不愉快なアルファのことは忘れてしまうぐらい、楽しい思い出を一緒に作ろう」
「あんたってやっぱり変わってる。そこまでして俺と一緒にいたいの」
「惚れちゃったからね」
視線を絡める。先に目をそらしたのは悠理だった。頬がチークを塗ったように赤くなっている。
──この反応……期待してもいいんだよな?
内藤はお冷の入ったグラスを傾けた。
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