幸せごはんの作り方

コッシー

文字の大きさ
2 / 6

1話

しおりを挟む


半年前。私の姉とその旦那が、交通事故で亡くなってしまった。

残されたのは、その時幼稚園に行っていた姉の娘だけ。

私達の両親ももう既にいなかった為、その娘を引き取れるのは私しかいなかった。

「……名前は?」

「……しずく」

出会った時の雫は、肩まで伸びた髪をボサボサにして、目を真っ赤に腫らしていた。
きっと、ずっと泣いていたのだろう。髪だって、いつもは姉が結んであげていたのだろうが。今は髪を結んでくれる人は誰もいない。

「雫ちゃんか。君は嫌かもしれないが、これから君はおじさんと住むことになる。おじさんには子供がいないから、君とどう接したらいいかあまり分からない。だからお互い協力していこう」

「……うん」

協力とはいったものの、基本私は朝から夜まで仕事の為、雫と二人で居る時は少ない。
精々一緒に居る時間と言えば、買ってきた弁当を食べる時くらいだろう。ずっと独り暮らしだった私は、飯もろくに作れない為。いつも弁当を買って食べている。

まだ幼い子供には、こんな生活辛いはずだ。
それなのに、雫は我が儘一つ言わなかった。


だからきっと、私は雫に甘えていたのだ。

これでいいのだと、勝手に思い込んでしまっていたのだ。









それから三か月が経ったある日。

あれは大量の仕事量に追われ、残業していた時の事だった。

天野あまのさん、こっちは終わりました!」

「そうか。なら帰っていいぞ」

「天野さん……後、この書類に」

「置いといていい」

「あ、分かりました。じゃあ私達はお先に失礼します!」

「あぁ。お疲れ様」

部下達を帰らせ、私は一人で残った仕事を片付ける。残業なんて日常茶飯事だった私にとって、こんなのは特別辛くもない事だった。
それに、なるべく部下達には負担をかけたくない。

だがそのかわり。雫との時間はどんどん削られていく一方だ。

「だが、だからと言って仕事をおろそかにするわけには……」

「天野さん。それ手伝いますよ」

突然私の隣に立って、数枚の書類を手に取った高身長の男。

誰にでも向けるその爽やかな微笑みは、この会社の女性陣を虜にさせていると噂されていたが……成程。確かに美形だ。

水島みずしま君ではないか。どうした早く帰らないか」

「いえ!天野さんが一人で頑張っているのに、俺だけ帰るなんて出来ませんよ!」

「しかし……」

「それに。二人でやったほうが早いですから!」

「……はぁ。分かった。なら頼むぞ」

「はい!」

水島彰みずしまあきら君は私の部下で、仕事もプライベートも完璧な男だ。
歳は確か二十五……だったか?私よりも七つも下だが、なんでもこなせる所はとても見習いたい所だ。

「悪かったな。遅くまで残らせて」

「いえいえ!あ、良かったら俺の家に来ませんか?夜ご飯作りますよ?」

「え?あ、いや。流石にそれは」

おかしいな。私は部下達には嫌われていると思っていたのだが?よく無愛想だと言われているようだし。

「気にしないでください!俺が誘いたくて誘ってるんで!」

キラキラした目が、私には少し眩しく見える。これだけ親切な部下の頼みを断るのは少々心苦しいが。ふと、雫が一人で待っている姿が頭をよぎった。

「……申し訳ないが。家で姉の娘が待っているんだ」

「え?」

状況を整理しているのか、水島君の表情がそのまま固まってしまった。

そういえば、こんなプライベートな事を誰かに話すのは初めてかもしれない。

「えっと……だな。私の姉とその旦那が事故で亡くなってしまってな。引き取り手がいなかったので、私が姉の娘を育てているのだ」

「えっと。ということは、その娘さんは今家に?」

「あぁ」

「因みに、おいくつですか?」

「確か、五歳だな」

その瞬間。私は腕を強く握られると、そのまま無理矢理立ち上がらされた。

近くにあった水島君の顔は、今まで見たことないくらい怖い顔をしている。きっとこんな表情誰も見たことが無いだろう。こんなの直視したら、多分息が止まってしまう。

「何故それを早く言わないんですか!!」

「ぁ、いや……」

「いいから、今すぐ帰りますよ!!」

水島君は掴んだ腕を離さないまま、私を引っ張り。会社を出てしまった。

「天野さんの家まで案内してください」

「あ、しかし。その前に弁当を……」

「弁当!?いつも弁当なんですか!?」

攻められるたび、後悔と罪悪感が募っていく。

「その。わ、たしは、作れなくて」

「では、俺が作ります」

「え?」

「夕食は、俺が作ります」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

コーヒーとチョコレート

ユーリ
BL
死神のジェットはとある理由からかわいい悪魔を買った。しかし、その悪魔は仲間たちに声を奪われて自分の名前以外喋れなくて…。 「お前が好きだ。俺に愛される自信を持て」突然変異で生まれた死神×買われた悪魔「好きってなんだろう…」悪魔としての能力も低く空も飛べない自信を失った悪魔は死神に愛される??

あなたに捧ぐ愛の花

とうこ
BL
余命宣告を受けた青年はある日、風変わりな花屋に迷い込む。 そこにあったのは「心残りの種」から芽吹き咲いたという見たこともない花々。店主は言う。 「心残りの種を育てて下さい」 遺していく恋人への、彼の最後の希いとは。

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

幼馴染は吸血鬼

ユーリ
BL
「お前の血を飲ませてくれ。ずーっとな」 幼馴染は吸血鬼である。しかも食事用の血液パックがなくなると首元に噛みついてきてーー 「俺の保存食としての自覚を持て」吸血鬼な攻×ごはん扱いの受「僕だけ、だよね?」幼馴染のふたりは文化祭をきっかけに急接近するーー??

天使は微笑みながら嘘を受け入れる

ユーリ
BL
天使のルカは悪魔のカルムと結婚して人間界に住んでいた。幸せな毎日だが、旦那のカルムには気掛かりがあったーー「一生大事にするよ、俺のかわいい花嫁さん」年上悪魔×素直な幸せ天使「僕だって絶対大事にします」ーー天使と悪魔の結婚には裏がある??

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

彼らは××が出来ない

庄野 一吹
BL
少女漫画の悪役として転生した主人公は、自分が最低な悪役にならないため画策することにした。ヒーロー達がヒロインに惚れさえしなければ、自分が悪役になることは無い。なら、その機会を奪ってしまえばいいのだ。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

処理中です...