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先代侯爵はクズにも負けない鋭い眼光でクズを振り返った。
流石に一度も報告をしていなかったとは思っていなかったのだろう。
だがそれは先代侯爵にも原因がある。
例え可愛い息子だとしても、爵位を譲るだけ譲って放置したのだ。
つまり十分に引き継がなかったことが原因だ。
一度でも親として、そして前任者としてクズと共に陛下に報告に行っていれば、クズも陛下に顔を見せなかったことはなかったはずで、もしかしたら領地を管理する当主としての責任感というものをクズがクズなりに感じていたかもしれない。
それほど、この国を治める陛下には偉大な力があるのだから。
「だが、それを理由で血縁判定を断るのはどうなのだ?」
「へ?」
「のぉ、ケイン・リンカーよ。お主もそう思うだろう?」
陛下に話を振られたケインは静かに頷いた。
「はい。私が知っている限り現当主であるクズール・ディオダ侯爵閣下はまだ子を成しておりません。
血縁判定はあくまで親子関係を示すもの。現当主様では力不足でございます」
「だそうだ。
…それにな、どうやらこの宴に参加している者の中に貴族殺しという重罪に加え、戸籍詐称まで行った者がいると耳にしたのだ。
その話が真実なのかまではわかっておらん。だがもし真実だった場合、法に従い捌かねばならんだろう。
だからまずお前に協力をしてもらおうと言っているのだ」
陛下の言葉に会場内は静かなざわめきが起こった。
だがそれも一瞬で静まり返る。陛下の邪魔はしてはならないと誰もが思っているからだ。
「へ、陛下!私は違います!私は罪など犯していません!」
「違うというならば判定を受ければいい。
これ以上拒否をすると寧ろ怪しく見えるぞ」
先代侯爵は体から力が抜けたのか、床に膝をつき崩れ落ちる。
気づけば私達の周りには誰もいなかった。
それもそうか。誰も関わりたくないし、巻き込まれたくないと思うのは当然のこと。
そして綺麗な道ができた会場内をケインは歩き進め、座り込む男の手をとり血縁判定証明書に触れさせた。
血縁判定証明書の使用法は簡単だ。
判定を行いたい人が紙に触れればいい。
血も唾液もいらず、たったそれだけで判定が可能になるのは少し疑わしいところがあるが、これが精霊の力なのだ。
リセットしたいときは水に血縁判定証明書を沈めれば、何度でも使用できる。だが破れやすい。
そして破れたり燃えてしまっては効果がなくなってしまうから、取り扱いには注意しなければならない。
そして元々紙に触れていたケインと先代侯爵が触れたことで、判定結果が現れた。
当然そこには親子関係を示す結果が現れ、ケインはそれを掲げながら陛下にお渡しする。
勿論ケインがディオダ家の人間であることは陛下に報告済みだが、こうして結果を目の当たりにした陛下はご立腹な様子をみせた。
すぐに王城の騎士団がパーティー会場にやってきて、先代侯爵夫婦を拘束。
連れ去られるまではいかなかったが、他の貴族がいる中、罪人のように拘束された状態で会場にいるのはあまりにも滑稽だった。
「……まさか真実だったとは」
陛下がぽつりと漏らした言葉に二人はびくりと体を跳ねらせた。
それにしても陛下はとても演技派だ。
少し強引な話の流れに感じたが、それは私がシナリオを知っているからだろう。
シナリオも知らずこの場に居合わせた者は、トントン拍子に展開が起こり、重罪を犯した者を一発で発覚。
重罪など犯す者はいないはずだと、そうであるに違いないと信じていたのに驚愕の事実を目の当たりにしたことで、陛下の頭を悩ませている。
このように映っているに違いない。
そして全ての者が喉を潤すこともなく目を逸らさずみていることから、高い関心を抱いていることは確実だ。
「ケイン・リンカー、いやケイン・ディオダよ、疑ってすまなかった。
だが、そなたがディオダ家の者であるというのなら何故“リンカー”を名乗っていたのだ?」
そして陛下はまだ演技を続ける。
これが真実だと示すためだ。
「リンカーは、私を実の子のように育ててくれた夫婦の名です。
私は生まれた瞬間、血の繋がった実の親に殺されそうになりました。そんな私を救いここまで育ててくれたのがリンカー夫婦です」
「なに、生まれた瞬間とな?」
「はい。私はまだ生まれたばかりだった為その記憶を持ち合わせてはいませんが、私を救ってくださった方は、殺害を強要された。と申しておりました。そして…」
「そんなの嘘よ!!」
ケインが身の上話をしていると、当然のことながら先代侯爵夫婦は反論した。
そんなことはしていないと。必死にケインの言葉を否定する。
だが話すことを陛下に許可されているわけではない為、騎士たちによってさらに体を床に押さえつけられる。
だけど二人の反論は止まらなかった。
そして口にした。血縁判定証明書が嘘なんじゃないのかと。
その瞬間精霊たちが怒りをあらわにした。
「離れてください!!」
私は咄嗟に二人を押さえつけている騎士たちに向かって叫んだ。
不機嫌さを露わにしながらも、それでも堪えて会場の中を様子を伺うように飛んでいた精霊たちの様子が一変したからだ。
そして私の叫びに反応した陛下が騎士たちに向かって指示を出す。
騎士たちが先代侯爵夫婦から距離を取った瞬間、その場は歪んだ。
周囲に影響を及ぼさないように配慮しながらも、それでも今までの怒りが積み重なり、先代侯爵夫婦は想像を絶する程の強い重力で体を床に押さえつけられていた。
言葉も発せない程に押さえつけられ、閉じることが出来ない口からは飲み込めない涎が床の上に広がっていく。
(ダメ!それ以上はダメ!)
【でもこいつ!私達を否定した!】
【それにケインも殺そうとした!】
【自分の犯した罪を否定した!】
(確かにそれはいけないわ。でもだからといって貴方達が手を下すのは違う)
【違うってなに?!僕たちからの恵みを受けて生きているというのに!】
【私達を否定するこいつらは許せない!罰を与えなきゃ気が済まない!】
(貴方たちを否定する言葉を口にした罰なら、今貴方たちが十分に与えているでしょう?)
【十分じゃない!もっと罰を与える!】
【そうだ!もっと罰を!】
(それじゃあ、ケインを殺そうとした罪を私達が人間の法で裁けない)
【!】
我に返ったのか今まで先代侯爵夫婦を睨みつけていた精霊たちが私の顔をみる。
その表情からは泣きそうで、そして怖がっているようなそんな感情が伝わってくる。
だから私は伝えた。皆が安心できるように。
(大丈夫。怖がらないで。
私は貴方達の事、大好きなんだから)
精霊は純粋だ。
人の言葉をそのまま受け取り、そして信じてくれる。
私のことを綺麗な魂とかいうけれど、皆の方がよっぽど綺麗なの。
そう思わずにはいられないほど精霊は純粋でキレイなな存在だ。
きっとこのまま精霊たちが二人を殺しても私は皆のことを嫌いにはなれない。
ケインを苦しめた罪を償ってほしい。今精霊たちに罰を受けている二人には本当にそう思っている。
だけど、このまま人間の法で裁かれずに、精霊からの罰を受け続けてもいいとも思っているのだ。
私が精霊を好きだから。皆がすることを否定したくないから。
でもそれは口にしない。
口にしてはいけない。
精霊にはルールがある。
人間社会には過度な干渉はしないというルール。
でも精霊からの罰があるじゃないかと思われたりするが、それは人間が精霊を頼っているからだ。
超常的な力をみた誰もが言葉を失う。
精霊がこのような大きな罰を与える現場を目撃するのはほとんどの人が初めてだろう。
そんな中で陛下が口を開いた。
「……これは精霊もが認める証明書だ。
否定するということは精霊を否定するという事。
それがこの国でなにを意味するのかわかっているのか」
怒りを交えながら陛下が言う。
もっとも二人には答える余裕なんてないが、さらなる罪が認められた瞬間だった。
そんな中一人の男が叫ぶ。
「待ってください!僕は無関係です!」
両親の姿を見て今度は自分の番かと恐れたクズが、声を上げたのだ。
流石に一度も報告をしていなかったとは思っていなかったのだろう。
だがそれは先代侯爵にも原因がある。
例え可愛い息子だとしても、爵位を譲るだけ譲って放置したのだ。
つまり十分に引き継がなかったことが原因だ。
一度でも親として、そして前任者としてクズと共に陛下に報告に行っていれば、クズも陛下に顔を見せなかったことはなかったはずで、もしかしたら領地を管理する当主としての責任感というものをクズがクズなりに感じていたかもしれない。
それほど、この国を治める陛下には偉大な力があるのだから。
「だが、それを理由で血縁判定を断るのはどうなのだ?」
「へ?」
「のぉ、ケイン・リンカーよ。お主もそう思うだろう?」
陛下に話を振られたケインは静かに頷いた。
「はい。私が知っている限り現当主であるクズール・ディオダ侯爵閣下はまだ子を成しておりません。
血縁判定はあくまで親子関係を示すもの。現当主様では力不足でございます」
「だそうだ。
…それにな、どうやらこの宴に参加している者の中に貴族殺しという重罪に加え、戸籍詐称まで行った者がいると耳にしたのだ。
その話が真実なのかまではわかっておらん。だがもし真実だった場合、法に従い捌かねばならんだろう。
だからまずお前に協力をしてもらおうと言っているのだ」
陛下の言葉に会場内は静かなざわめきが起こった。
だがそれも一瞬で静まり返る。陛下の邪魔はしてはならないと誰もが思っているからだ。
「へ、陛下!私は違います!私は罪など犯していません!」
「違うというならば判定を受ければいい。
これ以上拒否をすると寧ろ怪しく見えるぞ」
先代侯爵は体から力が抜けたのか、床に膝をつき崩れ落ちる。
気づけば私達の周りには誰もいなかった。
それもそうか。誰も関わりたくないし、巻き込まれたくないと思うのは当然のこと。
そして綺麗な道ができた会場内をケインは歩き進め、座り込む男の手をとり血縁判定証明書に触れさせた。
血縁判定証明書の使用法は簡単だ。
判定を行いたい人が紙に触れればいい。
血も唾液もいらず、たったそれだけで判定が可能になるのは少し疑わしいところがあるが、これが精霊の力なのだ。
リセットしたいときは水に血縁判定証明書を沈めれば、何度でも使用できる。だが破れやすい。
そして破れたり燃えてしまっては効果がなくなってしまうから、取り扱いには注意しなければならない。
そして元々紙に触れていたケインと先代侯爵が触れたことで、判定結果が現れた。
当然そこには親子関係を示す結果が現れ、ケインはそれを掲げながら陛下にお渡しする。
勿論ケインがディオダ家の人間であることは陛下に報告済みだが、こうして結果を目の当たりにした陛下はご立腹な様子をみせた。
すぐに王城の騎士団がパーティー会場にやってきて、先代侯爵夫婦を拘束。
連れ去られるまではいかなかったが、他の貴族がいる中、罪人のように拘束された状態で会場にいるのはあまりにも滑稽だった。
「……まさか真実だったとは」
陛下がぽつりと漏らした言葉に二人はびくりと体を跳ねらせた。
それにしても陛下はとても演技派だ。
少し強引な話の流れに感じたが、それは私がシナリオを知っているからだろう。
シナリオも知らずこの場に居合わせた者は、トントン拍子に展開が起こり、重罪を犯した者を一発で発覚。
重罪など犯す者はいないはずだと、そうであるに違いないと信じていたのに驚愕の事実を目の当たりにしたことで、陛下の頭を悩ませている。
このように映っているに違いない。
そして全ての者が喉を潤すこともなく目を逸らさずみていることから、高い関心を抱いていることは確実だ。
「ケイン・リンカー、いやケイン・ディオダよ、疑ってすまなかった。
だが、そなたがディオダ家の者であるというのなら何故“リンカー”を名乗っていたのだ?」
そして陛下はまだ演技を続ける。
これが真実だと示すためだ。
「リンカーは、私を実の子のように育ててくれた夫婦の名です。
私は生まれた瞬間、血の繋がった実の親に殺されそうになりました。そんな私を救いここまで育ててくれたのがリンカー夫婦です」
「なに、生まれた瞬間とな?」
「はい。私はまだ生まれたばかりだった為その記憶を持ち合わせてはいませんが、私を救ってくださった方は、殺害を強要された。と申しておりました。そして…」
「そんなの嘘よ!!」
ケインが身の上話をしていると、当然のことながら先代侯爵夫婦は反論した。
そんなことはしていないと。必死にケインの言葉を否定する。
だが話すことを陛下に許可されているわけではない為、騎士たちによってさらに体を床に押さえつけられる。
だけど二人の反論は止まらなかった。
そして口にした。血縁判定証明書が嘘なんじゃないのかと。
その瞬間精霊たちが怒りをあらわにした。
「離れてください!!」
私は咄嗟に二人を押さえつけている騎士たちに向かって叫んだ。
不機嫌さを露わにしながらも、それでも堪えて会場の中を様子を伺うように飛んでいた精霊たちの様子が一変したからだ。
そして私の叫びに反応した陛下が騎士たちに向かって指示を出す。
騎士たちが先代侯爵夫婦から距離を取った瞬間、その場は歪んだ。
周囲に影響を及ぼさないように配慮しながらも、それでも今までの怒りが積み重なり、先代侯爵夫婦は想像を絶する程の強い重力で体を床に押さえつけられていた。
言葉も発せない程に押さえつけられ、閉じることが出来ない口からは飲み込めない涎が床の上に広がっていく。
(ダメ!それ以上はダメ!)
【でもこいつ!私達を否定した!】
【それにケインも殺そうとした!】
【自分の犯した罪を否定した!】
(確かにそれはいけないわ。でもだからといって貴方達が手を下すのは違う)
【違うってなに?!僕たちからの恵みを受けて生きているというのに!】
【私達を否定するこいつらは許せない!罰を与えなきゃ気が済まない!】
(貴方たちを否定する言葉を口にした罰なら、今貴方たちが十分に与えているでしょう?)
【十分じゃない!もっと罰を与える!】
【そうだ!もっと罰を!】
(それじゃあ、ケインを殺そうとした罪を私達が人間の法で裁けない)
【!】
我に返ったのか今まで先代侯爵夫婦を睨みつけていた精霊たちが私の顔をみる。
その表情からは泣きそうで、そして怖がっているようなそんな感情が伝わってくる。
だから私は伝えた。皆が安心できるように。
(大丈夫。怖がらないで。
私は貴方達の事、大好きなんだから)
精霊は純粋だ。
人の言葉をそのまま受け取り、そして信じてくれる。
私のことを綺麗な魂とかいうけれど、皆の方がよっぽど綺麗なの。
そう思わずにはいられないほど精霊は純粋でキレイなな存在だ。
きっとこのまま精霊たちが二人を殺しても私は皆のことを嫌いにはなれない。
ケインを苦しめた罪を償ってほしい。今精霊たちに罰を受けている二人には本当にそう思っている。
だけど、このまま人間の法で裁かれずに、精霊からの罰を受け続けてもいいとも思っているのだ。
私が精霊を好きだから。皆がすることを否定したくないから。
でもそれは口にしない。
口にしてはいけない。
精霊にはルールがある。
人間社会には過度な干渉はしないというルール。
でも精霊からの罰があるじゃないかと思われたりするが、それは人間が精霊を頼っているからだ。
超常的な力をみた誰もが言葉を失う。
精霊がこのような大きな罰を与える現場を目撃するのはほとんどの人が初めてだろう。
そんな中で陛下が口を開いた。
「……これは精霊もが認める証明書だ。
否定するということは精霊を否定するという事。
それがこの国でなにを意味するのかわかっているのか」
怒りを交えながら陛下が言う。
もっとも二人には答える余裕なんてないが、さらなる罪が認められた瞬間だった。
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