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そして更に半年が過ぎた日の事だった。
一通の手紙がディオダ侯爵家に届く。
婚姻してから一年と半年も経てば、子の顔を見たがる親も出てくるだろう。しかも恋人という存在がいて、やっと別れたのならば尚更。
先代侯爵夫人がまさにこれだった。
半年前、クズが恋人であるアグリーさんと別れたことをどこからか知った先代侯爵夫人はそれはもう喜んだ。
息子の髪の毛がなくなり、頭皮だけになったとしてもそれには決して触れることなく喜んでいた。
それからだ。私とクズの関係にちょくちょく口を出すようになったのは。
クズは煩わしそうにしながらも、私に白い結婚を告げたことは流石に言いずらい様子で、交わした精霊書について発言しない為に夫人の横やりはそれはもううるさかっただろう。
まぁ私は領地運営があるから仕事という逃げ道があったからまだマシだったかもしれない。
今では投資以外なにもしていないと思われている息子だから余計に言いやすいのか、それはそれは四六時中くっついていたのを私は眺めていた。
それが半年過ぎたところでの一通の手紙。
クズは飛びついた。
実の母からの言葉攻めから逃げられるのならばと、痛い目をみたはずの王家からの手紙に飛びついたのだ。
そしていそいそと準備を始める。
手紙の中には私とクズだけでなく、先代侯爵夫婦も招待する内容だったために、揃って準備を始めた。
この時だけはクズもホッとしていただろう。
女性はいくつになってもドレス選びが好きだから。
それも久しぶりのパーティーとならば余計に。
ちなみに費用についてはアグリーさんにクズが買い与えた宝石たちを売り払ったお金の一部のみを渡している。
あれから一年は経ったがいまだになくなった資金が元通りに増えていないからだ。
少ないと言われようがどうしようもない。
勿論ご両親にもきちんと説明をし納得してもらっている為、クズからの文句は受け付けない。
ちなみに私の持参金については、旦那様より“領地運営に”という事の為、パーティーに参加する為の費用には使用できない。
これは旦那様との約束事なのだから。
そして私たちは王家が主催するパーティーにやってきた。
ちなみにクズはツヤツヤと輝く頭をどうにかして隠したがっていたが、精霊たちが邪魔をして隠すことは叶わなかった。
そんな精霊たちをこっそり褒めると、みんないい笑顔を向けてくれる。
さて本題に入ろう。
このパーティーの面目は最近話題の中心になっている血縁判定証明書についてである。
「よくぞ集まってくれた諸君!」
陛下が声を上げパーティー開催を喜んだ。
参加する他の貴族たちもワインが注がれたグラスを持ち、触れ合わない程度にグラス同士を近づける。
「此度の宴は精霊書に続く発明品を製作した者を祝うものである!
皆も一度は目にしたことがあるだろう!
“血縁判定証明書”を!」
陛下の言葉に誰もが称賛を口にした。
実際に使用した者、使用したことはないが興味を持つ者などと、多くの人たちが血縁判定証明書に対する否定的な言葉は口にしない。
領地に引きこもっていた先代侯爵夫婦も話は聞いたことがあったのか、それとも周りの雰囲気に呑まれているだけなのか、穏やかな笑みを浮かべていた。
「その人物の名は、“ケイン・リンカー”である!」
陛下が名を発表し拍手が起こる中、少しだけ不思議そうにしていた者が何人かいる。
それは私が協力を仰いだ者たちだ。
何故私が協力を求めていたのに、誰かもわからない人の名を告げるのだろう。
だけどその疑問を口にする者はいない。何故なら陛下が発表したからだ。
そして陛下が告げた名を聞いて、クズと先代侯爵夫婦が表情を変えた。
流石に元メイド長のことは覚えていたのか、「リンカーって…」と口にしている。
だがクズのように血の気が下っていない夫婦の様子に、まだこれから起こることを察してはいないようだった。
「…お前…」
クズが後ろに立っている私を振り返る。
「あら、“正妻”に対する顔つきではないようですが…?」
「くっ」
まるで殺人鬼のような顔つきで私をみる旦那様に優しさをもって指摘してあげると、旦那様は更に表情を歪めて顔を背けた。
そして登場するケインを今にも食って掛かりそうな表情で睨みつける。
私はそんな旦那様から先代侯爵夫婦に目線を変えた。
先代侯爵夫婦はケインを見た後、揃って互いの顔をみる。
まるで悪い夢でもみているように、青白い顔色に変わっていた。
血縁判定証明書の本当の製作者は私だ。
だけどそれでは流れ的によくないと半年前、私は陛下と宰相と共に話し合った。
そこで製作者をケインと偽り、先代侯爵夫婦を断罪する機会を生み出すため。
ケインがディオダ侯爵家の者と証明したのち、先代侯爵夫婦の罪とクズの無能さを披露。
クズの無能さを表す証拠品は陛下への報告書を提示すれば効果的だろうと話をした。
何故なら私に領地管理が変わった途端みるからに改善したからである。
それに村や町には証人もごまんといるのだ。
半年前私は侯爵家に戻った後、話し合った内容をケインに告げた。
そしてケインには侯爵家から一旦出てもらい、リンカー家。つまりオバンさんの元で過ごしてもらうようにお願いしたのだ。
何故ならクズが別れたことを知った先代公爵夫婦が屋敷にやってきたからである。
この段階でケインの正体を知られるわけにはいかなかった。
あくまでもケインが死んでいる。そう思い込ませたままの方が都合がよかった。
もし生きているとわかってしまえば、対策を取られかねないからだ。
そして例え再び甲冑を身に纏っても屋敷にいたままでは、クズになにかされかねない。
勿論クズが今まで何もしてこなかった為、なにかする可能性は低かったが、恋人に逃げられてしまったクズの思考回路なんて私には読めないのだ。
私とクズは精霊書で契約を結んでいるが、ケインとクズの間には契約なんてない。
いくらケインが精霊たちに好かれていようが、人間たちの世界には基本的に関わらないのが、精霊たちのルールなのだ。
話を戻そう。
陛下に呼ばれたケインはスーツを身に纏い、陛下が座っている壇上に上がった。
鍛えられた体が服越しでもわかる逞しいケインの体に私は見とれた。
そして夜空のような黒髪も、その黒髪に浮かぶ天使の輪はまるで星空の様で、更にバラのように綺麗な赤い瞳も魅力的だった。
だが先代侯爵夫婦はそれどころじゃない。
理解したのだろう。ケインが自分たちの息子だということを。
顔かたちが似ていない双子といえど、ケインの黒髪を見れば必ず思い出すと思っていた。
がたがたと震え始める夫人を先代侯爵が抱き寄せる。
これだけをみるといい夫婦関係だが、私は知っている。
この二人は自分の生まれたばかりの子供を殺そうとしたクズ以上のクズだということを。
「それではケイン・リンカー。一言お願いできるかな」
話し終えた陛下がケインに問い、ケインはニコリと微笑みを浮かべる。
そして言った。
「それでは一つ余興として、この血縁判定証明書を使用したいのですが、よろしいですか?」
「ああ。構わんぞ。使用したことのない者もいるだろう。
………それで一体誰を望むのだ?」
あくまで余興として。楽しい場にしようと笑みを浮かべる陛下とケインに、私はこの場から去ろうとする二人を引き留めた。
「お義母様、お義父様。どうかしましたの?
これから陛下が余興で皆様を楽しませようとしているところですのに…」
“陛下”という言葉を強調して告げると、二人はびくりと肩を揺らす。
例え体調が悪くなろうが、この国のトップである陛下がなさろうとすることをみる前に退場することは、それも貴族がそれをするのは好ましくないと二人もわかっているのだ。
そんな私の短い引き留めが役に立てたのだろう、陛下がこちらの様子に気付くと壇上から降りて、わざわざ私達がいる会場の中心までやってきてから二人に声を掛けた。
「これはこれはディオダ侯爵ではないか。私に背を向けているということは、………もう帰ろうとしているところか?」
顔を青白くさせたまま、お義父様…いえ先代侯爵は表情を繕った。
「とんでもございません!これから行われる余興をとても楽しみだと、息子の嫁であるシエルと話していたところであります!」
「ハハハ!そうか!そこまで楽しみにしてくれていたとは、私も嬉しく思うぞ!
…ケイン・リンカーよ。どうだ?人選に迷っているのならば、このディオダ侯爵にお願いしてみるのは」
「へ、陛下?」
突然の陛下の言葉に繕っていた表情を崩し、焦りを見せ始めた先代侯爵に私は遂に所持していた扇子を広げた。
田舎貴族な私だけど、それなりに令嬢教育は受けている。
大声で話すことをせず、上品におしとやかにを心掛けるように言われて育てられてきた。
だけどこの状況。口元を隠しておかないと思わず笑ってしまいそうになる。
「陛下の指名とあらば。…ディオダ侯爵閣下、協力をお願いできますか?」
ケインが笑みを崩すことなく先代侯爵に話しかける。
先代侯爵はどうにかして拒否を示したい様子だ。
「くっ…、ざ、残念ながら今の侯爵は私ではありません。
今は我が息子、クズールが継いでおりますゆえ、血縁判定なるものはクズールにお試しを…」
「あ、アナタッ…」
クズにどうにかして変わってもらいたい先代侯爵に対し、同じ母から生まれたクズとケインが血縁判定を受けることも危ないと思っている先代侯爵夫人は止めようとする。
だがここは先代侯爵が正しい。
親子関係の判定を前提に作られた血縁判定証明書では、例え兄弟だとしても関係性をうまく出る可能性が低いからだ。
私は扇子で口元を隠しながら少しだけ左右に首を振る。
それを確認した陛下とケインが、クズに標的を移すことは得策ではないと察知してくれた。
「…ほぉ。ディオダ侯爵は息子に継いだのか。
てっきり養子縁組でもしたのかと思ったぞ」
「よ、養子縁組、ですか?」
「そうだ。お前の言う爵位を継いだ息子は一度も領地報告に来なかったからな。
息子では頼りないと考えたゆえ、優れた者を養子に迎えたのかと思ったぞ。それが例え女性だとしてもな」
「ッ!」
そして更に半年が過ぎた日の事だった。
一通の手紙がディオダ侯爵家に届く。
婚姻してから一年と半年も経てば、子の顔を見たがる親も出てくるだろう。しかも恋人という存在がいて、やっと別れたのならば尚更。
先代侯爵夫人がまさにこれだった。
半年前、クズが恋人であるアグリーさんと別れたことをどこからか知った先代侯爵夫人はそれはもう喜んだ。
息子の髪の毛がなくなり、頭皮だけになったとしてもそれには決して触れることなく喜んでいた。
それからだ。私とクズの関係にちょくちょく口を出すようになったのは。
クズは煩わしそうにしながらも、私に白い結婚を告げたことは流石に言いずらい様子で、交わした精霊書について発言しない為に夫人の横やりはそれはもううるさかっただろう。
まぁ私は領地運営があるから仕事という逃げ道があったからまだマシだったかもしれない。
今では投資以外なにもしていないと思われている息子だから余計に言いやすいのか、それはそれは四六時中くっついていたのを私は眺めていた。
それが半年過ぎたところでの一通の手紙。
クズは飛びついた。
実の母からの言葉攻めから逃げられるのならばと、痛い目をみたはずの王家からの手紙に飛びついたのだ。
そしていそいそと準備を始める。
手紙の中には私とクズだけでなく、先代侯爵夫婦も招待する内容だったために、揃って準備を始めた。
この時だけはクズもホッとしていただろう。
女性はいくつになってもドレス選びが好きだから。
それも久しぶりのパーティーとならば余計に。
ちなみに費用についてはアグリーさんにクズが買い与えた宝石たちを売り払ったお金の一部のみを渡している。
あれから一年は経ったがいまだになくなった資金が元通りに増えていないからだ。
少ないと言われようがどうしようもない。
勿論ご両親にもきちんと説明をし納得してもらっている為、クズからの文句は受け付けない。
ちなみに私の持参金については、旦那様より“領地運営に”という事の為、パーティーに参加する為の費用には使用できない。
これは旦那様との約束事なのだから。
そして私たちは王家が主催するパーティーにやってきた。
ちなみにクズはツヤツヤと輝く頭をどうにかして隠したがっていたが、精霊たちが邪魔をして隠すことは叶わなかった。
そんな精霊たちをこっそり褒めると、みんないい笑顔を向けてくれる。
さて本題に入ろう。
このパーティーの面目は最近話題の中心になっている血縁判定証明書についてである。
「よくぞ集まってくれた諸君!」
陛下が声を上げパーティー開催を喜んだ。
参加する他の貴族たちもワインが注がれたグラスを持ち、触れ合わない程度にグラス同士を近づける。
「此度の宴は精霊書に続く発明品を製作した者を祝うものである!
皆も一度は目にしたことがあるだろう!
“血縁判定証明書”を!」
陛下の言葉に誰もが称賛を口にした。
実際に使用した者、使用したことはないが興味を持つ者などと、多くの人たちが血縁判定証明書に対する否定的な言葉は口にしない。
領地に引きこもっていた先代侯爵夫婦も話は聞いたことがあったのか、それとも周りの雰囲気に呑まれているだけなのか、穏やかな笑みを浮かべていた。
「その人物の名は、“ケイン・リンカー”である!」
陛下が名を発表し拍手が起こる中、少しだけ不思議そうにしていた者が何人かいる。
それは私が協力を仰いだ者たちだ。
何故私が協力を求めていたのに、誰かもわからない人の名を告げるのだろう。
だけどその疑問を口にする者はいない。何故なら陛下が発表したからだ。
そして陛下が告げた名を聞いて、クズと先代侯爵夫婦が表情を変えた。
流石に元メイド長のことは覚えていたのか、「リンカーって…」と口にしている。
だがクズのように血の気が下っていない夫婦の様子に、まだこれから起こることを察してはいないようだった。
「…お前…」
クズが後ろに立っている私を振り返る。
「あら、“正妻”に対する顔つきではないようですが…?」
「くっ」
まるで殺人鬼のような顔つきで私をみる旦那様に優しさをもって指摘してあげると、旦那様は更に表情を歪めて顔を背けた。
そして登場するケインを今にも食って掛かりそうな表情で睨みつける。
私はそんな旦那様から先代侯爵夫婦に目線を変えた。
先代侯爵夫婦はケインを見た後、揃って互いの顔をみる。
まるで悪い夢でもみているように、青白い顔色に変わっていた。
血縁判定証明書の本当の製作者は私だ。
だけどそれでは流れ的によくないと半年前、私は陛下と宰相と共に話し合った。
そこで製作者をケインと偽り、先代侯爵夫婦を断罪する機会を生み出すため。
ケインがディオダ侯爵家の者と証明したのち、先代侯爵夫婦の罪とクズの無能さを披露。
クズの無能さを表す証拠品は陛下への報告書を提示すれば効果的だろうと話をした。
何故なら私に領地管理が変わった途端みるからに改善したからである。
それに村や町には証人もごまんといるのだ。
半年前私は侯爵家に戻った後、話し合った内容をケインに告げた。
そしてケインには侯爵家から一旦出てもらい、リンカー家。つまりオバンさんの元で過ごしてもらうようにお願いしたのだ。
何故ならクズが別れたことを知った先代公爵夫婦が屋敷にやってきたからである。
この段階でケインの正体を知られるわけにはいかなかった。
あくまでもケインが死んでいる。そう思い込ませたままの方が都合がよかった。
もし生きているとわかってしまえば、対策を取られかねないからだ。
そして例え再び甲冑を身に纏っても屋敷にいたままでは、クズになにかされかねない。
勿論クズが今まで何もしてこなかった為、なにかする可能性は低かったが、恋人に逃げられてしまったクズの思考回路なんて私には読めないのだ。
私とクズは精霊書で契約を結んでいるが、ケインとクズの間には契約なんてない。
いくらケインが精霊たちに好かれていようが、人間たちの世界には基本的に関わらないのが、精霊たちのルールなのだ。
話を戻そう。
陛下に呼ばれたケインはスーツを身に纏い、陛下が座っている壇上に上がった。
鍛えられた体が服越しでもわかる逞しいケインの体に私は見とれた。
そして夜空のような黒髪も、その黒髪に浮かぶ天使の輪はまるで星空の様で、更にバラのように綺麗な赤い瞳も魅力的だった。
だが先代侯爵夫婦はそれどころじゃない。
理解したのだろう。ケインが自分たちの息子だということを。
顔かたちが似ていない双子といえど、ケインの黒髪を見れば必ず思い出すと思っていた。
がたがたと震え始める夫人を先代侯爵が抱き寄せる。
これだけをみるといい夫婦関係だが、私は知っている。
この二人は自分の生まれたばかりの子供を殺そうとしたクズ以上のクズだということを。
「それではケイン・リンカー。一言お願いできるかな」
話し終えた陛下がケインに問い、ケインはニコリと微笑みを浮かべる。
そして言った。
「それでは一つ余興として、この血縁判定証明書を使用したいのですが、よろしいですか?」
「ああ。構わんぞ。使用したことのない者もいるだろう。
………それで一体誰を望むのだ?」
あくまで余興として。楽しい場にしようと笑みを浮かべる陛下とケインに、私はこの場から去ろうとする二人を引き留めた。
「お義母様、お義父様。どうかしましたの?
これから陛下が余興で皆様を楽しませようとしているところですのに…」
“陛下”という言葉を強調して告げると、二人はびくりと肩を揺らす。
例え体調が悪くなろうが、この国のトップである陛下がなさろうとすることをみる前に退場することは、それも貴族がそれをするのは好ましくないと二人もわかっているのだ。
そんな私の短い引き留めが役に立てたのだろう、陛下がこちらの様子に気付くと壇上から降りて、わざわざ私達がいる会場の中心までやってきてから二人に声を掛けた。
「これはこれはディオダ侯爵ではないか。私に背を向けているということは、………もう帰ろうとしているところか?」
顔を青白くさせたまま、お義父様…いえ先代侯爵は表情を繕った。
「とんでもございません!これから行われる余興をとても楽しみだと、息子の嫁であるシエルと話していたところであります!」
「ハハハ!そうか!そこまで楽しみにしてくれていたとは、私も嬉しく思うぞ!
…ケイン・リンカーよ。どうだ?人選に迷っているのならば、このディオダ侯爵にお願いしてみるのは」
「へ、陛下?」
突然の陛下の言葉に繕っていた表情を崩し、焦りを見せ始めた先代侯爵に私は遂に所持していた扇子を広げた。
田舎貴族な私だけど、それなりに令嬢教育は受けている。
大声で話すことをせず、上品におしとやかにを心掛けるように言われて育てられてきた。
だけどこの状況。口元を隠しておかないと思わず笑ってしまいそうになる。
「陛下の指名とあらば。…ディオダ侯爵閣下、協力をお願いできますか?」
ケインが笑みを崩すことなく先代侯爵に話しかける。
先代侯爵はどうにかして拒否を示したい様子だ。
「くっ…、ざ、残念ながら今の侯爵は私ではありません。
今は我が息子、クズールが継いでおりますゆえ、血縁判定なるものはクズールにお試しを…」
「あ、アナタッ…」
クズにどうにかして変わってもらいたい先代侯爵に対し、同じ母から生まれたクズとケインが血縁判定を受けることも危ないと思っている先代侯爵夫人は止めようとする。
だがここは先代侯爵が正しい。
親子関係の判定を前提に作られた血縁判定証明書では、例え兄弟だとしても関係性をうまく出る可能性が低いからだ。
私は扇子で口元を隠しながら少しだけ左右に首を振る。
それを確認した陛下とケインが、クズに標的を移すことは得策ではないと察知してくれた。
「…ほぉ。ディオダ侯爵は息子に継いだのか。
てっきり養子縁組でもしたのかと思ったぞ」
「よ、養子縁組、ですか?」
「そうだ。お前の言う爵位を継いだ息子は一度も領地報告に来なかったからな。
息子では頼りないと考えたゆえ、優れた者を養子に迎えたのかと思ったぞ。それが例え女性だとしてもな」
「ッ!」
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※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。