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18、決着_完
しおりを挟むただ事ではないと思った三名が屋敷からワタワタと出てきます。
一人の騎士が一歩前に出ました。
「我々は王国騎士団の者だ。
ダニー・クラベリック、マナビリア・クラベリック、そしてエリア・クラベリック。
お前たちには違法呪具保有、そして使用の疑いで捕縛状が下された!」
一枚の紙を掲げて、その内容を読み上げる騎士の方。
お父様は困惑している様子だけれども、その顔色は悪くなり、そしてマナビリアさんとエリアさんは心当たりがあるからか青褪め、震えていました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!呪具の使用?保有?心当たりがない!何かの間違いだ!!」
お父様が無罪を騎士の方に訴えます。
お父様自身は呪具とは無関係と主張していますが、完全に無関係ではありません。
お父様のその手でお母様にお渡ししていたのですから。
でも、と私は思いました。
「…法、そして陛下の決定に異を唱えると?」
「い、いえ…決してそのような…」
ギロリと睨まれたお父様は小さく縮こまりました。
「…これはスターレンズ公爵と王族直属の調査隊による調査結果に基づく決定だ。
無実であるというならば法廷で述べよ」
「………ッ」
お父様が口を閉ざす姿を確認して、書状を掲げていた騎士が後ろに控えていた騎士の皆さんに指示を出しました。
一人の騎士がお父様につき、そしてマナビリアとエリアには各二人の騎士がつきます。
「ちょっと待ってよ!なんで私達だけなのよ!アイツは!?アイツだけ捕まらないなんておかしいじゃない!」
「……どういうことだ?」
「どういうことだじゃないわよ!普通に考えて一緒の家に暮らしてたんだから、アイツも”保有していた”に当てはまるじゃない!」
エリアの言葉に騎士の人がマナビリアに視線を向けます。
「…あの子のブレスレットを調べてみる事ね」
ニヤリとした笑みを私に向けるマナビリアは、どうやら私も道連れにしようとしているみたいでした。
ミーラが慌てて口を開こうとする姿が横目に映り、私は咄嗟に魔法でミーラの口を塞ぎます。
ミーラの気持ちは嬉しいですか、今これを呪具だと認めるわけにはいかないのです。
「くくくっ」
「な、なにがおかしいの…」
殿下が面白そうに笑いだしました。
マナビリアはあれだけお茶会に参加していたにも関わらず、殿下の顔を知らないのか、殿下を睨みつけます。
「ねぇ、アンタさ本当にこれが呪具だといってるの?」
「…そうよ」
「アニー嬢、この腕輪はどこでもらった?」
殿下の問いかけに私は堂々と胸を張り、そして答えました。
「この腕輪はお母様から譲り受けた品物です。
まだお父様とお母様が婚姻する前、お父様にプレゼントされたといっていました」
「な!?」
私の言葉にお父様が驚愕します。
私はそんなお父様を見て落胆しました。
お母様を殺す計画に意図的に関わっていなかったとしても、…お父様はお母様にプレゼントした物を覚えていないのね。
私はお父様の様子に思わず目を細めました。
「おい、”男爵”。お前は先程自分は無罪といっていたな。
お前が”プレゼント”したアクセサリーを、お前の女とその娘は”呪具”だといってるんだが?」
「知らない!私は本当に知らない!
呪具だっていうのもこの女のでたらめに違いない!」
「アニー嬢、あれを」
「はい。…ミーラ、殿下に呪具探知機をお渡しして」
探知機を持っていたミーラに殿下に渡すように告げ、私は手首に嵌めていたブレスレットを外して手を伸ばしていたヴァル様に手渡しました。
「これは公爵家で保有している呪具探知機だ。
呪具と判断したものに触れると点灯する仕組みになっている」
「探知機…?ならば早くブレスレットを試してみてくれ!!!
絶対呪具なんかではない!!!」
そんなお父様の願いもむなしく、私がヴァル様にお渡しした腕輪はお父様の目の前でもピーという音を奏で点灯しました。
勿論事前に調査済みのため、私達は少しだけ驚くフリをします。
「そ、そんな…そんな馬鹿なことが…」
「衝撃を受けているところ悪いが、これだけではない。
お前が”クラベリック前侯爵”にプレゼントしたありとあらゆる品物が呪具だと判明した」
「その通りです。私が確認しました」
一歩前に出て告げると、ギロっとまるで人を殺せるかのような目つきで睨まれました。
でも怯むつもりはありません。
「ですが見つけた呪具は全て”端末”であり、親機ではありませんでした」
「…そこでこんな話は聞いたことはないか?
”呪術者は発信機である親機を常に身につけているものなのだ”と」
殿下とヴァル様は一歩ずつ、ゆっくりとした歩行でマナビリアに歩み寄ります。
「そしてもう一つ、面白い話を聞いたことがある。
知りたいか?それはな”クラベリック侯爵夫人は常に血のように真っ赤なネックレスを身につけている”というものだよ」
殿下の言葉にお父様はマナビリアを勢いよく振り返りました。
そしてビクリと体を跳ねらせるマナビリアは、伸ばされたヴァル様の手から逃れようと暴れだします。
「あああああああああ!!!触れるな!私に触れるなああああああ!!!」
けれど二人の騎士がマナビリアを押さえつけていたために、どう暴れても逃れることは出来ませんでした。
ブチっとチェーンが切れ、真っ赤なネックレスがヴァル様の手に収まりました。
殿下がそのネックレスに呪具探知機を当て…
そして「ピー」と呪具探知機が鳴り響きました。
信じられないとばかりに、これでもかと目を見開くお父様。
お父様のその様子を見て、私はやっぱりこの人は利用されただけなのだと、そう思いました。
それでもお父様は様々な面から、ずっとお母様を裏切っていたことは事実。
当然私は許すつもりもありません。
「貴族を殺害した罪、そして保有・使用禁止物違法の罪でお前は処刑されるだろう」
殿下がマナビリアを見下ろしてそう告げました。
「…うまく…全てうまくいっていたのに……」
「お前がいなければ私達は幸せに過ごせていたのよ!!!疫病神が!!」
「そうだ…、そうだ!全てお前たちが悪いんだ!」
マナビリア、エリア、そしてお父様と、次々と浴びせられる暴言に私は眉を顰めました。
特にお父様の“お前たち”という言葉。
いったい誰を示しているのだと、私はとても不愉快に感じました。
「黙れ」と騎士の方々が三人の顔を地面に押し付けます。
口が強制的に閉ざされたため言葉での責めはなくなりましたが、視線は相も変わらずに鋭いままでした。
「お父様、呪具だと知らなかったは言い訳にしかなりません。貴族として、見分を深めることをお勧めします」
「”マナビリア”、平民の貴女が貴族を死に追いやった罪、きちんと償っていただきます」
「そしてエリア。
貴女も禁止物保有の罪で裁かれるでしょう。
……勿論他の罪が発覚した際は更に刑は重くなるでしょう」
言いたいことは沢山ありました。
ですがこの方たちに言っても無駄な気がして、私は最低限の言葉だけを一人一人目を合わせて言いました。
私はヴァル様、そして騎士の皆さんと目を合わせました。
これで終わったのね。と安堵します。
すると先程も聞いたドドドドドドドドドという地鳴りのような馬の走行音が聞こえて、私はキョロキョロと辺りを見渡しました。
「あら?もう終わったの?ざんねーん」
「公爵夫人…」
「お、君がヴァルの婚約者か!初めましてだな!」
「スターレンズ公爵…」
何をしに来たのかといえば言葉が悪いですが、心当たりのない私は首を傾げました。
そしてすぐに我に返り、すかさず頭を下げます。
「あ…、初めましてアニー・クラベリックと申します。
このような場で挨拶することとなってしまい…」
「いやいい。連絡もなしに来たのは私達の方だからな」
確かに夫人は陛下にお父様の事、そして領地の現状を報告してくださるとは言っていましたが……。
「陛下直々の言葉を届けに来た。
”ダニー・クラベリック!人々の手本になるべき存在の貴族が率先して法を犯し、更には能力不足が領地を治めるなど豪語同断!貴様から身分をはく奪する!”
だってさ」
「ま、待ってくれ!能力不足?!私は今までうまくやって…」
「誰に対して口を聞いている」
「うっ、…しかし私は今までもうまくやってきました!
それなのに能力不足で身分を剥奪…納得ができません!!」
「前侯爵が亡くなりアニー嬢が手を加えるまでの数年間の帳簿は既に見た。意味も分かっていない数字の羅列に頭が痛くなったよ。
この分だとアニー嬢が出て行ってからのこの数カ月の帳簿は果たしてどうなっているのか……それに他の領地に比べて異常な程の税の高さに、この邸の現状…ハハハ!
今まで耐えてきていたアニー嬢や使用人たちには尊敬に値するな!」
「な、何故あの子供の名前が出てくるんだ…?」
「……はぁ…。お前の理解力には期待できんな。
だが一つ教えてやろう。」
公爵様はコツコツと靴の音を鳴らしながら静かに、お父様に近付きます。
お父様は徐々に表情が強張っていきました。
公爵様からの威圧……でしょうか?
そして公爵様がお父様の襟元を掴み上げ、むりやりお父様の体を持ち上げ耳元で囁きます。
”領地管理は決してお前ごときが出来るものではない”
静かに告げられた言葉は何故か開放的な外の筈なのに、響いてるかのように鮮明に聞き取れました。
公爵様はお父様から手を離し、私達に笑顔を向けます。
もちろん手を離されたお父様はそのまま地面へとダイブしました。
「さて!アニー嬢よ、ダニー・クラベリックが当主から外された今クラベリック侯爵の爵位を継げるのは君だけだ。
……君はクラベリック領をどうしたい?」
スターレンズ公爵にそう問われ、私はずっと考えていたことをこの場で話しました。
「私は…」
◇
あれから私は公爵家に戻り、ヴァル様の婚約者として教育を受け、そして遂にヴァル様の妻として白いドレスを身に纏っていました。
お母様の形見としてずっと手首に嵌められていたブレスレットは呪具だと発覚した今もうありませんが、代わりにヴァル様から送られた指輪が輝いています。
「肯定されてしまえば困るが………後悔はしていないか?」
「しておりません」
侯爵として後を継ぐという事は、次期公爵のヴァル様との結婚が難しいという事でもあります。
家族だと思っていた方々に裏切られ利用されてきた私は、本当に愛する方と共になりたい。
今度こそ、幸せになりたいと思っているのです。
「それに……」
「それに?」
首を傾げるヴァル様に私はにこりと微笑みました。
「私すごく我儘なのです」
あの時スターレンズ公爵、ヴァル様のお父様から問われた私は王家への領地返上を願いました。
将来お母様のような立派な領主として侯爵を継ぐことを目指して勉学に育んでいましたが、このような問題を起こしてしまった私には資格がないと諦めました。
ですが魔法使いとして眞子を帰還させたことで殿下に貢献し、そして私が行ってきた領主管理能力をかってくれた陛下がスターレンズ公爵にそのままクラベリック領を与えてくださると約束してくれたのです。
ちなみにこの事はまだヴァル様は知りません。
そして数年後、魔法使いだという事を明かした私は名乗り出ることを恐れていた魔法使いたちを旧クラベリック領に招き、様々な魔道具を開発していきました。
有り得ないほどに高い税を課せ、領民が逃げてしまった旧クラベリック領は、魔法が使えない人たちでも使える魔道具を開発し販売していることで、今とても繁栄しています。
私はお母様の遺体を旧クラベリック領全てを見渡せるよう高い場所に移しました。
そして立派な墓に、私は綺麗な花を置いて手を合わせます。
(お母様、みてくれていますか?)
お母様との”魔法を使えることは内緒”という約束は破ってしまいましたが、でも、とても信頼できる方たちなのです。
だからこそお母様の土地をここまで繁栄させることができ、そして私も愛する人と幸せに暮らすことが出来ました。
(だから安心してくださいね)
見上げた空は雲ひとつなく、青空が広がっておりました。
fin
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