「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん

文字の大きさ
30 / 41

㉚結末に向けて

しおりを挟む



私はイルガー先生と共に部屋を出ました。

私のお腹の中にアルベルト様との子がいることを先生から聞いて、もう今迄行っていた“仕事”をやめる事を決めたのです。

そもそもです。
今更ながらではありますが、私はなんて馬鹿だったのでしょうと、そう思いました。
爵位は低くとも貴族の娘として生まれ、そして教育も受けてきたはずなのに、上に立つ者としての考え方が出来ていなかったのです。
身分の差はあろうとも、私は私と、そしてアルベルト様との婚姻で出来た様々な関係を壊す事にならないように、確固たる意志を持って臨まなければいけませんでした。

まず公爵家から私達へと勤務先を変更してくれた使用人たち。
アルベルト様がいなかった間、私が目を掛けてそして守らなければならなかったのに、一部とはいえ仕事を奪い、そして雇用主以外の指示に従わせ、不安にさせてしまいました。
しかもその間のメンタルケア等も全くせずに放置状態。寧ろ私のことを気遣ってくれていました。
これでは雇用主として失格です。

そしてアルベルト様とアルベルト様との間で出来たお腹の子。
私はアルベルト様がいない間の主人として、皆を守らなければならなかったのにそれを放棄してしまいました。
くだらな……くはないと思いますが、それでもメイド達の仕事を取り上げる事ではなく、体力を付けたいのなら他にも方法はいくらでもありました。
お散歩の時間を増やす。乗馬をする。剣術を習う。
勿論、剣術でなくとも構いません。
体を動かすような事であればなんだっていい筈なのです。
それに自身の体調不良を放置し、危うく授かった大切な子の命まで危ぶまれるところでした。

もう私の体は私一人のものではない。
私はそんな簡単なことに気づき、そう意識付いたのです。

「本当に、本当に安心しました」
「ごめんね。今迄不安な思いをさせてしまって…」

イルガー先生と共にと言いましたが、部屋の前で待機していたシェフのレンズも一緒です。
レンズによるとお義母様は客室か、ミレーナ様が寝泊まりしている私の部屋にいるだろうとのことでした。
何故ミレーナ様が私の部屋にいるのかについては、お義母様から直接話を伺っていない為、どのような意図を以っているのかはわかりません。
仕事をやめる事と共に、そこについても確認する予定です。

(でもきっといい理由ではないのでしょうね。
掃除を全て任せたというわりには、掃除しなくてもいい部屋として夫婦の寝室と私の部屋とアルベルト様の部屋があったのだから)

当時…といっても昨日までですが、私一人で行っていた為に対象外の部屋があることがありがたかったため、気にも留めていませんでした。

ぐっすりと眠ることが出来たからか、それとも部屋を出るまでにレンズが持ってきてくれた料理が力をくれたからか、それとも気持ちの変化があったことで体にも良い変化となったのか、私は自分でもびっくりなほどしっかりした足取りで歩けていました。
そしてエントランスホールにつくと、客室がある階ではなく、寝室がある階から使用人たちが見えたのです。
私に気付いた使用人たちは目を輝かせて階段を駆け下りました。
危ないとは思いましたが、それでもとても嬉しそうな表情をみたら止める気になりませんでした。

「奥様!もう歩いても大丈夫なんですか?無理してませんか?」
「奥様!もう安心して下さい!旦那様が帰ってきましたよ!」
「奥様!旦那様が今あの人達をとっちめてくれてますよ!」

今迄私に気遣い、接触を控えていた使用人たちがそれは嬉しそうに笑みを浮かべながら次々に言葉を掛けて来ます。

(私は本当に今迄馬鹿なことをしていたのね…)

守るべき人たちに、私は逆に守られていたのですから。
本当に不甲斐なさを感じましたが、私はぐっと噛みしめ、なんでもないことのように笑いました。

「ええ。もう大丈夫、無理もしていないわ。
それより今迄ごめんなさいね、今まで不安な気持ちにさせてしまっていたと気付いたの。
これからはもうしないわ。今すぐにでも正しい状況にするつもりよ」
「じゃあ奥様が私たちの仕事をすることはもうないってことですね!?」
「ええ、そうよ」
「じゃあじゃあ!これから奥様のお世話をしてもいいってことですね!?公爵夫人じゃなくて!」
「公爵夫人が連れてきたあの令嬢でもなくて!」
「ええ、お義母様には公爵家に帰ってもらうつもりだから、ミレーナ様も一緒に戻られると思うわ」

やったー!とはしゃぐメイド達に私はくすりと笑い、お義母様が今いる場所を他の使用人が教えてくれたため、私は私の寝室へと向かいました。

今迄の誤った状況がとても不安だったのか、ほぼ全てと言ってもいいくらい部屋の前には使用人たちが集まっていました。
いない者と言えばシェフ達くらいです。

私は何も言わずとも、私に気付いた使用人たちが道を開けてくれたお陰で部屋へとたどり着くことが出来ました。
そしてとんでもない言葉が聞こえてきたのです。

「……この子は、私の子、です…」

お義母様がミレーナ様の肩を抱き、消えてしまいそうな程に小さな声でそういっているところを聞いてしまったのです。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

処理中です...