「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん

文字の大きさ
29 / 41

㉙公爵夫人について

しおりを挟む
■(視点変更→公爵夫人)


天は私の味方だと、私は本気で思っていた。

私は平民の両親のもとに生まれた。
だけど身分は関係ないと思えるほど、裕福で幸せな暮らしをおくれていたのだ。

何故なら私の髪は黒いから。
髪が黒いことで周りは褒め称える。
この世界では髪の色が濃い人は敬われるからだ。
しかも私のような真っ黒な髪は特に。


遥か遠い昔、世界には魔法を使う魔法使いがいたとされていることは平民でも知っていることだ。
現代では魔法は都市伝説のようにいわれているが、実際に存在していたことは、昔から伝えられている歴史からも事実だとわかっている。
でも、だからこそ敬われているのだ。
この世界では魔法使いが発見した沢山の物が、今の生活の土台になっているから。
食材にしろ、薬にしろ、そして生活用品における物質や素材。
魔法使いがいたからこそ、発掘でき、利用方法が開発出来たのだ。

だから魔法が失われた今でも、魔法使いの祖先との繋がりが目に見えてわかる、濃い髪の色を人々は敬っている。


私は両親に愛されて育った。
可愛いと、生まれてくれてありがとうと、何度も何度も感謝された。
だから口にしたことがない願い事は、口にする前に与えられた。
そして欲しいと思ったものは、両親じゃなくても叶えられた。
与えられた可愛い洋服を着る私。
美しいアクセサリーを身に着ける私。
宝石のように美しいスイーツを口いっぱいに含む私を羨む同性の眼差し、そして熱い視線を向ける男性の眼差しを独占した。

私の願いは何でも叶う。
世界は私のためにあるのだ。
そう思うくらいなにもかもが順調だった。

でもそれは成人を迎える年齢で終わりを迎えた。

「どうして私があんな男と結婚しなくちゃいけないのよ!」

暮らしている町の町長の息子との縁談話が舞い込んだのだ。
鼻が潰れ、体つきも筋肉というより肉の塊、見た目の良いところなんてなにもないのにプライドだけは高い、誰がみても最低な男。
そんな男との結婚なんて、死んでも嫌だった。

私は泣いて嫌がった。

母も父も嫌がる私を叱った。

「今まで貴方の希望をなんでも叶えてあげたでしょう!?」

そういって両親は私を叱った。
でも思い出してみてほしい。
私は何も欲しいとはいってない。
あなた達が勝手に私に買い与えただけ。
だから言ってやった。

私の希望!?私がいつ願ったというの!?
実際に口にしたわけでもない私の願いを勝手に叶えたのはアナタたち!
そしてこの町の人達よ!!

でもその理屈は通じなかった。
親不孝者と罵られ、私は初めて頰を打たれた。

だからわからなかった。
理不尽に思った。

どうして私がこんな目にあわなくてはならないの!

私は家を出た。
そして“友人”の元に助けを求めた私を、友人はなにも言わずに受け入れてくれた。
心優しい友人。
お金をあまり持っていない事については残念だけど、それ以外は完璧な私の友人。
友人の元で一晩過ごし、精神が安定した私は次の日には家へと戻った。

家に近づくたびに、また結婚を言われたらどうしようと思ったが
友人の慰めで私は嫌な想像を打ち消して家へと向かったのだ。

そして思った。

(やっぱり天は私の味方なのよ!!)

家に向かう帰路で、私は目の前に飛び込んできた光景をみてそう思った。

豪華な馬車にひかれた両親の姿。
血だらけで、誰が見てももう息はないなと思えたし、例えあったとしても助からないだろうと思えるような状態だった。

そりゃあ最初は困惑した。
どうして両親が。と。
だけどすぐに考えが変わった。

馬車から出てきた金持ちそうな貴族は私を見て、引き取りたいと申し出たのだ。

ああ、やっぱり私は特別なんだ。
死んだ両親は特別な私を蔑ろにしようとしたから、その報いを受けたんだ。

私はそう思った。

そして私は両親を殺した貴族たちの養子として迎え入れられ、様々な教育を受け、デルオ公爵の後妻として嫁いだのだ。





しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います

木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。 サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。 記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。

旦那様、離婚してくださいませ!

ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。 まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。 離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。 今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。 夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。 それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。 お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに…… なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!

処理中です...