悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
12 / 194
領地編

11 新しい家族と話しましょう

しおりを挟む
 
 エリーナとラウルが庭園でお茶を楽しんでいると、エルディに連れられてクリスがやって来た。遠慮がちな笑みを浮かべて、一緒に座ってもよいかと尋ねてくる。二人に断る理由もなく、三人でお茶を飲みながら談笑することになったのだ。

 とはいっても、早々に計画を狂わされているエリーナは、どう話をすればつかめずにおり、この時ばかりは年長者のラウルが心強い。

「クリス様は、ディバルト様の縁戚だそうですね。領はどちらですか?」

「グランバルト領です。父は子爵で領地がそこにあるので」

 弱小貴族ですから領地はほんの一部なんですけどねと、クリスは苦笑する。

「それはずいぶんと遠いですね」

 グランバルト領は王国の西にあり、アスタリア王国と接している領地だ。穀物の実りが豊かで、絹織物が有名である。王都がやや東よりであり、間には険しい山々が聳えたっているため、馬車でも一週間はかかる。

「はい。領の特産品を持ってきたので、後で召し上がってください」

 クリスの表情を伺っていると、パチリと目が合い微笑まれた。ぐっと覚悟を決めて口を開く。

「あの、クリスと呼んでも?」

「もちろん。エリーと呼んでもいい?」

 紅茶を片手に微笑むクリスは、全身からキラキラしたものが溢れている。紅茶を飲むしぐさも優美で、社交界に出れば女性に囲まれていそうだ。

(わぁ……これは攻略キャラ確実ね。義理の妹が悪役令嬢というのも、あるわね)

 現在攻略キャラ候補は、ラウルにクリス。エリーナは二人を視界に入れ、絵になるわと紅茶をすする。ヒロインが誰を選ぶのかは分からないが、エリーナに関わりが深い二人を取られれば、なるほど、意地悪するのもわかる。

「失礼でなければ、お尋ねしたいのですが」

「なんですか?」

 そうラウルが前置きしてから、クリスの顔を見て訊いた。

「赤色の髪と金色の目は、この国では珍しいと思いまして」

 エリーナはラウルと一緒に何度か街に出ているが、その髪色と瞳をしている人は見たことがなかった。クリスの髪は暗めの赤色で、光を受けると透けて明るく見える。
 そう言いにくそうに口にしたラウルに対し、クリスはあぁと自分の髪を横目で見て事もなげに返す。

「母がアスタリア王国の出身なんです。上二人は父の血が濃く出たんですが、私は母似なんです」

 そういうことかと、エリーナとラウルは納得する。国境付近の領地では、国を跨いだ結婚も珍しくはない。王都に住む貴族の間でも、友好国の貴族と婚姻を結び、家の繋がりを強固にすることは昔から行われてきた。
 そして、クリスは子爵家の三男であり、位の低い貴族の次男や三男が高位の家の養子に迎え入れられることはよくあることだ。

「その髪色と瞳はすてきだわ」

 さぞスチル映えするだろうと思いながら、お菓子に手を伸ばす。

「エリーも、話に聞いていた以上に可愛くて、驚いたよ。この庭園のどんな花より、エリーが可憐で美しい」

(きゃぁぁぁ! 怖い! さらっと恥ずかしいセリフが言える攻略キャラ怖いわ! そういうのは、ヒロインに言ってあげて!)

 笑顔から放たれる光が三割増しになり、言葉の破壊力にお菓子が指先から落ちる。ジャムをたっぷりぬったスコーンが、ぽとりとドレスの上に……。

「きゃぁ、ジャムがドレスに!」

「お嬢様、着替えますよ」

 サリーがすっと近寄り、応急処置とジャムを布でとる。ブルーベリージャムは急いで染み抜きをしないと、色が残ってしまうだろう。

「クリス、ラウル先生。少し中座いたしますわ」

 ぺこりと頭を下げ、サリーとともに屋敷の中へ入る。それをクリスとラウルは気にしないでと、穏やかな表情で見送った。エリーナが視界から消えると、すっと真顔になって、両者の視線が絡み合う。

「クリス様……エリー様を困らせるようなことは、お控えください。そもそも、私は貴方を信用していませんので。エリー様の害になると判断すれば、排除にかかります」

 先ほどとは打って変わって、冷ややかな声を出すラウル。その瞳には冷徹な光があり、優しい好青年は姿を消していた。

「ラウル先生こそ、邪な目を妹に向けないでいただきたいですね。エリーは僕が、傍についていますから」

 ラウルの視線を正面から受け、堂々と僕がを強調して言い返す。子供らしからぬ敵をけん制する表情だ。

「やはり、エリー様目当てですか」

「まさか。兄ならば、妹を守るのは当然でしょう?」

「どこまでが本心やら」

「先生も、契約内容はご存知でしょう。ならば、そういうことです」

 ティーカップを持ち上げ肩をすくめるクリスに、ラウルは油断できないと警戒を強める。恩義あるローゼンディアナ家に突如現れた不穏分子であり、先ほどの一面を見れば怪しさしかない。
 そうやって二人が冷たい火花を飛ばし合っているとはつゆ知らず、戻って来たエリーナは楽しそうに談笑しているラウルとクリスの輪に戻る。

「おかえりエリー。ラウル先生はとても博識だね。アスタリア王国について、色々教えてもらってたんだ。僕は、あまり母方の国には行ったことがないから」

 新しいドレスに着替えたエリーナは、そうなのと、席に着く。サリーが新しくお茶を淹れてくれた。

「アスタリア王国は南北に長い国ですから、北には雪山が、南には砂漠があるそうです。美しい絹織物の、アスタリア織は社交界でも人気になっております」

「一度は行ってみたいわね」

 紅茶をすすりながら興味を示したエリーナに、クリスがパッと破顔する。花が咲いたように笑うクリスを見て、攻略対象は笑顔のレベルが違うなと少し引く。悪役令嬢の邪気を浄化されそうだ。

「ぜひ、一緒に行きましょう」

「えぇ」

 社交辞令のつもりだったが、思いのほか喜ばれて、エリーナは愛想笑いを浮かべる。
 そして楽しいティータイムが過ぎ、この日から食卓に一人増え、さらににぎやかになったのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...