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学園編 16歳
27 絵画を鑑賞しましょう
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しとしとと雨が降っている。弱い雨が窓ガラスを濡らし、時たま大きな雨粒の音が鼓膜を震わせる。窓から入る光は少ないが、シャンデリアに灯されている蝋燭の火が薄オレンジの光を部屋の隅々まで届けていた。それらは部屋にかけられている絵画を照らし、見るものを引き込ませる。
(さすが、王宮絵師の作だわ)
エリーナは王宮にある画廊にいた。ここ数日雨続きで、休日の今日も塞ぎがちであった。つまらなさそうにロマンス小説のページをめくるエリーナに、クリスが王宮に行かないかと声をかけたのだ。クリスは領地のことで王宮に届けるものがあるようで、帰りにおいしいプリンでも食べに行こうと誘われた。
暇を持て余していたエリーナは二つ返事で同行を決め、クリスが用事を済ますまで画廊の絵を眺めて時間を潰すことにしたのだ。クリスから何かあった時にとおもちゃの笛を渡され、彼はドアを警護する兵士にくれぐれもと念を押して出て行った。
この画廊は、字の如く絵画が並んでいる廊下であり、政治が行われている王宮の中枢と王宮に用がある人が待つ貴賓室をつないでいる。長さは50メートルほどあり、歴代の王やその家族の絵が飾られていた。
(絵画をゆっくり見る機会はあまりなかったけれど、いいものね)
最初は貴賓室で待っていたのだが、だれもいないそこは退屈で、気晴らしに絵を眺めることにしたのである。廊下とは言っても、幅は10メートルあり、中央にはところどころソファーも置かれている。
(歴代の王を見ていると、ラウル先生の授業を思い出すわ)
貴賓室側から初代王に始まり、現王まで続いている。現王の絵は新しく、ジークの肖像画も隣に並んでいた。現王の肖像画の二つ前に、前王と家族の肖像画が飾られている。その隣には前々王の肖像画もあった。 エリーナは何気なく、二つの肖像画の前で足を止めた。
(この方々におじい様はお仕えになったのね)
前々王の晩年と前王の代で、親衛隊として仕えていたと聞いている。似た風貌の二人の王は、銀の髪が印象的で凛々しい表情をしている。
(銀の髪が殿下と同じだわ)
代々王族は銀色の髪をしており、尊い色とされている。近くにあったソファーに腰を下ろし、三代の王が描かれている絵をぼんやりと眺めていた。
(ラウル先生……とくにこの辺りの王について熱心に研究してたわね)
前々王は初めて南の国と平和条約を結び、王女を正妃に迎え入れている。それは歴史的にも素晴らしいことであるとラウルは力説していた。前王のすみれ色の瞳は、王妃様から受け継いだ南の国の人々に多く見られる色らしい。
祖父から前王、前々王の話を聞いて目を輝かせるラウルを思い出し、くすりと笑う。ラウルと学園で話すことはほとんどないが、一か月に二回ほどローゼンディアナ家に顔を出してくれる。その度に良い人はいないのかと聞くのだが、ヒロイン候補は現れないままだ。
考え事をしていると、ふと近くに人の気配を感じて顔を横に向け、叫びそうになった。王宮につながるドアは開けたままになっており、そこにジークが立っていたからだ。
「エリーナ。俺の顔を熱心に見てくれて、嬉しいな」
「……え。どうして殿下がここに?」
「ここは王宮。王子の俺がいて何が悪い」
そしてジークは許可も求めずに、エリーナの隣りに座る。思わず腰を浮かして距離を取ってしまった。心外そうにジークの眉がピクリと動く。
「いや、ここは貴賓室に続く廊下ですし」
王族の方々いる居住スペースとも離れており、貴賓室に用もないだろう。
「貴賓室を抜けた先に温室があるんだ。そこで昼寝でもしようかと思って」
護衛をまいて来たと悪びれもせず笑うジークに、今こそ笛を鳴らすべきかとドレスのポケットに入っている笛の存在を意識した。
「王子ともあろう方が、お暇なんですね」
今頃慌ててジークを探している護衛が可哀想になったので、少し言葉に棘を持たせた。
「時間は作るものだ。そのおかげで、エリーナに会えた。クリス殿が来ているんだろう?」
「そうですわ」
「ということは、今はクリス殿がいない……」
ジークはぼそりと口の中でつぶやくと、少し考えるそぶりを見せ真剣な表情をエリーナに向けた。
「エリーナ。俺の側室に入らないか?」
何の前置きもなく告げられた言葉は、エリーナの頭を強く揺さぶった。ブルーサファイアの真剣な瞳が、エリーナに向けられている。冗談を一切感じさせない声音。思いがけない言葉に、パクパクと口を動かすが言葉にならない。どうしようと周りを見回しても人はおらず、強くなった雨が窓ガラスを叩いていた。
(さすが、王宮絵師の作だわ)
エリーナは王宮にある画廊にいた。ここ数日雨続きで、休日の今日も塞ぎがちであった。つまらなさそうにロマンス小説のページをめくるエリーナに、クリスが王宮に行かないかと声をかけたのだ。クリスは領地のことで王宮に届けるものがあるようで、帰りにおいしいプリンでも食べに行こうと誘われた。
暇を持て余していたエリーナは二つ返事で同行を決め、クリスが用事を済ますまで画廊の絵を眺めて時間を潰すことにしたのだ。クリスから何かあった時にとおもちゃの笛を渡され、彼はドアを警護する兵士にくれぐれもと念を押して出て行った。
この画廊は、字の如く絵画が並んでいる廊下であり、政治が行われている王宮の中枢と王宮に用がある人が待つ貴賓室をつないでいる。長さは50メートルほどあり、歴代の王やその家族の絵が飾られていた。
(絵画をゆっくり見る機会はあまりなかったけれど、いいものね)
最初は貴賓室で待っていたのだが、だれもいないそこは退屈で、気晴らしに絵を眺めることにしたのである。廊下とは言っても、幅は10メートルあり、中央にはところどころソファーも置かれている。
(歴代の王を見ていると、ラウル先生の授業を思い出すわ)
貴賓室側から初代王に始まり、現王まで続いている。現王の絵は新しく、ジークの肖像画も隣に並んでいた。現王の肖像画の二つ前に、前王と家族の肖像画が飾られている。その隣には前々王の肖像画もあった。 エリーナは何気なく、二つの肖像画の前で足を止めた。
(この方々におじい様はお仕えになったのね)
前々王の晩年と前王の代で、親衛隊として仕えていたと聞いている。似た風貌の二人の王は、銀の髪が印象的で凛々しい表情をしている。
(銀の髪が殿下と同じだわ)
代々王族は銀色の髪をしており、尊い色とされている。近くにあったソファーに腰を下ろし、三代の王が描かれている絵をぼんやりと眺めていた。
(ラウル先生……とくにこの辺りの王について熱心に研究してたわね)
前々王は初めて南の国と平和条約を結び、王女を正妃に迎え入れている。それは歴史的にも素晴らしいことであるとラウルは力説していた。前王のすみれ色の瞳は、王妃様から受け継いだ南の国の人々に多く見られる色らしい。
祖父から前王、前々王の話を聞いて目を輝かせるラウルを思い出し、くすりと笑う。ラウルと学園で話すことはほとんどないが、一か月に二回ほどローゼンディアナ家に顔を出してくれる。その度に良い人はいないのかと聞くのだが、ヒロイン候補は現れないままだ。
考え事をしていると、ふと近くに人の気配を感じて顔を横に向け、叫びそうになった。王宮につながるドアは開けたままになっており、そこにジークが立っていたからだ。
「エリーナ。俺の顔を熱心に見てくれて、嬉しいな」
「……え。どうして殿下がここに?」
「ここは王宮。王子の俺がいて何が悪い」
そしてジークは許可も求めずに、エリーナの隣りに座る。思わず腰を浮かして距離を取ってしまった。心外そうにジークの眉がピクリと動く。
「いや、ここは貴賓室に続く廊下ですし」
王族の方々いる居住スペースとも離れており、貴賓室に用もないだろう。
「貴賓室を抜けた先に温室があるんだ。そこで昼寝でもしようかと思って」
護衛をまいて来たと悪びれもせず笑うジークに、今こそ笛を鳴らすべきかとドレスのポケットに入っている笛の存在を意識した。
「王子ともあろう方が、お暇なんですね」
今頃慌ててジークを探している護衛が可哀想になったので、少し言葉に棘を持たせた。
「時間は作るものだ。そのおかげで、エリーナに会えた。クリス殿が来ているんだろう?」
「そうですわ」
「ということは、今はクリス殿がいない……」
ジークはぼそりと口の中でつぶやくと、少し考えるそぶりを見せ真剣な表情をエリーナに向けた。
「エリーナ。俺の側室に入らないか?」
何の前置きもなく告げられた言葉は、エリーナの頭を強く揺さぶった。ブルーサファイアの真剣な瞳が、エリーナに向けられている。冗談を一切感じさせない声音。思いがけない言葉に、パクパクと口を動かすが言葉にならない。どうしようと周りを見回しても人はおらず、強くなった雨が窓ガラスを叩いていた。
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