悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

60 夜会に参加いたしましょう

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 春休みの後半。社交のシーズンが本格的に始まるのに先駆け、バレンティア公爵家で夜会が開かれた。ルドルフからの招待状が丁寧にクリスとエリーナの両方に来ており、参加することとなった。クリスはルドルフと話が合うようで、他の夜会でもよく話している姿を見ている。

 先日17歳の誕生日を迎えたエリーナの誕生日パーティーにも来てくれ、一緒に見に行った劇の台本をプレゼントしてくれた。しかも悪役令嬢役のサイン入りで、エリーナはあまりの嬉しさと興奮で倒れるかと思ったのだ。ルドルフの他にもミシェルからはくまのぬいぐるみが、ラウルからは万年筆が贈られた。公務があって来られなかったジークは花束とペンダントを送って来た。素晴らしい意匠が凝らしてあり、一目見たクリスが国宝級だねと評したので着けられない。
 そしてベロニカからはプレミアがつく超人気作家のサイン入り書下ろし本数冊が、リズからは西の国の珍しいガラス細工が贈られた。クリスからは本日の装い一式だ。

 そのクリスはエリーの美しさは日々進化していると、仕上がりを見て声を漏らしていた。身に着けたドレスは淡いクリーム色に茶色のリボンが目を引き、一瞬プリンを想像してしまった。胸元はしっかり開いており、エリーナの美しい肌に大きなアメジストのネックレスが映えている。髪はゆるく巻き上げられており、白い首筋とうなじが大人っぽい。

 クリスにエスコートされてパーティー会場に入れば、公爵家主催とあって人が多かった。重厚な楽団の音色に、華やかなドレスの数々。部屋は豪奢の一言で、その煌びやかさがテーブルに並んでいる料理をいっそうおいしそうに見せる。

「あ、ココナッツプリンがあるわ」

 エリーナはスイーツのテーブルに白いプリンがあるのを目ざとく見つけ、目を輝かせた。

「公爵夫人は南の国出身だからね。南の国の料理がいくつかあるよ」

 クリスはおいしそうな料理に目を奪われているエリーナを公爵夫妻の下まで連れていく。あとでたっぷりおいしい料理をエリーナに堪能させるため、すでに脳内でコースを造り上げていた。デザートはもちろんココナッツプリン。

 人の輪に囲まれている公爵夫人の隣りに、ルドルフの姿もあった。双子の妹はまだ幼いため夜会には出ていないようだ。公爵がこちらに気づいてくれ、微笑みかけて挨拶をしてくれた。

「これはローゼンディアナ伯、ようこそ我が夜会へ」

「ご無沙汰しております」

「お初にお目にかかります」

 二人とも丁寧に挨拶をすると、公爵夫妻は柔和な笑みを浮かべた。三人を一緒に見ると、ルドルフは父親似のようだ。深緑の髪に切れ長の目がそっくりだった。

「こちらが秘蔵の妹君か……ルドルフが興味を示すのも理解できる」

 渋く深みのある声だが、ルドルフより柔らかみがあった。

「父上……不用意な発言はお控えください」

 二人の背後にむすっとしたルドルフがいる。両親を前にすると子供っぽく見えて少し可愛く思ってしまった。
 水色の髪をした公爵夫人はうふふと笑い、エリーナとの距離を詰めた。じっと顔を見つめられ、目が合えば彼女も紫色の瞳をしていることに気が付く。

「きれいなアメジスト色の瞳ね。こんなに可愛い子を捕まえられていないなんて、ルドルフも意気地なしねぇ」

「母上!」

 おもしろそうに息子をからかう夫人に対し、ルドルフはわずかに怒りの表情を露わにした。冷静沈着なルドルフにしては珍しく、ますますエリーナの目には可愛く映る。両親に翻弄されるルドルフに少し親近感が持てた。

「可愛い妹が遠くに行ってしまうのが寂しくて、私もつい邪魔をしてしまうんですよ」

 朗らかに笑って妹を溺愛している兄をアピールするクリスに対し、公爵夫妻は和やかに笑っていた。冗談だと思ったのだろう。その後ろですでに被害を被っているルドルフは虚ろな目で微笑を浮かべ、過保護さをしみじみ感じているエリーナは苦笑した。三者三様の笑顔である。
 そして夫人はエリーナに目を留め、にこやかに微笑みかける。

「エリーナさん、不快に思われたら申し訳ないのだけど、その瞳の色はもしかしたら南の国に縁があるのかもしれないわね。南の国出身としては少し嬉しく思ってしまって」

 嬉しさと申し訳なさが混ざった表情で夫人はそう口にして、ねぇと同じ紫の瞳を持つルドルフを肩越しに見た。良識のある人であり、直接父親について言及はしない。

「そうかもしれませんね。だから、とても親しみが持てるのでしょう。今度うちの茶会に招待したいと思うのですが」

 少し腹黒い笑みを浮かべたルドルフがそう提案してエリーナの退路を断ってくる。

「あらいいわね。娘たちもエリーナさんに会いたそうだったから。今度正式に招待状を送るわ」

「あ、ありがとうございます……」

 ルドルフに誘われたならまだしも、公爵夫妻の前で言われたら断れるはずがない。クリスはルドルフを気に入っているため、口出しもしてこなかった。

 そして公爵夫妻の前を辞し、クリスとルドルフと踊ってから一息つく。ソファーで休んでいるうちに、クリスが手際よく料理を取ってきて渡してくれた。最初はエリーナの好きな料理をかたっぱしから取ってきてくれていたのが、最近はコース料理のように前菜から選んでくるようになった。なんでも、おいしい料理をおいしい順序で食べてほしいらしい。

「南の国の料理はスパイスが効いているものが多いわね。すごくおいしい」

「ここより熱い国らしいからね。家でも作ってもらうように料理長に言ってみるよ」

「えぇ。たまには他国の料理を食べるのもいいわよね」

 その後料理を満喫し、同じ学園の令嬢たちとおしゃべりをして夜会を後にした。馬車に揺られて帰路に着く。向かいに座っているクリスはエリーナがおしゃべりを楽しんでいる間、何人もの令嬢と踊っていたが一切疲れを見せていない。おしゃべりをしていたご令嬢の中にもクリスを狙っている人がおり、色々と訊かれたがはぐらかしておいた。

 リラックスした様子で窓の外を見ているクリスに、エリーナは先ほどの夜会で疑問に思ったことを口にする。

「ねぇクリス。クリスはわたくしのお父様について何か知っているの?」

 公爵夫人に南の国と縁があるかもしれないと言われ、真っ先に父親のことが頭に浮かんだ。母はエリーナと同じプラチナブロンドの髪だが、瞳は翡翠色だった。父親の正体はいまだに不明であり、何か手がかかりがあるなら探してみたいと思ったのだ。
 その素朴な疑問に対しクリスは苦々しそうに顔を歪め、静かに首を横に振る。

「それについては僕も知らないんだ。でも、残念ながらエリーの御父上は亡くなっているよ。ディバルト様はもしエリーの父親を名乗る人が出てきても、絶対に信じるなとおっしゃっていたから」

「おじい様はご存知だったのかしら」

「……それもわからない。でも、南の国の方だったのかもしれないね」

 リズもエリーナの父親については何も話していなかった。つまり、ゲームでも明らかになっていないのだろう。

「それなら、もしかしたら南の国に親戚がいるかもしれないのね」

 旅行記や小説でしか知らない国だが、なんだか親近感がわいてきた。頬を緩めるエリーナに対し、クリスは不満そうに表情を曇らす。

「エリー……家族が僕だけじゃ不満なの?」

 すねた声音に、エリーナは慌てて否定する。

「違うわよ。ちょっと思っただけ」

「ふ~ん……ならいいけど」

 クリスの前で父親の話は禁句かもしれない。エリーナは不機嫌になったクリスを見て、慌てて別の話題に変えたのだった。
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