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学園編 18歳
129 悪役令嬢の品格を見せましょう
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エリーナが声を発した途端、大広間中の視線が集まった気がした。クリスが少し驚いた表情をして、エリーナに視線を向ける。
(いつも優しく、私のことを想ってくれたクリス……絶対に失いたくない)
今ここで声を上げなければ、全てを奪われる気がした。今後の人生も、クリスも、自分の矜持さえも。エリーナは声を張り上げ、渾身の力を込めて自分の想いを口にする。
「わたくしは、自分が不幸だと思ったことはございません! そして仮に前王の血を引いていようとも、それに何の価値も感じませんわ!」
「黙れ小娘が、王家を愚弄するか!」
目をくわっと開き激昂する王に対し、エリーナは堂々と胸を張って言い返す。
「貴方のような人が王というなら、そんな王族になんの価値もありません!」
エリーナは悪役令嬢として数多くの王族を見てきた。中にはどうしようもないのもいたが、ほとんどは王族としての矜持を胸に民のために心を尽くしていた。
「わたくしは幸せです。おじい様が愛情をたくさん注いでくれ、多くの友人たちに恵まれ、返せないほどの愛情をいただいています。そして何よりもクリスがわたくしを幸せにしてくれています!」
クリスは目を見開いて「エリー」と小さく呟いた。クリスと目を合わせたエリーナは微笑んで頷き、「任せて」と小さく口を動かす。
「わたくしは友人たちを、クリスを信じています。わたくしがクリスを守ります。王族でなくても、ローゼンディアナ家が無くなっても、わたくしはクリスと共に生きます!」
エリーナは啖呵を切り、一息ついて気を落ち着かせる。友人たちへ視線を巡らせれば一様に心配そうな顔をしており、特にベロニカとリズが泣きそうな顔になっていた。
「だが、その男が身分を偽っていた事実だけは変えられぬ。この国で生きることはできぬと心得よ」
「かまいませんわ! クリスがいるなら、わたくしはどこへでも行きます。ここに生きる人たちに未練はあっても、この国に未練はありません!」
住み慣れた屋敷があり、心の通う友人たちがいるいい国である。だが、クリスという存在を許さないのであれば、エリーナにとって意味はない。
(おじい様は好きに生きればいいとおっしゃったわ……だから、後悔しない選択をする!)
それが、エリーナの答えであり今までの悪役令嬢に胸を張って言える想いだ。その言葉は人々の胸を打ち、エリーナの味方を増やしていく。
顔を真っ赤にした王が反論しようと口を開きかけた時、当事者でありながら事態を傍観していたクリスが動いた。警戒した衛兵が動きかけたが、ジークが手で制する。クリスはゆっくりエリーナに近づき、ふわりと笑いかけた。
だが視線を返すエリーナは不安げに眉尻を下げている。啖呵を切ったものの、具体的な解決の手立ては見えていないからだ。
「エリーの想いはとても伝わってきたよ。それほど愛してくれているなんて、僕は幸せだね」
そこで一息入れ、声を落として囁く。まるで周りには誰もいないように、彼はエリーナだけを見ていた。
「ねぇエリー。僕との契約覚えてる? 僕は、エリーが卒業したら僕自身に戻るって。そこから先は、エリーに任せるって」
エリーナは頷き返すが、何故今その話をされているのかが分からない。そしてクリスは苦しそうに顔を歪ませ、許しを請うような瞳を向けた。
「僕はエリーに嘘をついていたけれど、まだ好きでいてくれる? これからも、一緒にいてくれる?」
嘘という言葉にチクリと胸が痛むが、それを愛しさが包み込み癒していく。その嘘もこれから話を重ねて理解すればいい。そう思えた。
エリーナは全てを包み込むような笑顔を見せ、頷く。
「もちろんよ。だって、クリス以外考えられないもの」
その言葉を聞いたクリスは、心底安心して嬉しそうに破顔した。ついで王に向き直ると、その王は口角を上げており勝ち誇った笑みを浮かべている。
「嘘ということは、身分詐称の罪を認めるということだな」
「はい。確かに私はウォード家の生まれではありません」
クリスの返答に大広間にざわめきが起こった。ラウルとジークが険しい表情を見せ、どういうつもりだと目で問うている。その発言は圧倒的に不利になるからだ。
エリーナもその事実を覚悟していたとはいえ、ショックは小さくなかった。
「ですが、ウォード家に養子に入っただけです。なぜか出生記録が出されているようですが、養子手続きの書類がウォード家に残っているはずですよ」
「そんなことで言い逃れができると思っているのか。所詮は卑しい身の上だろう。その汚れた素顔を晒し、滅ぶがいい!」
クリスはいったい何者なのか。全員の関心がクリスに注がれる中、彼は落ち着き払った表情で溜息をついた。
「皮肉だね。邪魔になるから捨てたのに、それに救われるんだから」
クリスは口調を変え、王の左手で面白そうに見ているシルヴィオを一瞥して、怒りを滲ませた表情を王に向ける。クリスの纏う空気が張り詰めたものに変わり、口角を上げれば親しい人には同じ言葉が脳裏に浮かぶ。
魔王。
その眼光は鋭く、彼は悠然とまるで宣告をするように真実を告げる。
「知りたいのなら、教えてあげる」
エリーナは無意識のうちに唾を飲み込んだ。心臓の音が大きくなり、緊張が増す。見慣れたはずのクリスの横顔が、全くの別人に見えた。
「僕の名は、クリス・ディン・アスタリア。西のアスタリア王国、第三王子だ」
(いつも優しく、私のことを想ってくれたクリス……絶対に失いたくない)
今ここで声を上げなければ、全てを奪われる気がした。今後の人生も、クリスも、自分の矜持さえも。エリーナは声を張り上げ、渾身の力を込めて自分の想いを口にする。
「わたくしは、自分が不幸だと思ったことはございません! そして仮に前王の血を引いていようとも、それに何の価値も感じませんわ!」
「黙れ小娘が、王家を愚弄するか!」
目をくわっと開き激昂する王に対し、エリーナは堂々と胸を張って言い返す。
「貴方のような人が王というなら、そんな王族になんの価値もありません!」
エリーナは悪役令嬢として数多くの王族を見てきた。中にはどうしようもないのもいたが、ほとんどは王族としての矜持を胸に民のために心を尽くしていた。
「わたくしは幸せです。おじい様が愛情をたくさん注いでくれ、多くの友人たちに恵まれ、返せないほどの愛情をいただいています。そして何よりもクリスがわたくしを幸せにしてくれています!」
クリスは目を見開いて「エリー」と小さく呟いた。クリスと目を合わせたエリーナは微笑んで頷き、「任せて」と小さく口を動かす。
「わたくしは友人たちを、クリスを信じています。わたくしがクリスを守ります。王族でなくても、ローゼンディアナ家が無くなっても、わたくしはクリスと共に生きます!」
エリーナは啖呵を切り、一息ついて気を落ち着かせる。友人たちへ視線を巡らせれば一様に心配そうな顔をしており、特にベロニカとリズが泣きそうな顔になっていた。
「だが、その男が身分を偽っていた事実だけは変えられぬ。この国で生きることはできぬと心得よ」
「かまいませんわ! クリスがいるなら、わたくしはどこへでも行きます。ここに生きる人たちに未練はあっても、この国に未練はありません!」
住み慣れた屋敷があり、心の通う友人たちがいるいい国である。だが、クリスという存在を許さないのであれば、エリーナにとって意味はない。
(おじい様は好きに生きればいいとおっしゃったわ……だから、後悔しない選択をする!)
それが、エリーナの答えであり今までの悪役令嬢に胸を張って言える想いだ。その言葉は人々の胸を打ち、エリーナの味方を増やしていく。
顔を真っ赤にした王が反論しようと口を開きかけた時、当事者でありながら事態を傍観していたクリスが動いた。警戒した衛兵が動きかけたが、ジークが手で制する。クリスはゆっくりエリーナに近づき、ふわりと笑いかけた。
だが視線を返すエリーナは不安げに眉尻を下げている。啖呵を切ったものの、具体的な解決の手立ては見えていないからだ。
「エリーの想いはとても伝わってきたよ。それほど愛してくれているなんて、僕は幸せだね」
そこで一息入れ、声を落として囁く。まるで周りには誰もいないように、彼はエリーナだけを見ていた。
「ねぇエリー。僕との契約覚えてる? 僕は、エリーが卒業したら僕自身に戻るって。そこから先は、エリーに任せるって」
エリーナは頷き返すが、何故今その話をされているのかが分からない。そしてクリスは苦しそうに顔を歪ませ、許しを請うような瞳を向けた。
「僕はエリーに嘘をついていたけれど、まだ好きでいてくれる? これからも、一緒にいてくれる?」
嘘という言葉にチクリと胸が痛むが、それを愛しさが包み込み癒していく。その嘘もこれから話を重ねて理解すればいい。そう思えた。
エリーナは全てを包み込むような笑顔を見せ、頷く。
「もちろんよ。だって、クリス以外考えられないもの」
その言葉を聞いたクリスは、心底安心して嬉しそうに破顔した。ついで王に向き直ると、その王は口角を上げており勝ち誇った笑みを浮かべている。
「嘘ということは、身分詐称の罪を認めるということだな」
「はい。確かに私はウォード家の生まれではありません」
クリスの返答に大広間にざわめきが起こった。ラウルとジークが険しい表情を見せ、どういうつもりだと目で問うている。その発言は圧倒的に不利になるからだ。
エリーナもその事実を覚悟していたとはいえ、ショックは小さくなかった。
「ですが、ウォード家に養子に入っただけです。なぜか出生記録が出されているようですが、養子手続きの書類がウォード家に残っているはずですよ」
「そんなことで言い逃れができると思っているのか。所詮は卑しい身の上だろう。その汚れた素顔を晒し、滅ぶがいい!」
クリスはいったい何者なのか。全員の関心がクリスに注がれる中、彼は落ち着き払った表情で溜息をついた。
「皮肉だね。邪魔になるから捨てたのに、それに救われるんだから」
クリスは口調を変え、王の左手で面白そうに見ているシルヴィオを一瞥して、怒りを滲ませた表情を王に向ける。クリスの纏う空気が張り詰めたものに変わり、口角を上げれば親しい人には同じ言葉が脳裏に浮かぶ。
魔王。
その眼光は鋭く、彼は悠然とまるで宣告をするように真実を告げる。
「知りたいのなら、教えてあげる」
エリーナは無意識のうちに唾を飲み込んだ。心臓の音が大きくなり、緊張が増す。見慣れたはずのクリスの横顔が、全くの別人に見えた。
「僕の名は、クリス・ディン・アスタリア。西のアスタリア王国、第三王子だ」
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