悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
146 / 194
アスタリア王国編

138 庭園を散策しましょう

しおりを挟む
 エリーナは侍女に案内され、客室に通された。ここが当面エリーナの自室になり、隣はクリスが使うらしい。エリーナの部屋は箱庭につながっており、景色がいい。部屋には美しい風景画があり、思わず目を留めた。不思議と懐かしい感じがして近づいてよく見れば、知っている景色だった。

「これ、学園の庭園?」

 エリーナがよくお昼に休んでいた庭園だ。

「そうですよ。シルヴィオ殿下が留学中にお描きになったものです。思い出の場所だろうと、殿下がこちらに飾るようにと」

 そう案内してくれた侍女が教えてくれた。細やかな気遣いに嬉しくなる。そしてこの侍女がしばらくエリーナの世話をしてくれるらしい。サリーやリズを始めとしたラルフレアから来た侍女たちは早速王宮の侍女たちに説明を受け、エリーナたちの世話ができるよう動いているそうだ。
 エリーナは淹れてもらったお茶を飲んで一息つく。ラルフレアのものより香りが強く、後味が爽やかだ。少し休憩した後、することもないので勧められた庭園を見ることにする。

 窓から見えていただけでも美しかったが、庭園に出てみるとその造形に圧倒された。石畳は幾何学模様で、植えられている花も木も色や配置が計算され、美を作り出している。そして庭園の中央には噴水があり、その周りを大輪の紅い薔薇が囲んでいた。

「まぁ、綺麗ね」

 エリーナが思わず声を漏らすと、侍女は嬉しそうに頬を緩ませて

「この国自慢の庭園でございます」

 と誇らしそうに言葉を返したのだった。
 その後部屋に戻ったエリーナはサリーやリズと合流し、アスタリアの侍女も交えておしゃべりを楽しんだ。あっという間に時間が過ぎ、ぐったりしたクリスが「癒して」と部屋を訪ねて来ればすぐに晩餐となる。
 自己紹介も兼ねて、クリスとの思い出話をすれば「子供の時のクリスからは考えられない」と返って来た。子供の時のクリスについて聞きたかったが、不満そうなクリスが話題を変えたため話が流れる。クリスは家族の前では子どもの表情を見せており、新たな一面を知れて嬉しく思うエリーナだった。

 また後日ゆっくり話をしようとクリスの母から声をかけられ、エリーナは「はい」と笑顔で頷いた。クリスが嫌そうな顔をするのが面白い。
 そして晩餐が終わり、湯浴みも済ませたエリーナは疲れもあってすぐに眠りについたのだった。



 ふと目が覚める。エリーナはもぞもぞと布団の中で動き、窓の外に目をやった。まだ薄暗く、日が昇り始めたところのようだ。もう一度寝ようとするが目が冴えてしまい、寝られそうにない。
 エリーナはベッドを出て伸びをした。朝食まではまだまだ時間があり、さすがに侍女も寝ている。一人ぐらいは近くに控えていそうだが、少し申し訳ないので静かに外套をはおって庭園に出た。朝の庭園を見たかったのと、最近はずっと近くに誰かがいたので一人になりたかったのもある。外に出たとたんヒヤリとした外気に触れ、身震いする。すっかり冬になっていた。

 エリーナは朝の清々しい空気を吸い、庭園を歩く。人気はなく、肌寒さの中咲き誇る薔薇たちは芳しい。新しい景色は人の心をワクワクさせる。エリーナは冒険心をくすぐられ、少し奥へと足を進めてみた。周りを建物に囲まれた箱庭かと思ったが、細い小道を見つけた。ちょっとだけと部屋の方を振り返って人がいないのを確認すると、低い柵を跨いで奥へと進む。少し行けば小さな庭に出た。

 そこに人の姿を見つけてエリーナは目を丸くする。同時に彼もエリーナに気づき、固まった。

「あ、あの、ごめんなさい。散歩してたらここに出て」

「いや、ここには滅多に人が来ないから驚いただけ」

 薄い赤色の髪は短く、瞳は黄色みがかった茶色で目立ったところのない容姿をしていた。ゲームの世界を生きていたエリーナに言わせれば、モブの顔である。衛兵にも使用人にも見えず、簡素な服を着ている。
 彼は膝の上に置いていた藤の箱の蓋を閉めた。どうやら食事をしていたらしい。

「お食事中でしたか?」

「終わったところ。俺、マルク。王宮の厨房で修行してんだ。あんたは?」

「私はエリーナ。ラルフレアから来ましたの」

 身分を明かすのは憚られたので名前だけ告げる。するとマルクは目を丸くしてエリーナを上から下まで眺めた。

「へぇ、噂のラルフレアから来た侍女さんか。王女に仕えるとなると美しさが違うな」

 エリーナが簡素な外套を着ていたからか、侍女の主人には見られなかったようだ。

「慣れないうちは大変だろ。なんかあったら言ってくれよな。俺も遠い国から来たから、異国で生活する大変さは身にしみている」

「そうでしたの。よろしくお願いしますね」

「俺、毎日ここで朝飯を食ってるんだ。困ったことがあったら話を聞くからな」

 そう言って人懐っこい笑みを浮かべるマルクからは面倒見の良さが溢れていた。

「じゃ、俺はこれから仕込みに行くから。お前も早く仕事場に戻れよ」

 マルクは歯を見せて笑い、軽く手を振ってから王宮の中へと入っていった。彼の姿が見えなくなってからエリーナは慌てて来た道を戻る。思わぬ時間を取ってしまい、いないことに気づいた侍女が探していたら大変なことになるからだ。

 細い小道を抜け、部屋につながる庭園に戻ると幸い侍女には気づかれていないようだった。エリーナは物音を立てないように部屋に戻り、外套を脱いで窓辺に置かれた安楽椅子に座る。手の届く位置に小さな本棚があり、お気に入りのロマンス小説が並んでいた。他の蔵書はまだ荷物の中だ。その一つを手に取り、エリーナは明るくなった窓辺で読書をすることにした。これならいつ侍女が入って来ても、立派な淑女という印象を与えられる。

 だが、それから一時間ほどして入って来たのはサリーであり、外套と部屋着のドレスについた泥からすぐに庭園を散策したことを見抜かれ、小言をもらったのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...