悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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アスタリア王国編

139 お義兄様とプリンを食べましょう

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 サリーに小言をもらいつつ可愛いワンピースドレスに着替え、クリスと朝食を取れば早速クリスは母親に連れていかれた。エリーと王都を回るつもりだったのにと不満そうだったが、母親のひと睨みで押し黙る。いつの世も母は強い。そしてエリーナには優しい顔を向けて、「クリスへの説教が終わったらゆっくりお茶をしましょうね」と声をかけて出て行った。
 そして今、エリーナはシルヴィオにお茶に誘われ、サロンで談笑をしているのだった。

「昨日はよく休めた?」

「はい、おかげさまで」

 相変わらずシルヴィオはキラキラした笑顔で、部屋まで豪華になった気がする。連れてこられたサロンは落ち着いていて、活けられた花に心が安らぐ。

「クリスについては、みんなの気がすむまでもう少し貸してね」

 お茶をすすり、朗らかに笑うシルヴィオを改めて見れば笑い方はクリスにどこか似ていることに気づいた。シルヴィオは正妃似のため、側妃似のクリスと並んでも兄弟には見えない。

「十年ぶりに帰ったんですもの、当然ですわ」

「それにみんな君とゆっくり話したがってるんだけど、一斉に会うと緊張するだろうからまずは僕が勝ち取って来たよ。あとはくじ引きでもするんじゃないかな」

 シルヴィオは思い出したようにくつくつ喉の奥で笑い、目を細めた。

「クリスのやつ、僕たちでエリーナの相手をするから、しばらく公務漬けになれって言ったら無理って。子どもみたいだったよ」

 エリーナは母親に連れて行かれた時の不満気なクリスを思い出し、口に手を当てて小さく笑う。

「本当に、エリーナには感謝しているよ」

「どうしてですか?」

 エリーナが小首を傾げると、シルヴィオは少し声を落として、困ったように眉尻を下げた。

「実は、家族はクリスにどう接するか測りかねていたところがあってね。子どもの時から大人びて、頑固なやつだったから。いつも何かに追い立てられるかのように勉強して、勝手に出ていった。だから、久しぶりに会ったときに自然に笑って話せるようになってて驚いた。エリーナのおかげだよ」

 エリーナは初めて聞くクリスの一面に目を丸くする。子どもの時から大人っぽさはあったが、大変な性格だと感じたことはなかった。

「それは意外ですわ」

「ほんと可愛くなくてさ。勝手に出て行って、手紙もほとんど出さないし。それでやっとラルフレアにいると分かったから僕が留学という名目で会いに行ったんだ」

 シルヴィオはどうやら愚痴りに来たようで、エリーナは知らないクリスの話に興味深く耳を傾ける。

「そしたらあいつ手紙で他人のふりをしろって。薄情だよね? 会って理由は分かったけどさ……僕たちはそれまであいつがローゼンディアナ家に養子に入ってるなんて知らなかったからね!?」

 ラルフレアにいた頃のシルヴィオはどこか澄ましたところがあったが、今は兄の顔になっている。エリーナは口に手を当て小さく笑いながら聞き入るのだった。

「けど、エリーナを見てクリスはこの子のために家を出たんだなって思ったよ。それぐらい、あいつの目は優しく真剣だった。ま、それもあって煽りたくなったんだけどね」

 いたずらっぽく片目を閉じたシルヴィオを見て、二人でクリスにしたいたずらを思い出した。あの後、ミシェル経由でクリスが荒れていたことを卒業パーティーが終わってから聞いたのだ。

「シルヴィオ様は、弟思いなんですね」

 そうエリーナが思ったことを呟けば、シルヴィオは一瞬虚をつかれた顔をしてからこそばゆそうにはにかんだ。

「その弟からは邪険にされるんだけどね。ねぇ、エリーナ。改めてあいつを信じてついてきてくれてありがとう。僕たちは心から歓迎しているし、ここが君の家になることを願っている」

「もったいないお言葉ですわ。わたくしはクリスと一緒にいられて、幸せです」

「僕のことはお兄様って呼んでくれたらいいから。ほら、呼んでみて」

 軽快に笑うシルヴィオに対し、エリーナは恐れ多いと困った表情を浮かべるが期待を込めた目を向けられれば折れるしかない。

「シ、シルヴィオお義兄様」

 少し恥じらうように口にすれば、シルヴィオは最高と満面の笑みを浮かべた。

「最高。可愛い妹が欲しかったんだよねー。あ、そうそう。プリン好きの君にお土産があったんだ」

 シルヴィオは壁際に控えていた侍女に合図をし、プリンを用意させる。エリーナはプリンと聞いて目を輝かせていた。それを見たシルヴィオはクスリと小さく笑う。

「エリーナは本当にプリンが好きだね。今回は前に話していたクリームチーズプリンだ」

 侍女が器をトレーに乗せて持って来て、そっとエリーナの前に置いた。陶器に入っており、色は白よりのクリーム色だ。

「わぁ、これがクリームチーズプリンなんですね」

 エリーナはワクワクして、早速スプーンを手に取りすくい取る。弾力がありながらも滑らかで、期待が高まった。ぱくりと口の中に入れればチーズの酸味が広がり、それを甘みと卵が包み込んでくれる。チーズムースに似た味だが、食感はやはりプリンだ。これはありとエリーナは頬を緩めて食べ進める。

「おいしいですわ。これなら甘いものが苦手な人でも食べられそう」

 エリーナはすでに一つ目を食べ終わっており、二つ目に手を伸ばしていた。シルヴィオも満足そうに食べており、和やかな雰囲気に包まれる。

 その時、廊下が慌ただしくなり足音が聞こえてきた。

「エリー、大丈夫!?」

 開いていたドアからクリスが急ぎ足で入ってきて、二人の顔を交互に見る。そして険しい顔をシルヴィオに向けた。

「兄さんはエリーに変なこと吹き込んでないよね」

「ひどいなー。暇だと思って話し相手になってたのに。ねぇ?」

 大げさにシルヴィオは嘆き、エリーナに同意を求める。エリーナは苦笑いを浮かべて、クリスに視線を向けた。

「シルヴィオお義兄様と楽しくお話をしていただけよ。クリスが大事にされていることがよく分かったわ」

 エリーナが声を出したとたん、クリスは風の立つ勢いでエリーナに顔を向けた。驚愕に顔が歪んでいる。

「シルヴィオ、にいさん?」

 そしてギチギチと音が鳴りそうなぐらい硬い動作でシルヴィオに顔を戻した。無表情なのが逆に怖い。それをシルヴィオは楽しそうに微笑んで受けていた。

「可愛くない弟より、可愛くていい子の妹がいいよね。僕が可愛がってあげるから、クリスは僕の代わりに公務をしてよ」

「絶対渡すもんか!」

 そして何かに気づいたように再びエリーナに顔を向け、目を見開いた。その視線はエリーナの手の中にあるプリンにくぎ付けになっている。

「もう餌付けしたの!?」

「クリス、餌付けってなによ」

 反射的にエリーナは言い返してしまった。最近ますます言葉に遠慮がなくなってきたように思う。
 そしてシルヴィオが空いている席を指し、クリスに座るように促した。しぶしぶと席につけば、すぐにお茶とプリンが用意される。

「クリームチーズプリンだ。懐かしいだろ?」

 クリスはお茶を飲んで一息つくと、「へぇ」とプリンに視線を落とした。さっそく一口食べて相好を崩す。機嫌は治ったようだ。

「おいしい。久しぶりに食べたや」

 そう言って懐かしそうに食べ進め、もう一個と手を伸ばす。それに対し、ニ個目を食べていたエリーナが目を丸くして見る。

「クリス、このプリンが好きなの?」

 ラルフレアで甘いものはほとんど食べなかったのだ。プリンは一口食べて、後はエリーナにあげていた。

「うん、チーズが好きなんだよね。それにこれは甘すぎなくていい」

 エリーナは一緒に食べられるのが嬉しく、三つ目のプリンに手を伸ばす。クリスが機嫌よく食べている様子を見たシルヴィオは、嬉しそうに目元を和ませた。

「子供の時から好きだったからね。……で、ずいぶん早かったけど?」

 クリスが母親に連れていかれて三十分ぐらいしか経っていなかった。シルヴィオは二時間はかかると踏んでいたのだが。

「母上に客人が来たのと、兄さんがエリーの相手をしていると聞いて慌てて戻ってきたんだ」

「僕に会いたかったの?」

 そうシルヴィオがからかうような笑みをクリスに向けるが、クリスは冷めた目で一瞥するだけだ。

「エリーナが心配だっただけだ」

 仏頂面のクリスがおかしくて、エリーナはコロコロと笑う。シルヴィオと話すクリスは生意気な弟という感じだ。
 そしてしばらく談笑した後で、王都を観光することにした。シルヴィオが案内するといった途端、クリスが渋い顔になる。それを見てエリーナが笑うところから、王都観光が始まったのだった。
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