悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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アスタリア王国編

138 庭園を散策しましょう

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 エリーナは侍女に案内され、客室に通された。ここが当面エリーナの自室になり、隣はクリスが使うらしい。エリーナの部屋は箱庭につながっており、景色がいい。部屋には美しい風景画があり、思わず目を留めた。不思議と懐かしい感じがして近づいてよく見れば、知っている景色だった。

「これ、学園の庭園?」

 エリーナがよくお昼に休んでいた庭園だ。

「そうですよ。シルヴィオ殿下が留学中にお描きになったものです。思い出の場所だろうと、殿下がこちらに飾るようにと」

 そう案内してくれた侍女が教えてくれた。細やかな気遣いに嬉しくなる。そしてこの侍女がしばらくエリーナの世話をしてくれるらしい。サリーやリズを始めとしたラルフレアから来た侍女たちは早速王宮の侍女たちに説明を受け、エリーナたちの世話ができるよう動いているそうだ。
 エリーナは淹れてもらったお茶を飲んで一息つく。ラルフレアのものより香りが強く、後味が爽やかだ。少し休憩した後、することもないので勧められた庭園を見ることにする。

 窓から見えていただけでも美しかったが、庭園に出てみるとその造形に圧倒された。石畳は幾何学模様で、植えられている花も木も色や配置が計算され、美を作り出している。そして庭園の中央には噴水があり、その周りを大輪の紅い薔薇が囲んでいた。

「まぁ、綺麗ね」

 エリーナが思わず声を漏らすと、侍女は嬉しそうに頬を緩ませて

「この国自慢の庭園でございます」

 と誇らしそうに言葉を返したのだった。
 その後部屋に戻ったエリーナはサリーやリズと合流し、アスタリアの侍女も交えておしゃべりを楽しんだ。あっという間に時間が過ぎ、ぐったりしたクリスが「癒して」と部屋を訪ねて来ればすぐに晩餐となる。
 自己紹介も兼ねて、クリスとの思い出話をすれば「子供の時のクリスからは考えられない」と返って来た。子供の時のクリスについて聞きたかったが、不満そうなクリスが話題を変えたため話が流れる。クリスは家族の前では子どもの表情を見せており、新たな一面を知れて嬉しく思うエリーナだった。

 また後日ゆっくり話をしようとクリスの母から声をかけられ、エリーナは「はい」と笑顔で頷いた。クリスが嫌そうな顔をするのが面白い。
 そして晩餐が終わり、湯浴みも済ませたエリーナは疲れもあってすぐに眠りについたのだった。



 ふと目が覚める。エリーナはもぞもぞと布団の中で動き、窓の外に目をやった。まだ薄暗く、日が昇り始めたところのようだ。もう一度寝ようとするが目が冴えてしまい、寝られそうにない。
 エリーナはベッドを出て伸びをした。朝食まではまだまだ時間があり、さすがに侍女も寝ている。一人ぐらいは近くに控えていそうだが、少し申し訳ないので静かに外套をはおって庭園に出た。朝の庭園を見たかったのと、最近はずっと近くに誰かがいたので一人になりたかったのもある。外に出たとたんヒヤリとした外気に触れ、身震いする。すっかり冬になっていた。

 エリーナは朝の清々しい空気を吸い、庭園を歩く。人気はなく、肌寒さの中咲き誇る薔薇たちは芳しい。新しい景色は人の心をワクワクさせる。エリーナは冒険心をくすぐられ、少し奥へと足を進めてみた。周りを建物に囲まれた箱庭かと思ったが、細い小道を見つけた。ちょっとだけと部屋の方を振り返って人がいないのを確認すると、低い柵を跨いで奥へと進む。少し行けば小さな庭に出た。

 そこに人の姿を見つけてエリーナは目を丸くする。同時に彼もエリーナに気づき、固まった。

「あ、あの、ごめんなさい。散歩してたらここに出て」

「いや、ここには滅多に人が来ないから驚いただけ」

 薄い赤色の髪は短く、瞳は黄色みがかった茶色で目立ったところのない容姿をしていた。ゲームの世界を生きていたエリーナに言わせれば、モブの顔である。衛兵にも使用人にも見えず、簡素な服を着ている。
 彼は膝の上に置いていた藤の箱の蓋を閉めた。どうやら食事をしていたらしい。

「お食事中でしたか?」

「終わったところ。俺、マルク。王宮の厨房で修行してんだ。あんたは?」

「私はエリーナ。ラルフレアから来ましたの」

 身分を明かすのは憚られたので名前だけ告げる。するとマルクは目を丸くしてエリーナを上から下まで眺めた。

「へぇ、噂のラルフレアから来た侍女さんか。王女に仕えるとなると美しさが違うな」

 エリーナが簡素な外套を着ていたからか、侍女の主人には見られなかったようだ。

「慣れないうちは大変だろ。なんかあったら言ってくれよな。俺も遠い国から来たから、異国で生活する大変さは身にしみている」

「そうでしたの。よろしくお願いしますね」

「俺、毎日ここで朝飯を食ってるんだ。困ったことがあったら話を聞くからな」

 そう言って人懐っこい笑みを浮かべるマルクからは面倒見の良さが溢れていた。

「じゃ、俺はこれから仕込みに行くから。お前も早く仕事場に戻れよ」

 マルクは歯を見せて笑い、軽く手を振ってから王宮の中へと入っていった。彼の姿が見えなくなってからエリーナは慌てて来た道を戻る。思わぬ時間を取ってしまい、いないことに気づいた侍女が探していたら大変なことになるからだ。

 細い小道を抜け、部屋につながる庭園に戻ると幸い侍女には気づかれていないようだった。エリーナは物音を立てないように部屋に戻り、外套を脱いで窓辺に置かれた安楽椅子に座る。手の届く位置に小さな本棚があり、お気に入りのロマンス小説が並んでいた。他の蔵書はまだ荷物の中だ。その一つを手に取り、エリーナは明るくなった窓辺で読書をすることにした。これならいつ侍女が入って来ても、立派な淑女という印象を与えられる。

 だが、それから一時間ほどして入って来たのはサリーであり、外套と部屋着のドレスについた泥からすぐに庭園を散策したことを見抜かれ、小言をもらったのだった。
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