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第三章 自分のこと、これからのこと
41.社長室で
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休日はゆっくりと過ごしたから、気持ちもリフレッシュできた。
週明けに出社すると、話があると社長に呼ばれたので緊張しながら部屋に入る。
「ことりちゃん、とりあえず座って。秦弥からことりちゃんの話は聞かせてもらったんだ。話してもいいって言ってくれてたみたいだから」
社長の話を聞きながら、一礼して社長の目の前に置かれていたキャスターチェアに腰掛ける。
毎回ここに座れって言うのが不思議な感じだけど、同じ目線で話したいからということらしい。
氷室さんには予め、もし社長に聞かれたら私が話した内容は伝えてもらって構わないと連絡をしていたので掻い摘んで説明してくれたみたいだった。
「はい。氷室さんには全てお話していますので。社長に伝わったならその話が全てです。役所にはまだ行ってませんので父親のことは……」
私が話していた途中で、大丈夫、と社長が一言告げた。
「父さんから、話を聞いてきた。父さんがどうして突然去ってしまったのかって。まあ……あの態度じゃ誰でも何となく察しはつくだろうけど」
社長は苦笑いする。
鈍感な私でも分かるくらいだから、食事会にいた人たちは何かしらみんな頭を過ったはず。
私のことを知っている人は尚更だ。
「俺も驚いたけど、もやもやするのも嫌だからハッキリ言うよ。ことりちゃん、君は想像の通り俺と血が繋がっているんじゃないかって。腹違いの姉弟ってヤツ。父さんは何も知らなかったらしいけど」
なるべく重たくならないように伝えてくれているけど、本当のことなんだと思うと言葉が出てこない。
ぎゅっと両手を膝の上で握り込む。
「ことりちゃんのお母さんと父さんの関係がじいちゃんにバレてしまって、その時にお母さんの方が姿を消してしまったんだって。父さんは父さんで行動を見張られていたせいで、行方を追うこともできなかったらしい」
「でも……DNA鑑定はしてませんよね? 私の知らないところでされていたら分かりませんけど……あくまでそうなんじゃないかっていう仮定の話ですよね」
私が口を挟むと社長は静かに頷く。
「君はお母さんにそっくりらしいよ。お母さんと一度だけ関係を持ったということと、もし子どもが産まれたら音という字を使った名前を付けたいと言っていたこと、その話は二人の間でだけしていたことだし、疑う余地はないんじゃないかって。ことりちゃんの年齢からもそうだろうって、父さんは結論付けたらしい」
私が聞いた話とも合致するし、母は身体が弱かったことを考えると私を生んですぐ入院していたみたいだし。
南本さんから新しい恋人の存在の話も出なかったから、確率的にほぼ間違いない。
でも、私は正直この話についていけていないし、ここまで分かればこれ以上証拠なんていらない。
「たぶんですけど、戸籍の父親の部分は空欄になっているはずです。これはお願いなのですが……私はそのままでいいと思っています。限りなく真実はそうなのだとしても、私には関係ない話ですから」
「ことりちゃん……」
私がキッパリ言うと、ずっと社長の傍らで経ったまま黙って聞いていた氷室さんの表情も険しくなる。
週明けに出社すると、話があると社長に呼ばれたので緊張しながら部屋に入る。
「ことりちゃん、とりあえず座って。秦弥からことりちゃんの話は聞かせてもらったんだ。話してもいいって言ってくれてたみたいだから」
社長の話を聞きながら、一礼して社長の目の前に置かれていたキャスターチェアに腰掛ける。
毎回ここに座れって言うのが不思議な感じだけど、同じ目線で話したいからということらしい。
氷室さんには予め、もし社長に聞かれたら私が話した内容は伝えてもらって構わないと連絡をしていたので掻い摘んで説明してくれたみたいだった。
「はい。氷室さんには全てお話していますので。社長に伝わったならその話が全てです。役所にはまだ行ってませんので父親のことは……」
私が話していた途中で、大丈夫、と社長が一言告げた。
「父さんから、話を聞いてきた。父さんがどうして突然去ってしまったのかって。まあ……あの態度じゃ誰でも何となく察しはつくだろうけど」
社長は苦笑いする。
鈍感な私でも分かるくらいだから、食事会にいた人たちは何かしらみんな頭を過ったはず。
私のことを知っている人は尚更だ。
「俺も驚いたけど、もやもやするのも嫌だからハッキリ言うよ。ことりちゃん、君は想像の通り俺と血が繋がっているんじゃないかって。腹違いの姉弟ってヤツ。父さんは何も知らなかったらしいけど」
なるべく重たくならないように伝えてくれているけど、本当のことなんだと思うと言葉が出てこない。
ぎゅっと両手を膝の上で握り込む。
「ことりちゃんのお母さんと父さんの関係がじいちゃんにバレてしまって、その時にお母さんの方が姿を消してしまったんだって。父さんは父さんで行動を見張られていたせいで、行方を追うこともできなかったらしい」
「でも……DNA鑑定はしてませんよね? 私の知らないところでされていたら分かりませんけど……あくまでそうなんじゃないかっていう仮定の話ですよね」
私が口を挟むと社長は静かに頷く。
「君はお母さんにそっくりらしいよ。お母さんと一度だけ関係を持ったということと、もし子どもが産まれたら音という字を使った名前を付けたいと言っていたこと、その話は二人の間でだけしていたことだし、疑う余地はないんじゃないかって。ことりちゃんの年齢からもそうだろうって、父さんは結論付けたらしい」
私が聞いた話とも合致するし、母は身体が弱かったことを考えると私を生んですぐ入院していたみたいだし。
南本さんから新しい恋人の存在の話も出なかったから、確率的にほぼ間違いない。
でも、私は正直この話についていけていないし、ここまで分かればこれ以上証拠なんていらない。
「たぶんですけど、戸籍の父親の部分は空欄になっているはずです。これはお願いなのですが……私はそのままでいいと思っています。限りなく真実はそうなのだとしても、私には関係ない話ですから」
「ことりちゃん……」
私がキッパリ言うと、ずっと社長の傍らで経ったまま黙って聞いていた氷室さんの表情も険しくなる。
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