その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき

文字の大きさ
9 / 28

8. Aの声

しおりを挟む
「自業自得」
 
 イチカは動画を見終えて言い放った。
 
「裏でイジメなんてしていたから、こういう目にあうんじゃないですか。イジメられた子からしたら、白鳥さんたちは学校に来ないほうがうれしいと思います」
 
 イチカの声は冷たくなっていた。
 五年二組の教室は授業中でもさわがしくて、隣の一組まで聞こえてくることがある。白鳥さや香は帰国子女で、英語の授業では先生の英語によく文句をつけるらしい。「そんな使い方、日常会話ではしませーん」と白鳥さや香のトゲのある声をイチカも聞いたことがある。
 五年二組でイチカと同じ図書委員の子が、「白鳥さんにあこがれてる子、いっぱいいるんだよ。来年の児童会長は白鳥さんかも」と話していた。なんであんな子が人気なんだろう。彼女たちがこのままずっと休んでいても、イチカは全然困らないし、むしろ学校の空気がよくなると思う。
 イジメられた子のためにも、彼女たちなんて戻ってこなくていい。
 
(Aさんは、きっと白鳥さんたちが怖くて、先生にも友達にも「助けて」って言えなかったんだ。だから、名前の分からない目安箱なんかに……)
 
 イチカは自分でも気づかないうちにおこっていた。
 
「イチカくん、きみの言いたいことは分かるけどね」
 
 冬也はそっと目をふせる。わずかに間を置いてから、視線を上げた。
 
「でも、どんな子であっても、学校に来て授業を受ける権利はあるべきだと思うんだ」
 
 冬也の目は、心を映したみたいに強い光があった。怒っていたイチカの心が、ほんの少しだけゆれる。
 
「……それとね、僕はいくつか気になる点がある」
 
 冬也は机の上に手を乗せ、指を組んだ。
 
「この『夢見坂小の七不思議』、去年まではそんなにウワサになっていなかったと思う」

 たしかに、イチカも『泣くピアノ』や『まばたきするモナリザ』のウワサは少しだけ聞いたことがあったが、詳しい話はニコたちから聞いた。

「調べたところ、こういった怪談は昔からあったそうだけどね。『夢見坂小の七不思議』としてウワサが急速に広がったのは、この春からだ」
「それって……もしかして、グループチャットのせい?」
「うん、そうだろうね。そして、白鳥さや香さんに確認したら、『マチコ先生』のやり方が詳しくチャットに出たのは最近のことらしい」
「えっと、つまり……?」
「だれかが、タイミングを見計らってウワサを流しているんじゃないだろうか」

(そんなこと、なんのために……?)
 
 イチカが沈黙する中、冬也の声だけが静かに続いた。

「じつは、試したいことがあって、きみに話す順番を入れ替えたんだけど……イジメの録音データは、僕が白鳥さや香さんの家に行った、その翌日に入っていたんだ」
「……え?」
「きみは、『イジメをしていた子たちだから、学校に来なくてもいい』と感じたよね?」
 
 イチカは小さくうなずいた。
 
「僕はね、逆だったんだ。白鳥さや香さんとは親同士が知り合いでね。それもあって、白鳥さや香さんのお父さんから話があったんだ。『おまじないで呪われたなんて言って、学校に行きたがらないんだ。何か知らないか』とね」
 
 イチカは頭の中で話を整理した。
 冬也が『マチコ先生』について調べ出したきっかけは、白鳥さや香たちの不登校だ。目安箱にイジメの証拠が入っていたからじゃない。

(順番が、逆……?)
 
 イチカが答えられずにいると、冬也が続けた。
 
「証拠が先だったなら、僕もイチカくんと同じように感じたかもしれない。でも、だからこそ僕は、Aさんはイジメがつらくて訴えてきたんじゃないと思った」
「……じゃあ、なんのために……?」
 
 冬也は重い声で答えた。
 
「こんな白鳥さや香たちを、学校に戻すな。そう訴えているんだよ」
 
 イチカは息をのんだ。
 Aが言いたかったのは「助けて」じゃなくて、
 
 ——じゃまをするな。
 
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

大人にナイショの秘密基地

湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...