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15. カゲの正体
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——きゃはははっ。
甲高い笑い声が耳に飛びこんできた。
黄色いカーテンの向こう——すぐ外からだ。窓越しなのに、まるで耳元でひびいたみたいに、はっきり聞こえる。
イチカと志乃は同時にそちらを見た。だが、布の向こうには何のカゲもない。
それなのに、笑い声だけが、まるで駆けぬけるように窓辺をすべっていく。
志乃が小さくつぶやいた。
「……なんで……?」
次の瞬間、イチカが「きゃあっ!」と泣きそうな声を上げた。
志乃ははっとして窓ぎわへ駆け寄り、カーテンを勢いよく引き開ける。
しかし、そこには何もいなかった。
声も、風の気配も、すでに消えている。
志乃の背後から、イチカのふるえる声が聞こえた。
「……どうしよう……」
振り返った志乃の目に映ったのは、胸の前でぎゅっと手をにぎりしめるイチカだった。
「どうしよう、私、また……」
そのおびえたような表情に、志乃はあわてて近寄る。
「ちがうよ、イチカちゃん。これはちがう!」
「ちがう……?」
「あっ……だ、だって! 今、カゲなんてなかったよね? 窓の外から声がしただけで、何もいなかったよ!」
「……カゲ? カゲって、なんの話?」
「何って! 『走る呪いのカゲ』だよ! カゲを見たわけじゃないから、イチカちゃんはきっと呪われてないよ!」
イチカの目元に、ふっと力がこもった。
「——どうして、今のが『走る呪いのカゲ』だと思ったの?」
その落ち着いた声に、志乃はまばたきする。
「え……?」
「外から聞こえたのは笑い声だけ。カゲなんてなかった」
「う、うん……そうだよ? だから……」
「じゃあ、なんであれが、『走る呪いのカゲ』だって分かったの?」
志乃ののどが小さく動いた。
「だって、笑い声が……」
言葉がとぎれる。
イチカのまっすぐな視線に、志乃の顔から血の気が引いていく。
「『走る呪いのカゲ』が笑うなんて、私は一言も言ってないよ。それを知っているのは——私たちと、犯人だけ」
静かにそう告げると、イチカは窓へ歩み寄った。
カーテンの開かれた窓に手を伸ばし、カギを外して開ける。小さく手を振ると——窓のすぐ下から、黒い小さな機械がふわりと浮かび上がった。
ドローンだ。
その下、旧校舎の端には恭士郎が立っていた。手にはリモコン。
たった今の笑い声は、昨日撮影した動画から切り取った音声だった。
それをドローンのスピーカーで流し、まるで走り抜けたように窓のすぐ下を飛ばしたのだ。
イチカは志乃へと向き直った。
「『走る呪いのカゲ』の正体は——志乃ちゃん、あなただよね?」
甲高い笑い声が耳に飛びこんできた。
黄色いカーテンの向こう——すぐ外からだ。窓越しなのに、まるで耳元でひびいたみたいに、はっきり聞こえる。
イチカと志乃は同時にそちらを見た。だが、布の向こうには何のカゲもない。
それなのに、笑い声だけが、まるで駆けぬけるように窓辺をすべっていく。
志乃が小さくつぶやいた。
「……なんで……?」
次の瞬間、イチカが「きゃあっ!」と泣きそうな声を上げた。
志乃ははっとして窓ぎわへ駆け寄り、カーテンを勢いよく引き開ける。
しかし、そこには何もいなかった。
声も、風の気配も、すでに消えている。
志乃の背後から、イチカのふるえる声が聞こえた。
「……どうしよう……」
振り返った志乃の目に映ったのは、胸の前でぎゅっと手をにぎりしめるイチカだった。
「どうしよう、私、また……」
そのおびえたような表情に、志乃はあわてて近寄る。
「ちがうよ、イチカちゃん。これはちがう!」
「ちがう……?」
「あっ……だ、だって! 今、カゲなんてなかったよね? 窓の外から声がしただけで、何もいなかったよ!」
「……カゲ? カゲって、なんの話?」
「何って! 『走る呪いのカゲ』だよ! カゲを見たわけじゃないから、イチカちゃんはきっと呪われてないよ!」
イチカの目元に、ふっと力がこもった。
「——どうして、今のが『走る呪いのカゲ』だと思ったの?」
その落ち着いた声に、志乃はまばたきする。
「え……?」
「外から聞こえたのは笑い声だけ。カゲなんてなかった」
「う、うん……そうだよ? だから……」
「じゃあ、なんであれが、『走る呪いのカゲ』だって分かったの?」
志乃ののどが小さく動いた。
「だって、笑い声が……」
言葉がとぎれる。
イチカのまっすぐな視線に、志乃の顔から血の気が引いていく。
「『走る呪いのカゲ』が笑うなんて、私は一言も言ってないよ。それを知っているのは——私たちと、犯人だけ」
静かにそう告げると、イチカは窓へ歩み寄った。
カーテンの開かれた窓に手を伸ばし、カギを外して開ける。小さく手を振ると——窓のすぐ下から、黒い小さな機械がふわりと浮かび上がった。
ドローンだ。
その下、旧校舎の端には恭士郎が立っていた。手にはリモコン。
たった今の笑い声は、昨日撮影した動画から切り取った音声だった。
それをドローンのスピーカーで流し、まるで走り抜けたように窓のすぐ下を飛ばしたのだ。
イチカは志乃へと向き直った。
「『走る呪いのカゲ』の正体は——志乃ちゃん、あなただよね?」
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