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17. 証拠よりも大切なこと
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「……うん、証拠はないの」
イチカが素直にそう言うと、志乃は肩から力をぬいたように息をついた。「やっぱり……」と、ほっとした声がもれる。
けれど、イチカはすぐに言葉を続けた。
「でも、私は探偵じゃないから——犯人に証拠を見せて、負かしたいわけじゃない」
イチカはきっぱりと告げた。
「私がやりたいのは、怖いことをそのままにしないこと。怖がりなニコが、ちゃんと学校に来られるようにすること。だから、怪談を『解く』んだよ」
そう言って、イチカはダンボールに近づいた。
アルバムの上にかけられた黒い布を、ぎゅっとつかむ。
「『走る呪いのカゲ』は、この図書室の布を使ったイタズラ。『マチコ先生』の呪いだって、カラスの死体をあらかじめ用意しておいただけのトリック」
布をつき出すようにして、イチカは志乃を見すえた。
「証拠なんてなくても、『これは不思議なことじゃなく、トリックがちゃんとあるんだ』って話が広まるだけで、みんな怖くなくなる。それで解決する。
でも、それだと——犯人は?」
イチカの声は、まっすぐにひびいた。
「犯人の目的は、おそらく白鳥さんたちを怖がらせること。でも、私の話が広まったら、白鳥さんたちも『呪いなんてウソだった』って思うようになる。そうなったら……困るのは犯人でしょ?」
志乃の表情が変わった。イチカが『白鳥さんたち』の名前を出したとたん、顔がこわばり、目がふるえた。
イチカはそれに気づいて、そっと志乃の手にふれた。
「さっき、志乃ちゃんは私を心配してくれたよね。窓の外から笑い声が聞こえたとき、本当なら黙っていることもできたのに……私を助けるように、『あれはちがうよ』って言ってくれた」
イチカは、声をやわらかくした。
「私は探偵じゃなくて、志乃ちゃんの友達だと思ってる。だから、ちゃんと志乃ちゃんから話を聞きたいの。だれにも言えなくてつらいことや、悲しいことがあるなら……いっしょに解決したい」
志乃の目に、じわりと涙がにじんだ。
(白鳥さんたちにいじめられていた『Aさん』って……志乃ちゃんだったんだ)
イチカは今、はっきりと分かった。
志乃はスカートをつかみ、目をふせたまま動かない。
やがて、小さく肩が上下し、ぽとりと涙のしずくが落ちた。
イチカは強く志乃の手をにぎりしめた。
「志乃ちゃん……気づいてあげられなくて、ごめんね」
志乃は首を横にふり、ようやく声をふりしぼった。
「イチカちゃんが……あやまらないで……」
涙があとからあとから流れる。
志乃もイチカの手をぎゅっとにぎり返した。
そのすぐ少し後ろで、冬也が二人をじっと見つめていた。
声をかけることもせず、ただ静かに。友達を思うイチカの強さと、涙をこらえてきた志乃の姿を、心に刻むように見守っていた。
イチカが素直にそう言うと、志乃は肩から力をぬいたように息をついた。「やっぱり……」と、ほっとした声がもれる。
けれど、イチカはすぐに言葉を続けた。
「でも、私は探偵じゃないから——犯人に証拠を見せて、負かしたいわけじゃない」
イチカはきっぱりと告げた。
「私がやりたいのは、怖いことをそのままにしないこと。怖がりなニコが、ちゃんと学校に来られるようにすること。だから、怪談を『解く』んだよ」
そう言って、イチカはダンボールに近づいた。
アルバムの上にかけられた黒い布を、ぎゅっとつかむ。
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布をつき出すようにして、イチカは志乃を見すえた。
「証拠なんてなくても、『これは不思議なことじゃなく、トリックがちゃんとあるんだ』って話が広まるだけで、みんな怖くなくなる。それで解決する。
でも、それだと——犯人は?」
イチカの声は、まっすぐにひびいた。
「犯人の目的は、おそらく白鳥さんたちを怖がらせること。でも、私の話が広まったら、白鳥さんたちも『呪いなんてウソだった』って思うようになる。そうなったら……困るのは犯人でしょ?」
志乃の表情が変わった。イチカが『白鳥さんたち』の名前を出したとたん、顔がこわばり、目がふるえた。
イチカはそれに気づいて、そっと志乃の手にふれた。
「さっき、志乃ちゃんは私を心配してくれたよね。窓の外から笑い声が聞こえたとき、本当なら黙っていることもできたのに……私を助けるように、『あれはちがうよ』って言ってくれた」
イチカは、声をやわらかくした。
「私は探偵じゃなくて、志乃ちゃんの友達だと思ってる。だから、ちゃんと志乃ちゃんから話を聞きたいの。だれにも言えなくてつらいことや、悲しいことがあるなら……いっしょに解決したい」
志乃の目に、じわりと涙がにじんだ。
(白鳥さんたちにいじめられていた『Aさん』って……志乃ちゃんだったんだ)
イチカは今、はっきりと分かった。
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やがて、小さく肩が上下し、ぽとりと涙のしずくが落ちた。
イチカは強く志乃の手をにぎりしめた。
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志乃は首を横にふり、ようやく声をふりしぼった。
「イチカちゃんが……あやまらないで……」
涙があとからあとから流れる。
志乃もイチカの手をぎゅっとにぎり返した。
そのすぐ少し後ろで、冬也が二人をじっと見つめていた。
声をかけることもせず、ただ静かに。友達を思うイチカの強さと、涙をこらえてきた志乃の姿を、心に刻むように見守っていた。
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