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18. 五番目の七不思議
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図書室のイスに、志乃は腰を下ろしていた。
イチカと冬也は向かい合うように座り、志乃の言葉を待つ。静まりかえった空間に、時計の秒針の音だけがひびいていた。
「……私、白鳥さんたちに嫌われてたの」
志乃の声はかすれ、少しふるえていた。イチカは息をのんで、その顔を見つめる。
「きっかけは……学級委員の投票だった。私の票数が、白鳥さんの次に多かったの。……それから、白鳥さんたち三人の空気が、いやな感じになった」
志乃は両手を机の上で重ねた。小さな指先に力が入り、爪が白くなる。押しこめてきた気持ちが、今にもあふれ出そうだった。
「最初は、無視されるだけだった。声をかけても返事をしてくれなくて。でもだんだん……ひどくなっていったの。
私が通ったあとのドアをバタンって閉めたり、すぐ近くにいるのに『今だれかいた?』って、いないフリをしたり……」
イチカは、目安箱に入っていた音声を思い出した。トイレにひびいた意地悪な声と、大きな音。
志乃の言葉が、その記憶と重なっていく。
「白鳥さんたち……いつも、私の名前は絶対に出さないんだよ。他の子の前では、何もないみたいにふるまって。……だから、だれにも分かってもらえなかった。だれにも……言えなかった」
志乃は小さく首をふり、目をふせる。机の上に涙のしずくが落ち、木目にすいこまれて消えていった。
「つらくて悲しくて、学校に行きたくなくて。……でも、どうしていいか分からなくて……」
イチカは心の中で言葉を探し、やさしく声をかけた。
「それで、『マチコ先生』の怪談を利用して、怖がらせる作戦を思いついたんだね」
けれど志乃は、首を横にふった。
「ううん。それは、私が考えたんじゃないの」
「えっ?」と、イチカは目を見ひらいた。
「じゃあ……だれかに相談したの?」
志乃は小さくうなずいた。
「……うん。私の話を聞いてくれた子がいたの。その子が……作戦を考えてくれたの」
「その子って……」
イチカは、その名前を聞いていいのかどうか、ためらった。
それまで黙って聞いていた冬也が、静かに口を開いた。
「その子がだれなのか、教えてくれないかな?」
志乃は口をつぐんで机の角を指でなぞり、息をのみこむ。しばらくして、ぽつりと打ち明けた。
「……幽霊なの」
イチカも冬也も、思わず顔を見合わせる。
「私、夢見坂小で亡くなった幽霊の子に、ここでいつも相談してたの」
イチカは背すじにひやりと冷たいものを感じた。
窓ガラスの向こうで木々がざわめき、どこからか低い風の音が忍びこんでくる。
イチカは「まさか」と言いかけたが、志乃の顔を見て言葉を失った。嘘をついているようには、とても見えなかった。
隣で、冬也がイチカにだけ聞こえるような低い声でつぶやいた。
「……『死者からのメッセージ』。五番目の七不思議だ」
イチカと冬也は向かい合うように座り、志乃の言葉を待つ。静まりかえった空間に、時計の秒針の音だけがひびいていた。
「……私、白鳥さんたちに嫌われてたの」
志乃の声はかすれ、少しふるえていた。イチカは息をのんで、その顔を見つめる。
「きっかけは……学級委員の投票だった。私の票数が、白鳥さんの次に多かったの。……それから、白鳥さんたち三人の空気が、いやな感じになった」
志乃は両手を机の上で重ねた。小さな指先に力が入り、爪が白くなる。押しこめてきた気持ちが、今にもあふれ出そうだった。
「最初は、無視されるだけだった。声をかけても返事をしてくれなくて。でもだんだん……ひどくなっていったの。
私が通ったあとのドアをバタンって閉めたり、すぐ近くにいるのに『今だれかいた?』って、いないフリをしたり……」
イチカは、目安箱に入っていた音声を思い出した。トイレにひびいた意地悪な声と、大きな音。
志乃の言葉が、その記憶と重なっていく。
「白鳥さんたち……いつも、私の名前は絶対に出さないんだよ。他の子の前では、何もないみたいにふるまって。……だから、だれにも分かってもらえなかった。だれにも……言えなかった」
志乃は小さく首をふり、目をふせる。机の上に涙のしずくが落ち、木目にすいこまれて消えていった。
「つらくて悲しくて、学校に行きたくなくて。……でも、どうしていいか分からなくて……」
イチカは心の中で言葉を探し、やさしく声をかけた。
「それで、『マチコ先生』の怪談を利用して、怖がらせる作戦を思いついたんだね」
けれど志乃は、首を横にふった。
「ううん。それは、私が考えたんじゃないの」
「えっ?」と、イチカは目を見ひらいた。
「じゃあ……だれかに相談したの?」
志乃は小さくうなずいた。
「……うん。私の話を聞いてくれた子がいたの。その子が……作戦を考えてくれたの」
「その子って……」
イチカは、その名前を聞いていいのかどうか、ためらった。
それまで黙って聞いていた冬也が、静かに口を開いた。
「その子がだれなのか、教えてくれないかな?」
志乃は口をつぐんで机の角を指でなぞり、息をのみこむ。しばらくして、ぽつりと打ち明けた。
「……幽霊なの」
イチカも冬也も、思わず顔を見合わせる。
「私、夢見坂小で亡くなった幽霊の子に、ここでいつも相談してたの」
イチカは背すじにひやりと冷たいものを感じた。
窓ガラスの向こうで木々がざわめき、どこからか低い風の音が忍びこんでくる。
イチカは「まさか」と言いかけたが、志乃の顔を見て言葉を失った。嘘をついているようには、とても見えなかった。
隣で、冬也がイチカにだけ聞こえるような低い声でつぶやいた。
「……『死者からのメッセージ』。五番目の七不思議だ」
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