その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき

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23. 真実との対決

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 井村先生は、くちびるに笑みを残したまま言った。
 
「おもしろい推理ね。でも、それだと……カギを使える大人なら、だれでもできたんじゃないかしら? 私に限らずね」

 声は落ち着いているのに、どこか試すような調子だ。
 冬也はすぐに答えた。机に置いた指先に力をこめ、低く静かな声で。

「いいえ。先生だからこそ、できたんです」

 その一言が、部屋の空気をきりりと締める。
 
「音を使ったトリックは、僕が追いかける前提で仕掛けられていた。僕が幽霊を信じないと読んでいた作戦です」

 先生の笑みが、ほんの少し硬くなる。
 
「先生には、僕が以前から『マチコ先生』の検証をしようとしていることも話してあった。許可の日を決めたのも先生だ。
 あなたなら、僕たちの行動を先読みして作戦を立てることができた」

 冬也はさらに声を低くした。
 
「『学校の七不思議』をグループチャットに流していたのも、先生でしょう? 絶妙なタイミングで情報を広め、児童を動かそうとしたんじゃないですか?」

 そこまで言いきると、冬也の視線がするどく光った。
 
「僕は……少し怒っているんです」

 冷静だが、その声音は刃のように冷たい。
 
「児童をあやつり、さらには別の児童を怖がらせた。学校に来られないほどだ。これは、許されるべきじゃない」

 井村先生は目をふせる。まつげがカゲを落とし、沈黙が部屋をおおった。

「認めなくてもいい。僕はこれを事件にしても構わない。すべてを明らかにして、弁護士や警察が動けば……」

 決意に満ちた冬也の声。
 イチカは息を吸いこみ、勇気をふりしぼった。
 
「先生……私が『走る呪いのカゲ』を見たって言ったとき、覚えてますか?
 先生は、『だれかが笑いながら走っていただけじゃない?』って言ったんです」

 井村先生の目がかすかに見開かれる。

「『笑ってた』なんて、私もみんなも言ってなかった。知ってるのは作戦を知ってる人だけ。
 ……志乃ちゃんも同じミスをしました。先生も、『笑う』ことを知っていた」

 恭士郎が口を開いた。
 
「俺も聞いた。確かに先生はそう言った」

 重苦しい空気が部屋を満たした。
 短い沈黙のあと、井村先生は息を吐いた。肩が落ち、笑みはもうどこにもない。

「……ごまかせないわね」

 その声には、あきらめの気持ちがにじんでいた。
 井村先生は顔を上げると、イチカたちを見渡して、静かに告げた。

「そう……幽霊の正体は、私よ」

 
 
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