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27. オレンジ色の約束
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志乃と別れたイチカに、冬也が「送るよ」と言った。
校舎を離れ、夕焼けの光が染める通学路を二人で並んで歩く。
「イチカくん、今回はありがとう。きみのおかげで七不思議が解決したよ」
ほめられても、イチカの顔は晴れなかった。小さくため息がこぼれる。
「冬也会長……私、分かってるの」
イチカは立ち止まり、胸の奥にあった言葉をぶつける。
「冬也会長なら、本当は七不思議を解けたはずだよね。でもわざと私に解かせた。それって……どうして?」
冬也は足を止め、沈黙したあとに口を開いた。
「本当はね、来年の会長を任せられる子を探していたんだ。白鳥さや香さんのウワサを聞いたとき、あの子に任せるのは危ういと思った。それで、他にぴったりの子がいないかと考えて……きみが浮かんだんだ」
軽く笑って、冬也は続ける。
「五年生では、白鳥さや香さんの次に有名な『霊感少女』」
イチカは目をふせた。
(冬也会長は、私を有名にして、来年の選挙で会長に選ばれるようにしたかったんだ……)
「……やっぱり、私を利用してたんだ」
冬也は首をかしげ、少しだけ声を落とした。
「そう……かもしれない。でもね、イチカくん。きみには親しい友達がいないみたいだった。
なんでもひとりで片付けて、だれの手も借りない。『霊感少女』のウワサはウワサを呼び、きみは恐れられて、不気味に思われて……孤独だった」
イチカの肩がぴくりとふるえる。
「それは……」
「しかも、それをきみ自身が望んでいるように見えた。お母さんを亡くしたきみは、大切な人と別れるつらさを知ってしまったから。だから誰とも親しくならない。別れが怖いから」
イチカの胸にずしりとひびく。図星を刺されて、言葉が出ない。冬也はやわらかく笑う。
「そんなきみを知るうちに、少し気持ちが変わった。なんでも一人でやろうとするきみの力になりたいと思った。僕は、きみといっしょに七不思議を解いてみたいと思ったんだ」
イチカは唇をかみしめた。胸がぎゅっとしめつけられる。
「でも……冬也会長だって、卒業していなくなるのに」
「中学なんてすぐ近くだよ。きみが会いたいと思ってくれるなら、いつだって会いに行く」
返す言葉を失って、イチカは黙りこんだ。そんなイチカに、冬也は挑戦的な瞳でクスリと笑う。
「僕を信じられない? じゃあ、占ってみる?」
冬也は道端に咲いているカタバミをつんで差し出す。
「僕らはいっしょにいられるかどうか、占ってみて」
小さな黄色い花びら。五枚しかないのは見てすぐ分かる。
「はじめから答えが出てる!」
「そう?」
きょとんとした冬也のウソっぽい顔。イチカはムッとくちびるを結び、わざと『いられない』から始めた。
「いられない、いられる、いられない、いられる、いられない……」
「あっ!」
冬也が急にどこかを指差した。イチカがつられて目をやると、そこには何もない。戻った視線の先で、イチカの手にはなぜか新しい花がにぎられていた。
「えっ?」
「さ、続きをどうぞ?」
くすくす笑う冬也。
(マジシャンじゃないんだから……)
イチカはあきれながらも続けた。
「……いられる、いられない、いられる、いられない……いられる」
「ほらね? いられるよ」
「今のは、ちょっとズルい」
イチカは笑ってしまった。
「私は、占いなんて信じてないのに」
「ひとつくらいなら、信じてみてもいいんじゃないかな?」
冬也の笑顔に、夕暮れのやわらかな日差しがかかる。
「これは叶うよ。大丈夫、僕にまかせて」
その声が、イチカの胸にじんわりと染みていく。
そのとき、遠くからニコと父親の姿が見えた。児童館からの帰りらしい。
「おねえちゃーん!」
駆け寄ってきたニコを抱きとめたイチカは、すぐに違和感に気づく。ニコの目がうるうると涙でにじんでいた。
「どうしたの?」
「……児童館でね、神社の怪談を聞いちゃったの。怖いよ。学校に行くとき、通りたくない……」
イチカはニコの頭をなでる。
「泣かないで、ニコ。にこにこ笑顔で、心配しないで」
それは、怖がりで泣き虫だった自分に母がくれた言葉。イチカは母の声を思い出しながら、ニコに笑いかける。
「その怪談、お姉ちゃんたちにまかせて」
ニコの顔にぱっと笑顔が広がった。
ふと横を見ると、冬也がイチカを見つめ、にっこりとほほえんでいた。
(……ひとりじゃない)
イチカは胸の中でそっとつぶやく。
オレンジ色の空が、二人の歩く道を優しく照らしていた。
校舎を離れ、夕焼けの光が染める通学路を二人で並んで歩く。
「イチカくん、今回はありがとう。きみのおかげで七不思議が解決したよ」
ほめられても、イチカの顔は晴れなかった。小さくため息がこぼれる。
「冬也会長……私、分かってるの」
イチカは立ち止まり、胸の奥にあった言葉をぶつける。
「冬也会長なら、本当は七不思議を解けたはずだよね。でもわざと私に解かせた。それって……どうして?」
冬也は足を止め、沈黙したあとに口を開いた。
「本当はね、来年の会長を任せられる子を探していたんだ。白鳥さや香さんのウワサを聞いたとき、あの子に任せるのは危ういと思った。それで、他にぴったりの子がいないかと考えて……きみが浮かんだんだ」
軽く笑って、冬也は続ける。
「五年生では、白鳥さや香さんの次に有名な『霊感少女』」
イチカは目をふせた。
(冬也会長は、私を有名にして、来年の選挙で会長に選ばれるようにしたかったんだ……)
「……やっぱり、私を利用してたんだ」
冬也は首をかしげ、少しだけ声を落とした。
「そう……かもしれない。でもね、イチカくん。きみには親しい友達がいないみたいだった。
なんでもひとりで片付けて、だれの手も借りない。『霊感少女』のウワサはウワサを呼び、きみは恐れられて、不気味に思われて……孤独だった」
イチカの肩がぴくりとふるえる。
「それは……」
「しかも、それをきみ自身が望んでいるように見えた。お母さんを亡くしたきみは、大切な人と別れるつらさを知ってしまったから。だから誰とも親しくならない。別れが怖いから」
イチカの胸にずしりとひびく。図星を刺されて、言葉が出ない。冬也はやわらかく笑う。
「そんなきみを知るうちに、少し気持ちが変わった。なんでも一人でやろうとするきみの力になりたいと思った。僕は、きみといっしょに七不思議を解いてみたいと思ったんだ」
イチカは唇をかみしめた。胸がぎゅっとしめつけられる。
「でも……冬也会長だって、卒業していなくなるのに」
「中学なんてすぐ近くだよ。きみが会いたいと思ってくれるなら、いつだって会いに行く」
返す言葉を失って、イチカは黙りこんだ。そんなイチカに、冬也は挑戦的な瞳でクスリと笑う。
「僕を信じられない? じゃあ、占ってみる?」
冬也は道端に咲いているカタバミをつんで差し出す。
「僕らはいっしょにいられるかどうか、占ってみて」
小さな黄色い花びら。五枚しかないのは見てすぐ分かる。
「はじめから答えが出てる!」
「そう?」
きょとんとした冬也のウソっぽい顔。イチカはムッとくちびるを結び、わざと『いられない』から始めた。
「いられない、いられる、いられない、いられる、いられない……」
「あっ!」
冬也が急にどこかを指差した。イチカがつられて目をやると、そこには何もない。戻った視線の先で、イチカの手にはなぜか新しい花がにぎられていた。
「えっ?」
「さ、続きをどうぞ?」
くすくす笑う冬也。
(マジシャンじゃないんだから……)
イチカはあきれながらも続けた。
「……いられる、いられない、いられる、いられない……いられる」
「ほらね? いられるよ」
「今のは、ちょっとズルい」
イチカは笑ってしまった。
「私は、占いなんて信じてないのに」
「ひとつくらいなら、信じてみてもいいんじゃないかな?」
冬也の笑顔に、夕暮れのやわらかな日差しがかかる。
「これは叶うよ。大丈夫、僕にまかせて」
その声が、イチカの胸にじんわりと染みていく。
そのとき、遠くからニコと父親の姿が見えた。児童館からの帰りらしい。
「おねえちゃーん!」
駆け寄ってきたニコを抱きとめたイチカは、すぐに違和感に気づく。ニコの目がうるうると涙でにじんでいた。
「どうしたの?」
「……児童館でね、神社の怪談を聞いちゃったの。怖いよ。学校に行くとき、通りたくない……」
イチカはニコの頭をなでる。
「泣かないで、ニコ。にこにこ笑顔で、心配しないで」
それは、怖がりで泣き虫だった自分に母がくれた言葉。イチカは母の声を思い出しながら、ニコに笑いかける。
「その怪談、お姉ちゃんたちにまかせて」
ニコの顔にぱっと笑顔が広がった。
ふと横を見ると、冬也がイチカを見つめ、にっこりとほほえんでいた。
(……ひとりじゃない)
イチカは胸の中でそっとつぶやく。
オレンジ色の空が、二人の歩く道を優しく照らしていた。
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