ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第01話 世界一平和な逆襲(前)

06.倒すべき宿敵

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 ***

 ウィルクトリア国、総理大臣執務室。

 仰々しいデスクに鎮座する老人は、世界を支配するこの国のトップに君臨する男。アシュノット総理大臣である。

「何の御用ですか? 総理」

 ヴァンは警戒心と敵愾心を剥き出しに問いかける。アシュノット総理こそ「世界から財産を搾取して働かずに暮らす」という歪んだ国家体制の推進者であり、ヴァンにとって最大の政敵である。

 そして総理にとってもヴァンは最大の頭痛の種である。ヴァンが後継を作らなければ現体制は維持できない。彼は誰よりもスナキア家の繁栄を望み、ヴァンに一夫多妻の権利を与えた張本人だ。ビースティアとばかり結ばれるヴァンに圧力をかけてくるとしたら彼が最有力候補となる。

「ハハ、急に済まないねヴァン君。詳しい話をする前にひとまず分身をこの国の上空に送ってくれないか?」

 総理はヴァンを嘲笑うかのように飄々とした態度で気さくに語る。

「上空に?」
「ミサイルが飛んできてるんだよ。このウィルクトリアの首都めがけてね」
「⁉︎」

 ヴァンは言われるまま上空に分身を派遣するしかなかった。こちらに残ったヴァンが仔細を聴取する。

「発射したのはネイルド共和国だ。先ほど撃った張本人から通達を受けてね」
「は……?」

 ヴァンは国家の守護者として衛星の情報は常に得ている立場だ。緊急事態に備えて待機している分身が他国の動向を常にチェックしている。その分身からは何の報告もなかった。大体、なぜあちらがわざわざ撃ったことを報告してくるのか。

「しかもそのミサイルが厄介でね。レーダーには一切映らないんだそうだ。どんな軌道や高度で飛んでくるか予想できない。本当に困ったものだよ」
「本当ですか……?」
「ハハ、疑いたくなる気持ちもわかるがね。他国はファクターという戦力を持たない分、科学兵器の発展に力を入れている。我々の想定を超えても無理はないだろう?」
「……」
「遠距離ミサイルはこの孤立した島国を攻撃する唯一の手段だからね。戦艦や戦闘機なんてファクター兵数名で沈められてしまう。そりゃあっちだって必死に強力なミサイルを開発するさ」

 アシュノット総理はまるで用意しておいたかのようにつらつらと語る。

 嘘だと言い切ってやりたいところだ。だが総理は恐ろしく老獪な男。他国を脅し、本当に撃たせた可能性も否定できない。自国に攻撃をさせるなど国家元首としてあるまじき行為だが、どうせヴァンが防ぐから構わないと割り切ってしまう大胆さも持ち合わせている。

 何より彼は、ヴァンに後継を残させるためには手段を選ばない。

「どれだけの速さで飛んでくるかも分からないが、ネイルド共和国との距離からすると遅くとも数十分以内に着弾してしまうだろう。ヴァン君、君だけが頼りだ。分身を多重展開しミサイルを迎撃してくれないか?」
「レーダーに映らないということは、俺が目視で見つけ出さなければなりませんよね?」
「そうなるねぇ。でも君ならできるだろう? この国の周囲に数百メートルおきに分身を配置して巨大な網を張ればいい」
「……一体何十万人必要だと思ってるんですか」
「ハハ、分身は得意だろう?」

 ミオの予想通りだ。ヴァンが大量に分身しなければならない状況を作ってきた。総理の指示を忠実に守ろうとすれば、妻を護衛するための分身に残す魔力が激減してしまう。

「国中をバリアで覆うという方法もありますが」
「ハハ、それは君にとっても得策ではあるまい。バリアは国民にも目視できるだろう? 他国から攻撃を受けていると噂になるだけで世論は開戦に傾く。戦争を避けたければ国民には知られぬよう内々で処理した方がいい」

 悔しいがその通りだった。こうなっては総理の指示に従うしかない。

 だが、ミオのおかげで国の狙いは既に看過している。彼らの狙いは妻だ。であればこちらは今のうちに妻を安全な場所に避難させるだけでいい。あとは軍を適当にあしらい、ミサイルを待機しているだけだ。

「……ひとまず二十六万と数千人で上空を監視します」
「おお! 頼んだよ」

 ヴァンはあえて過剰に分身してみせた。この状態で誘拐を未然に防ぐことができればこの手の作戦が無意味だと悟ってくれるはずだ。どれだけヴァンに負荷をかけようが妻の護衛が弱まることはない。

 ────しかし、それでは物足りない。ヴァンもいい加減腹が立ってきた。もっと徹底的に総理の心をへし折る策はないのだろうか。

「それにしても懐かしいねぇヴァン君。この国にミサイルが放たれるなど、君が子どもの頃以来じゃないか」

 ヴァンの思考を遮るように総理は雑談を始めた。

「十三年前の”終末の雨”と呼ばれたあの悲痛な事件。君がいなければウィルクトリアはあの時に滅んでいた」

 ヴァンはかつてこの国を守っている。スナキア家先代当主であるヴァンの父が暗殺され、即座に世界中がこの国に数千発のミサイルを放った。

「とても軍には防ぎきれない。しかし頼りの君も当時わずか十二歳だ。全員が死を覚悟したよ。だが君は天才だった。継承したばかりのスナキア家の力を見事に使いこなし、超巨大バリアでこの国全土を覆い、全てのミサイルを叩き落とした。いやぁ、君には感謝してもしきれんよ」
「……光栄です」

 ヴァンは乱暴に言い捨てる。

「あの一件の記憶がある限り、国民たちはまだ心のどこかで君を信頼している。いつか国の未来を考えて後継を作ってくれるとね。いい加減意地を張るのはやめたらどうかね?」

 総理は面倒くさそうに顔を背け、白い口髭を撫でる。 

「君がどう立ち回ろうが、国民の意思はすでに明らかだろう? 君に真っ向から立ち向かっている私が総理の座についているのだから」
「……!」

 総理を引き摺り下ろさない限り、ヴァンの願いは叶わない。しかし無茶な手を使えば総理は殲滅戦争のカードを切るかもしれない。面倒だがこの国を変えるには民主主義的な手続きで、国民の同意の元で進めなければならない。

 ヴァンは”終末の雨”直後から国家体制の抜本的な改革、ひいてはスナキア家依存からの脱却を訴えてきた。しかし働かずに暮らせる日々に執着する国民たちはまるでついて来なかった。それどころか、今後もスナキア家に甘える気満々の一夫多妻制を満場一致で成立させたのである。

 全員の命の恩人であるヴァンの声すら届かない。よってヴァンはビースティアとの結婚でプレッシャーをかけて民意を強引に傾け始めたが、未だ半数以上は現体制を維持する総理を支持している。

 その理由は大きく二つ。軍事と経済だ。

 ウィルクトリアが態度を改めようと、他国から恨みが完全に消えるはずもない。それなりの国防力は今後ずっと必要だという考えが主流だ。ヴァンもこれにはある程度同意で、だからこそ軍を鍛えている。しかし”終末の雨”を目撃した国民たちはスナキア家抜きで国を守り切れるとは到底思えないようだ。

 そしてウィルクトリアはまともな産業を持たず、他国からの搾取を止めれば餓死確定だ。働こうにもそもそも働く場所がないという悲惨な状態である。自立した経済を構築できると確信できる状況を作ってやらない限り国民たちはついてこない。

 総理から民意を奪い取るのは並大抵のことではない。──しかし逆に考えれば、総理は民意が彼から離れてしまうことを最も恐れている。

 軍との賭け、ミサイル騒動、そしておそらく本命である妻の誘拐。裏で取り仕切っているのは間違いなくアシュノット総理だ。彼の支持率を激減させられるような反撃ができれば、シュリルワご所望の「ギャフン」が実現する。

 何か手を考えよう。きっと良い策が思いつく。なんせ今のヴァンは、実に約三十万もの脳を持っている。
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