ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第06話 ざまあみろ、ウィルクトリア(過去編)

18.誓い

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「……わっ! 来ちゃった!」

 分身がジルーナをエスコートしてきた。すぐにその分身を回収し、二人きりになる。

「テレビで見てたけど凄かったよ。ほんとみんな馬鹿ばっかり!」
「俺も同じこと思ってたよ。生で見るともっと酷いぞ」

 二人はクスクスと笑い合った。さあ、本当の結婚式を始めよう。愚かな国民たちによる万雷の拍手の中で。

「ジル、綺麗だよ」
「もう、何回言うのそれ?」

 白いヴェールとウエディングドレス。ジルーナに散々苦言を呈されるほどのお金を積んで特注した代物だ。後で写真もたっぷり撮っておかねば。

「ヴァン、結婚式なんだからあれやろ? 何とかを誓いますか~みたいなやつ!」
「あー……。あれって二人でできるのか?」
「お互いに聞けばいいじゃん」

 ……細かい文言は覚えていない。戸惑っているとジルが先陣を切った。

「あなたはもう私の前では力を抜いて、私を安心させてくれることを誓いますか?」
「な、何だよそれ?」
「だってヴァンっていつも頑張りすぎで心配なんだもん。これを機に要求を叩きつけようと思って」

 ヴァンは首を曖昧に動かし、イエスともノーとも取れない微妙な対応をした。生涯をかけてジルーナを守り抜くという新たな使命を背負った。力を抜いている場合ではないのだ。

 そしてヴァンは仕返しをする。

「あなたはもう俺の心配ばっかりしないで、自分を大切にすると誓いますか?」
「何それ!」
「『何それ!』じゃないだろ……。俺今まで千回くらい同じこと言ってるからな」

 彼女は結婚前からすでに自分の人生をヴァンに捧げてくれていた。もう少し気を抜いてほしいと思っているのはこっちの方だ。

 しかしジルーナも曖昧な反応しかしなかった。眉根を寄せて口から溢れそうな抗議の言葉を堪えているように見える。

「なんか……、お互い破りそうだな」
「だと思う。……まあいいじゃん、一緒ならさ」

 誓ったのか誓っていないのかあやふやなままやり取りを終え、儀式は半分終了。ヴァンはもう半分に臨むため、一歩前に進んでジルのヴェールを持ち上げた。

「え? 何?」
「誓うって言ったら最後はこれだろ?」
「あ、そっか。……ん」

 ジルーナは目を瞑って顎を持ち上げた。ヴァンは彼女の唇に、唇を重ねる。絶対にこの子を幸せにする。それだけは心の底から誓った。

 ジルーナは一歩離れ、したり顔を見せる。

「……フフ、ねえ、ノート貸して。どう書けばいいの?」
「書式は決まってない。お互いの名前でも並べて書いておこうか」
「うん! それがいい!」

 ノートを開き、胸ポケットからペンを取り出す。この国では結婚する際、お互いの苗字を持ち寄ることになっている。二人は順番に新しい名前を書き込んだ。

 ヴァン・スナキア・ハンゼル。
 ジルーナ・スナキア・ハンゼル。

 これで正式に夫婦になった。ジルーナは並んだ名前を愛おしそうに見つめながらヴァンに抱きつく。

「……夢が叶っちゃった」
「俺もだ」

 このときをどれだけ待ち侘びたことか。彼女と一緒に生きていたいと、ずっとずっと望んできた。やっと彼女と、家族になれたんだ。

 だが幸せに浸るのは一仕事終えてからだ。

「ヴァン、早く帰ってきてね。ちゅーは一回じゃ足りないよ」
「通りすがるたびするから安心してくれ」
「唇ガサガサになっちゃうじゃん……。あ、高いリップでも買おっかな。なぜか私お金持ちだし」
「君は買わなくていい。俺が会社ごとプレゼントする」
「やめなさい、はた迷惑な……」

 緊張感のないじゃれ合うようなやり取りをしながらジルを家に送迎する。再びステージに舞い戻って、目隠しのバリアを消した。

 ────さあ、お仕置きの時間だ。

「たった今入籍しました! 国民の皆さん、証人になっていただき本当にありがとうございます!」

 国民たちが歓声を上げる。幾多の戦争に同時に勝利したかのような盛り上がりだった。実際彼らにとってはこの国が今後も勝者であり続けると確信できるような出来事なのだろう。だが、浮かれるのはもう終わりだ。

「……ここでお知らせがあります。妻は……ビースティアです」

 途端に会場が静寂に包まれる。たっぷり間をとってやると、次第にざわめきが大きくなっていった。

「当然、ファクターである俺とは後継を望めません。ただ、俺はビースティアにしか興味がないんですよ。なので今後もたくさんのビースティアと結婚していく予定です。よって、このままスナキア家頼りの国家運営を続けていけば皆さんはいずれ全員死にます」

 淡々と事実を突きつけてやる。他国への横暴な振る舞いを辞め、自分の面倒は自分で見られるようにならなければこの国は終わりだ。タイムリミットはヴァンが死ぬまでの数十年。必死でやれば充分間に合うはずだ。せいぜい頑張ればいい。

「────ふざけるな!」

 痺れを切らした観客の一人が叫ぶ。……前も聞いたな。ふざけてなどいない。ヴァンは大真面目だ。

「俺たちを見捨てるつもりか⁉︎」
「何考えてんだ! 使命を果たせ!」

 場内は次第に怒号で溢れていった。本当に異常な精神構造をしているな。ヴァンに文句を言える権利など欠片も持っていないはずだろう。

 一番困惑しているのは、この国の最高権力者。アシュノット総理だった。

「ヴァ、ヴァン君! 君は一体何を考えているんだ⁉︎」

 許可なく壇上に上がってきたが制止はしなかった。是非とも目立つ位置で絶望を味わってもらおう。

「何って、言った通りですよ。後継より性癖の方が大事なので好きなように生きることにしたんです。総理が作ってくださった一夫多妻制のおかげで楽しくなりそうですよ」
「バカな……っ! あの制度はスナキア家の繁栄のために国民の満場一致のもとで作られたんだぞ⁉︎」
「俺はそんなこと望んでいないし頼んでもいませんよ。まさか俺は国民ではなく家畜なんですか?」

 半笑いで告げてやると総理は唸っていた。敵ながら頭が切れることは認めざるを得ない彼である。ヴァンがやろうとしていることはもう理解できたようだ。一夫多妻制が致命的な失策であったことも。

 ヴァンは物理的に後継の誕生はまだ可能だと国民に認識させたまま動ける。一夫多妻制がある限り総理は殲滅戦争などという強硬手段は取れない。しかも今更廃止にもできない。ヴァンがファクターと結ばれる道を自ら閉ざすことになるからだ。

「ヴァン君、考え直したまえ! 君はそんな奔放が許される立場ではない! 結婚相手は慎重に選んでもらわねば困る!」
「そちらは俺の結婚相手に口出しできるような立場なんですか? 俺が結婚に際して国民の顔色を窺う必要なんてない。どんな結婚であれアンタらは祝福すべきだ。それだけのことを俺はしてきた」
「き、君に感謝はしているし祝えるものなら祝いたい! 敵対していたとしてもそれは本当だ! だが国民の命がかかっているとなれば話は変わる! しかも理由が性癖だと⁉︎ 納得できるはずがない!」

 世界のトップとは思えないオロオロした姿を晒す。何を言おうと生殺与奪を握るヴァンに逆らえるはずがない。

「アンタらの納得など必要ないと言っているんだ。もう自分たちの卑しい願望のために俺を使えると思うなよ。恥を知れ」

 はっきりと意思を示す。総理はいよいよヴァンをコントロールできないのだと悟ったようで、かつて見せたことがない鬼のような形相で苛立ちを剥き出しにした。

「図に乗るなよ小僧……!」

 ──そのとき、群衆の中から声が聞こえた。

「女のせいだ……」

 そしてその声に同調するかのように、次々と口を開いていく。

「ヴァン様はずっと立派な人だった……! こんな横暴は絶対にしない……!」
「女に狂わされたんだ! なんて奴だ!」
「どこのどいつなんだ、その傾国の魔女は……⁉︎」
「引き摺り出して捕らえろ! そいつが全ての元凶だ!」

 ヴァンの中で何かが切れた。百歩譲って自分を非難するのは構わない。しかし、

「妻を侮辱するな……!」

 それだけは絶対に承知できない。

 無意識の内に魔力が滾る。ヴァンの怒りと呼応するように、巨大ホール全体がビリビリと振動する。今にも星ごと崩壊させてしまいそうな禍々しいエネルギーがヴァンを中心に世界を包んだ。

「思い知らせなければならないな。俺の結婚に口を出せばどうなるのか……!」

 ヴァン・スナキアはもう英雄ではなく、ただの暴君になる。であれば遠慮なくこの怒りに身を任せてみよう。いよいよジルーナに伝えた作戦を実行に移す時だ。

 国民に、罰を下す。
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