シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜

長月京子

文字の大きさ
44 / 233
第二話 偽りの玉座

参章:三 地界の民、清香(きよか)

しおりを挟む
 翡翠ひすいには一体何が起きているのか分からない。話によると、清香きよかと呼ばれる女は天界にある滄国そうこくの城に勤めていたと言う。地界に生まれながら、天界で職に就き、彼女は日々をこちらで過ごしているのだ。 

 地界がいかに荒れようとも、生活拠点が天界に在るのなら、彼女が貧困や餓えをその身で体験することはない筈である。 
 一行は中庭に臨む廂から、再び最奥さいおうにある白虹はっこう皇子みこの居室へと戻っていた。皇子みこ白亜はくあ清香きよかも快く迎え入れて、すぐに話を聞く態勢を整えた。 

 翡翠は白亜と並んで榻牀ながいすに掛けている清香を見る。 
 天界に住まう彼女が、なぜこれほど痩せ衰えているのかが分からない。白虹の皇子みこが彼女から何を聞き出したいのかも、知らされていないのだ。 
 問いたいことは山のようにあったが、翡翠は先走ることを戒める。清香と皇子のやりとりを眺めていることに徹した。二人の会話を辿っていれば、いずれは全ての疑問が明かされると感じたからだ。 

 落ち着きを取り戻した清香は、居室に溢れかえっている書物を物珍しげに眺めている。翡翠は再び、皓月こうげつの巨体に寄り添うように座っていた。白虹の皇子みこもさきほどと同じ牀子いすに掛けて、向かい側の清香を見る。 

「あなたに辿りつくまでに、少しばかり時間を要しました。白亜にとっても、雲を掴むような依頼だったと思います」 
皇子みこ。それほどのことでは」 

 白亜が恐縮すると、白虹の皇子みこは浅く微笑んだ。 

「そうでしょうか。私は相称そうしょうつばさを見た者を探し出すことが容易なことだとは思っていませんでした」 

 自嘲的に語られた呟きに、翡翠は思わず気を引き締めてしまう。 
 理解の及ばない出来事の全てが、俄かに形を描き始めたような気がした。皇子みこの隣から、妹であるゆきが堪えきれないというように口を挟む。 

大兄にいさま、では、この方が相称の翼を見たと?」 

 信じられないという顔をして、雪は清香を見つめる。清香はためらいがちに目を伏せてしまう。 

「白亜からおおよその成り行きは聞いています。あなたは相称の翼のようなものを見た。これは間違いないですね」 

 皇子みこの声は慰めるように柔らかに響く。清香は戸惑うこともなく頷いて見せた。 

皇子みこのおっしゃる通りです。私の見た者が、果たして相称の翼であるのかどうか、それは私には判りません。相称の翼を見極められるのは、黄帝こうていだけだと存じております」 
「では、あなたが見た者が、どのような者であったのかを話してください」 

「はい。少女というほど幼くはなく、……そうですね、そちらにいらっしゃる玉花ぎょくか様くらいの感じだったと思います。とにかく金色こんじきの長い髪が目を惹きました」 
「あなたが見たのは金髪の女性だったわけですね」 
「……はい。けれど、その場に居た者は皆、少女のあまりの惨状に、咄嗟に声をかけることも忘れていました」 

 清香は自身が遭遇した体験を、事細かに語り始めた。 
 翡翠は懸命に、彼女の語る出来事を思い描いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。 幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。 そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。 護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。

処理中です...