紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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―…えっと…想像していたコンウォール男爵とは…ずいぶん違うんだけど…。

緊張でコンウォール男爵の前で固まってしまうんじゃないかと思っていたライドだったが、違う意味で今ライドは、コンウォール男爵を前にして固まっていた。


―商工会の大物、切れ者といろいろ言われていたから、俺の中では鋭い目つきの大柄な男で、口から出てくる言葉は低音…そうテノール。その姿と声に思わずひれ伏したくなるってのが、俺の中でのコンウォール男爵だったんだけど…。
だけど…通された部屋で待っていたら…現れたのは、小柄でちょっと太めの体系、くるりとした大きな黒目がちの男で、人のよさそうな田舎のおじさんという感じで、とても切れ者とは見えなかったどころか、貴族にも見えない…。かろうじてピンと跳ね上がった大きな口ひげをたくわえているところが、貴族のような雰囲気だけど…。


そう思いながら、横に立つアークフリードに目をやれば、やはり茫然としている。

―…だよなぁ。アークフリードだってそう思ってんだろうなぁ、だってとても切れ者、表と裏の顔を持つなんて…無縁って感じ人のよさそうな穏やかな人物って感じだもんな。あぁこれなら話はスムーズにいきそうだ。

などと勝手に思っていたライドの心中を見透かすように、黒目がちの大きな目がライドを見、そしてゆっくりとその視線をアークフリードへと移ると、コンウォールは穏やかな笑みを見せながら頭を下げてきた。



「ブランドン公爵様、アーガイル伯爵様、本日は娘のことでわざわざおいで頂きありがとうございます。」


その途端、アークフリードは慌ててソファから立ち上がり
「コンウォール男爵殿、こんなことにご息女を巻き込み申し訳ない」と深く頭を下げた。


「ブ、ブランド公爵様、どうかそのような真似は…」

若くとも筆頭公爵のアークフリードにここまでされたことに、さすがに驚いたのだろう。日頃のコンウォールらしからぬ落ち着きのなさで顔を青くした。


「いや、ご息女を国のため、公爵家のためといって、女性としての人生に傷をつけることを…どうか、どうか許してほしい。」

なかなか頭をあげないアークフリードに、コンウォールは口元に笑みを浮かべると

「…上位の貴族なのですから、ひとこと、国のためだと命じれば済むことを…」

そう言うと、懐かしむように眼を潤ませ「アークフリード様は…」と口にしたが、その先は笑みを深くして続けず、思わぬことを口にした。



「公爵様は…マールバラ王に似ていらっしゃる。誰にでも誠実で、お優しかったあの方に…。」



コンウォールの言葉に、茫然とした顔でアークフリードは頭をあげ、ライドは眉を顰めた。



コンウォールは2人の顔を見て、それは楽しそうに



「ふっふふふ……以外でございましょうね。男爵風情がそれも他国の王と知りあいだなんて、実はマールバラ王は、私が商売を最初に始めた店【銀の匙】の常連だったんですよ。」


「「…えっ?!」」とライドとアークフリードは同時に叫んだ!

本来ならあり得ない話しだ、だがなぜだか嘘だとは思えなかった。
でも、一国の王がそれも隣国の王がなぜ?コンウォールには失礼だが、俗に下町といわれる所になぜ?という疑問が大きく膨らんだ、それがコンウォールには見えたのか、ちょっと意地悪な顔で

「あんな場末の小汚い店に?と仰りたいのでしょう…」

「…ぁ」と小さな声を上げたアークフリードは真っ赤になり「申し訳ない!」とまた頭を下げれば、コンウォールのクスリと笑う声がして、アークフリードはそっと顔をあげた。



その様子にコンウォールは懐かしむように目を細め

「マールバラ王に、最初にお会いしたのは…25年近く前でしょうか。」



そう言ってアークフリードの後ろにある窓に目をやった。そして立ったままのアークフリードに、気が付いたコンウォールは。


「ブランドン公爵様、話が長くなるかも知れません、どうかソファにお座りくださいませ。」



「は、はい、かたじけない。」



アークフリードの慌ててソファに座る様子を微笑みながら、「やはり、似ておいでだ。」とまた口にした。



だが、穏やかな口調のコンウォールを、何故かライドもアークフリードもコンウォールを見て驚愕した。


何故なら、彼は泣いていたのだ…。


声の調子は変わらないのに、彼の目から涙が次々に溢れていたからだ。


コンウォールは、ポケットからハンカチを出し、



「年をとると、涙腺が緩くていけません。」



涙を拭いて、ハンカチから顔を上げると…その顔は思いつめた中年の男の顔だった。



「娘は、国や公爵様の現状から、お救いしたいという気持ちでやっております、もちろん、私もですが、もうひとつ私には理由があります。」


コンウォールはアークフリードとライドの誠実な顔を見つめた。息を吐くと目を瞑った。




覚悟を決めたように目を開いたコンウォールはゆっくりと自分も椅子へと腰を下ろすと

「今から、お話することは、どうかここだけの話で…。」そう言って、顔の前で手を組んだ。



鋭い目つきではなかった。低いテノールの声ではなかった。

だが、ライドもアークフリードもコンウォールの威圧感に息が止まりそうだった。





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