紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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「あの時、何度も途切れる意識の中で聞こえたマールバラ王の声は…すべてを背負うと決めた声でした。」

「ブランドン公爵様…。」

コンウォールはあの日の出来事を知ることが、この先どう動くべきがの指針になるとわかってはいたが、アークフリードの口から知ることになるだろうマールバラ王の最後を聞くのが怖かった。





*****




爆音と共に突風が起こり、吹き飛ばされたマールバラ王がようやく目を開けた時、椅子もテーブルも…なにもかもが、先ほどの風景とは一新していた。

―これが火薬と言われるものか…。そう思いながら、肘から下から亡くなった右腕を見つめた。


「あれほど、コンウォールに、陛下は人を信じすぎます!いいですか、ローラン伯爵には気を付けてください。…と言われていたのに…私はいつまでたっても甘いなあ。」


―あぁ…そうだった。それだけではなかった。コンウォールは妹のことも言っておったな。
(陛下、妹君のわがままをいつまでも可哀そうだからと、目を瞑っていてはなりません。ローラン伯爵ら貴族達の間に不穏な動きがある今、妹君のわがままは命取りになりかねます。妹君を哀れと思うそのお気持ちをどうか切ってください…妹君は陛下が思っていらっしゃるような方ではないと思います。)

妹は私が思っているような人間ではない…か。

貴族の間に、妹に対する不満が募っていたのは、コンウォールに言われるまでもなく…わかっていた。だが15年、地下牢に囚われていた妹を哀れだと思う気持ちが…これからは必ず私がおまえを守ると…誓わせた。


…いかん、どうやら出血が多いため…頭がぼんやりしてきた。
だがまだ、倒れるわけにはいかない。

怪我をした王妃とエリザベスはコンウォールに頼んだ、あとは…アークフリードと妹を探して安全なところに…連れて行かねば…。











「…お兄様?」



マールバラ王は右腕を押えながら、自分を兄と呼ぶ声に振り返った…だが、上半身を真っ赤に染めたその姿に茫然とした。

「ぁ…ぁ…その血はどうしたのだ?…ケガをしたのか?!」

マールバラ王の声に、女性が笑い声が重なる。

「私は大丈夫、この血はお父様のよ。それよりお兄様の腕が…」

「待て!…父上の血とはどういう意味だ?!」

「そのままの意味よ。お父様を殺したの。ローラン伯爵の力を借りて。」

「えっ?ころした?」

「えぇ、15の時お兄様に助けられてから、17年もかかってしまったけどようやく…叶った。お父様は私とお兄様が一緒にいることに反対していたそうじゃない。でも目障りなお父様は始末したし、これでお兄様とふたりでマールバラ王国を治めていけるわね。」

「…おまえは何を言っている。」

「15年前に私を地下牢から出してくださるときに仰ったじゃない。これからは二人でマールバラ王国を守ろうと。正直、私を認めないこんな国なんて滅んでしまえと思っていたのよ。でもお兄様が一緒にマールバラ王国を守ろうと仰るから考えを改めたの。」

「おまえ…」

「お兄様の為に、他にも頑張ってるの!本当は…私だけのお兄様でいて欲しいと思っているから、お兄様の傍にいるリリスも、エリザベスも大嫌い。でもお兄様がふたりを大事にされているから…好きになるように努力してるわ。でもお父様のことはお嫌いでしょう?私を15年も地下牢に入れていた男だもの。おまけに《王華》をお兄様と分け合うことに反対していたんでしょう…ローラン伯爵が言っていたわ。」


―自分と同じ歳のはずの妹が…エリザベスより幼く感じる。この危うさはなんだ。



「あぁようやく、夢が叶うのね。二人でマールバラ王国を治める夢が…。
お兄様…。今だから言えるけど、私なんかがお兄様と一緒にマールバラ王国を守れるか…本当は少し不安だったの、だって私は《王華》を身に宿していないんだもの、でもローラン伯爵にお兄様は仰ったのでしょう。自分たちはふたりで一つの存在だから、《王華》を半分にして身に宿すことは神だって望んでいると。」

「ローランがそんな事を…。」

「うふふ…。あぁ早くローラン伯爵に話を進めて欲しいわ。《王華》を手に入れたら、魔法が使えるのでしょう。楽しみだわ。」


そう言って、より笑みを深めると、マールバラ王の傷ついた右腕を取った。
「お兄様のこの腕…早く治癒魔法で治されたほうがいいわ。…お兄様?」


「話を進めるとは何だ…」

「あぁ…《王華》の話よ。戴冠の儀みたいなたいそうなことはしなくても、《王華》の半分をお兄様から頂くのだから、それなりの儀式は必要じゃないかとローラン伯爵が言っているの。私はどうでもよいのだけど…。とりあえずローラン伯爵の話は、今はいいじゃない。それより早く治癒魔法を…」


「今は!私のケガなどどうでもいい!!」

「なにを怒っているの?」

「怒っているのではない…悲しいのだ。おまえの…おまえの心がそんなに壊れていたことが…。どうして気付いてやれなかったんだろう。コンウォールの言う通りだった。

ほんの数分…後で生まれてというだけで忌み嫌われ、地下牢に入れられていたおまえを…幸せにしてやりたかった。これから先の人生が喜びにあふれるように…辛いことから守ってやりたかった。だから…おまえのわがままに目を瞑った、貴族らの不満には頭を下げた。だが私の為にと言いながら、内乱を起こし、父上を殺すなど…。許すことはできぬ。」


「15年前必ず私がおまえを守ると仰ったその口で、許すことはできないと仰るのね。あぁ~お兄様はお父様とは違うと思っていたのに残念。良い子にしていれば、お兄様の罪悪感を引き出し、お優しいお兄様は《王華》を私に…半分はくださると思っていたんだけど…まさか土壇場で切られるとは…。」と言ってクスクスと笑いだしたが、その目に涙があったのを気付いたマールバラ王は、頭を横に振ると

「いや…それがおまえの本音ではあるまい。その涙も…。15年前、(お兄様、お兄様、)と顔をくしゃくしゃにして泣いていたあの涙も、偽りは見えなかった。罪を償おう、一緒に私も償ってい行くから…。」

「償う?どうして?15年地下牢に入れられていた私が、この国に復讐しようとしただけよ。私は悪くはないわ。お兄様はどこまでおひとよしなの…涙一つで…まったく笑ってしまうわ。」


「パム!!」


「ぁ…こんな時に…子供頃の愛称で呼ばれるとは…。どうして今なの。あの頃のように…私を呼ぶのよ!15年あの地下牢いた私には世話をする兵士と待女のふたり、そのふたりが名前のない私を呼ぶときは(女)悲しかった…。だからお兄様が名前をつけてくださった時…嬉しかったの。ようやく人に慣れた気がして…。あの時から私にとってお兄様は唯一だった、だからきっと私もお兄様の唯一になれると思ったわ。でも…リリスが、エリザベスがいた。だから代わりに《王華》が欲しいと思ったの。それは…いけないこと?私には何にもないの、だから頂戴!お兄様の《王華》を!」



そう言って、一瞬辛そうにゆがんだ顔だったが、唇にゆっくりと弧を描くとマールバラ王の右腕に流れる血をペロリと舐め、笑みを深くし言った。

「ねぇ…お兄様。どれぐらいお兄様の血を啜れば《王華》を頂けるのかしら?」









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