紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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早朝、アークフリードは、母が愛した庭にいた。

穏やかな時間が流れるこの場所が、逸る気持ちを抑えてくれる気がしたからだった、だが心地よい風や、香りのいい花と共に、ガゼボでお茶を飲んでも、逸る気持ちを抑えきれずにいた。

―パメラの後ろには大物…バクルー王がいる事はわかっていた。
軍事大国と評されるバクルー国だが、ノーフォークとて引けを取らないと俺は思っている。だが、まともにぶつかればノーフォーク国は勝てないだろう。それは上に立つ人間の差だ。

バクルー国には知略に長けた王がいる。王は強力な武力を持ち、長年の経験によって培われた勘に基づいて、柔軟に戦略を変えていける、知力と本能を併せ持つ王だ。とても俺のような若造では相手になりそうもない。

でも…何だろう…何か引っかかる。

マールバラ王国の滅亡から13年、はっきり動きだしたのは昨年あたりだ。なぜこれほどバクルー王は待っていたんだ?いくらなんでも長い年数だ。バクルー王が何もしないでただ待っていたとはどうしても思えない。

長い間待った理由はなんだ?
ノーフォークを手中に治めるより、うまいものを見つけたということか?
それがこのタイミングで仕掛けてきた理由?


だめだ。

どうしてもバクルー王の動きが気になる。








その時、目の前のガゼボに懐かしい姿が見えた。

ーえっ?これは…。


赤い髪と緑の瞳…ミーナ?いや…違う。あのシルエットは…エリザベスの母…リリス様だ。


『アークは私達三人のナイトですから、このお茶会の参加を認めます』と望んでもいないのに、リリス様が無理矢理幼い俺の手を引いていくのが見えた。

しっかりものの俺の母、ノーフォーク王を影で支えた優しく静かなケイト様、子供のように素直で明るいリリス様、幼馴染の気軽さで、いつもあのお茶会は笑い声が耐えなかった。

容姿はマールバラ王にそっくりなエリザベスだったが、今思えばその行動はリリス様にそっくりだった。

あの大きな楠に登ってみたり、 この大陸で一番多い自分の赤い髪の色や緑の瞳が、つまらないといって、布を染める染料を頭につけたりと、王家の姫らしからぬところも、明るくて…いつも笑っているところも…そっくりだった。


そんなリリス様が俺の母に縋りつき泣いているのを見たんだ。あれはこのお茶会のあとだった。
 「何を信じていいのかわからなくなってしまったの。あの方の言葉も、私の中の気持ちも…信じられないの。ローズ私はどうしたらいいの?何を信じたらいいの?」

あれはリリス様がマールバラ王と知り合って間もなくのころだ。

 母はリリス様を抱きしめて
「あの方は魅了魔法という力があるがために、リリスを不安にさせているけど、恋をするって…いつの間にか惹かれて…止めようと思っても抗えないもの。それってリリスが言う魅了魔法と同じだわ。
だから魔法の有る無しに関係ないと思うの。もし、魅了魔法が今もリリスにかかっているのなら、私にこういう疑問を言ったりしないのではないかしら?ただ人形のようにあの方に抱かれるだけの物になっているはずよ。ねぇ、リリス、抗えないものなら、素直になりなさい。」と言って微笑んでいた。



ーいつの間にか惹かれ、止めようと思っても抗えないもの…か。




「でもなぜ、こんなことを思い出したんだろう…。リリス様と同じ、赤い髪と緑色の瞳のミーナへの思いに気がついたからだろうか。」

そう口にしてアークフリードは微笑んだ。

風がアークフリードの体を通り過ぎようとした…心地よい風だった。


目を瞑って、その風を感じていたアークフリードだったが、その風が突然突風となってアークフリードの髪を乱し、葉を散らしていった。







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