紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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大きな血管を傷つけていたのだろう、左手の出血はかなり酷かった。

深夜、コンウォール邸に着いた時には、さすがのアークフリードも少しふらついてしまい、コンウォール邸の使用人たちを慌てさせた。



コンウォール邸の玄関ホールのいつもと違う騒がしさに、眠れなかったエリザベ スは胸騒ぎを感じ、部屋を出ようと扉に手をかけたとしたその時、荒々しく扉を叩く音が…


「エリザベス様、コンウォールでございます。アークフリード様が…」


コンウォールらしからぬ、滑舌の悪さだった。


エリザベスは、眉を顰め扉を開くと、 そこには青い顔をしたコンウォールがいた。

「なにかあったのですか?」

「エリザベス様、アークフリード様がお見えになっておられます…ですが、お怪我をなさって…」


コンウォールの言葉は最後まで聞こえなかった。

エリザベスは走り出し、案内をするコンウォールを追い越すほどの勢いで、コンウォール邸の中をアークフリードのもとへと走っていった。







アークフリードは案内された部屋で治療を受け、椅子に座り赤く血に染まった白いシャツを脱いでいた。

その体には13年前に受けた傷跡があった。 
左胸の上から腹にかけて剣の傷は、今は白い線のようになっているが、大きな傷だったことが窺い知れた。

アークフリードはその傷跡を触りながら、13年前のあの日を思い出していた。



マールバラ王をお助けできなかったことが悔しかった。
せめてエリザベスは…と起き上がった時、数人の兵士らが「おまえか?!マールバラの兵士らが言っていた騎士気取りで、エリザベス王女は俺が守るなんて言ってたガキは?」そう言って、ニヤリと笑い「お姫様は死んだぞ。」と言って俺の腹を蹴ってきた。

その言葉を聞いた瞬間、周りが暗闇に包まれた気がした、だがその時見えたのだ、紫の髪と瞳のエリザベスを。あの世とやらから、彼女が迎えに来てくれたのかと思って…ここに俺はいるからと「……エ…リザ…ベ…ス。」絞り出した声に、彼女が俺に向かって言った。「あなただけは決して失わない。」

そう言って、彼女は指を鳴らすと…俺の視界は真っ赤に染まり、そして意識は暗い闇の中へと落ちて行き、意識が戻った時、俺はノーフォーク国の我が家にいた。


みんな「マールバラ王が最後の力を使って、アークを魔法でノーフォーク国に送ってくださった。」と言っていたが、俺はなぜだかそう思えなかった。だがエリザベスはあの日以来その存在が消えた。

それは…もうこの世界にはエリザベスがいないということだと誰もが言った。



ーねぇ、エリザベス。君はどうして姿を消したんだ。
君は…俺に嘘をつきたくないっていっていたのに…。初めて会った時、君はブロンドの髪と青い瞳から、本当の姿、紫の髪と瞳に変えて言ったじゃないか…。

「私はあなたに嘘をつきたくない。だから偽りの姿じゃない私を、本当の私を知ってもらいたかったの。」

そんな君が俺の前から姿を消してまでやりたかったことを、今日こそ教えてくれるよね。



ーエリザベス…。ませた振る舞いの君が可愛かった。

「エリザベス王女殿下な~んて呼ばないで、エリザベスと呼んで。私もアークフリードじゃなくてアークと呼ぶから。えっ!そんなことできないって?!いいの!だって大人になったら私はアークの花嫁になるんだもの、今から練習しておくの。」

君は笑顔だけを俺に見せたかっただろうね、でもその愛らしい顔に時折浮かぶ厳しい顔も俺は知っていたよ。

怖がらないで、俺は君のすべてを好きだったんだ、だから怖がらないで見せて欲しい。

もうすぐだ、ずっと待っていた君に会える。






ガタンと勢いよく、扉が開かれた。





俺の後をばかり追っていた愛おしかった少女が…。

俺が心から愛するミーナが…青い顔で入ってきた。



「ぁ、アーク。」

そう、ひとこと言うと扉を背にして、ずるずるとその場に座り込んでしまった。



瞳の色は紫から緑に変わっているが…その姿は…。



「…泣いているのか?」

俺の問いかけに、泣いているのに「私は泣いていません。」と言って唇を噛締め、そのうち瞳が潤み最後には鼻を赤くして泣いている。


変わらないじゃないか…13年前と。



アークフリードは椅子から立ち上がり、ゆっくりとエリザベスに近寄り、彼女の前に片膝をつきエリザベスを視線を合わせ、

「どうして、気づかなかったんだろう。君の髪の色や瞳の色は、13年前と違うけれど、中身は気が強くて、お転婆で、優しくて、そして実は泣き虫って所はぜんぜん変わっていないのに…」



そう言ってアークフリードは右手で、エリザベスの頭を自分の胸に押し当て

「エリザベス…無事だったんだ。良かった。」と言った。






エリザベスは、アークフリードに自分の正体を知られることが恐かった。
ようやく決心をしたが、心がどこかでまだ怯えていた。

だからアークフリードのほうが先に気いたことで…終わりだと思った…だが…アークフリードは…「無事だったんだ。良かった」と…。

エリザベスは、幼い子供のように声をあげて泣き出し、アークフリードの背に手を廻した。


「エリザベス、すべて話してくれ。」


アークフリードのその言葉に、エリザベスは声を震わせながら、

「ア、アーク、私は、あなたに酷いことばかりしてきたの。いっぱいしてきたの。

初めてあなたに会った時からよ。私は…アークあなたに、魅…了…魔法を掛けたの。あの時の私は、魅了魔法の恐ろしさ…、空しさがわからず。ただ側にいて欲しいと願って、掛けてしまった。

マールバラ王家は自分が愛している相手としか子供は作れない、だから王の中には、相手の気持ちなんか考えないで欲しいと思った相手に、魅了の魔法をかけ虜にし、その人との間に子供を作り、《王華》を子供にうつして、代々国を守ってきたの…。《王華》は…そういうものなの…。呪いなの…。私も…あなたに…。パメラ叔母様を責められない。 自分が欲しいと、その欲望だけで相手を支配する。…化け物だわ。だからずっと言えなかった。魅了魔法のことは…。お父様が解呪したと仰ったけど…それでもどこかでアークの優しさは魅了魔法が…と思っていた。今だって…今だってアークには魅了の魔法がかかっているかも…。」




アークフリードは、エリザベスの頭に頬を乗せ
「昔、キース王への愛が、魅了魔法で操られたものではないかとリリス様が、俺の母上が言ったそうだ。」

「お母様が?…」

「あぁ…母は、リリス様にこう言ったそうだ。

(あの方は魅了魔法という力があるがために、リリスを不安にさせているけど、恋をするって…いつの間にか惹かれ、とめようと思っても抗えないもの、それってリリスが言う魅了魔法と同じだわ。だから魔法の有る無しに関係ないと思うの…もし、魅了魔法が今もリリスにかかっているのなら私にこういう疑問を言ったりしないのではないかしら?ただ人形のようにあの方に抱かれるだけの物になっているはずよ。ねぇ、リリス…抗えないものなら、素直になりなさい。)


俺は、君が好きだ。だが、君はそれを魅了魔法のせいだと思っているんだ。」



そう言って、アークフリードは、エリザベスの顔を見ようと少し体を離そうとし たが、エリザベスはアークフリードが離れていくことを嫌がって首を振った。


アークフリードは小さく笑い、「離すもんか…」と言って、エリザベスの顎に手をかけ、顔をあげさせ、そのピンク色の唇に 自分の唇を軽く押し当てた。



「ぁ、アーク…」エリザベスは驚いて、アークフリードを見た。その顔は甘く優しかった。


「魅了魔法にかかると、相手は人形のように君の言うとおりになるんだろう。 覚えていないかい? 俺がマールバラ王国からノーフォーク国に帰る時、毎回言っていただろう。

 (アーク、ダメ。私から離れないで、ここにずっといて)その頼みを、俺は一回も叶えてあげたことはないなぁ。


 (これは食べない。アークが食べて)その頼みも、俺は一回も叶えてあげたことはないなぁ。


魅了魔法は…かかっていない。いや、君が魅了魔法をかける前に、俺は君に惹かれていた。」



「アーク!!」とエリザベスは真っ赤な顔で叫んだ。



アークフリードは、大きな声で笑ってエリザベスの額に、自分の額をつけ
「俺は、君の言いなりではなかったと思う。 寧ろ、俺の言うことをしぶしぶながら聞いていたエリザベス……君のほうが魅了魔法にかかっていたみたいだ。」



エリザベスは、何か言いたかったのか、真っ赤な顔でパクパクと口を開いては閉じてを繰り返し、アークフリードはそんなエリザベスの額に、軽く口づけをして離れ、緑色の瞳を見つめた。、



「恋がいつの間にか惹かれ、とめようと思っても抗えないものなら、俺は抗わない。だから君も…エリザベス…。抗えないものなら素直になれ。」



そう言って、エリザベスの唇を…奪った。
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