紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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深くなる口づけに、エリザベスはまだ…言わなければならないことを忘れそうになった…でも…言わないとこれは言っておかないと…エリザベスはアークフリードの胸に手を置いて、


「アーク、お、お願い、待って…」と激しい口づけの余韻を引きずりながらもエリザベスは…

「まだ、話さなくてはいけない事があるの…あの日、13年前のあの日…私は…あなたより…。」

と言い淀んだエリザベスに、「《王華》を選んだ。…というより、《王華》の奪還を選んだんだろう。」と変わりにアークフリードが言った。


「ぁ…アーク…」エリザベスは困惑した…。
その様子を見てアークフリードは、微笑みながら


「俺が王女の君ために命をかけるのは、13歳でも男として当たり前だ、だが王女の君が命をかけていいのは、俺のためであってはならない。それは、聡明な君ならわかっていたと思う。何よりあの時は《王華》だった。《王華》を使ってパメラとバクルー王がノーフォークを狙っていたんだから。当たり前だ。」


「でもお父様はそう思っていらっしゃらなかったと思うわ。…お父様がアークに《王華》を預けたのは、きっと《王華》の気配を探して私が来ると思ったからよ。あなたを助けるために《王華》を預けたのよ。

なのに私はそうしなかった。

あなたを囮にしたの。叔母様を引き寄せるために。
《王華》があなたの中にあれば、叔母様の魔法から身を守れるわ。でも…その時、私はあなたを器としてみたのよ。アークならと…そんな、そんな私をあなたは愛せる?私を…嫌いになったでしょう…!」


エリザベスの涙を、アークフリードは唇で受け止め、エリザベスの唇に軽く合わせ
「嫌いになるわけないだろう…君は俺を信じたんだろう、俺なら《王華》を守れると信じたから、俺に預けたんだろう。」


アークフリードの言葉に…エリザベスは…

「アークを信じていたわ。でも一瞬でもあなたを、愛している人を器としてみたのよ。」

「器になりえて良かった。あの時、俺に《王華》を入れたままだったから、君は自由に動けた。君の剣にはなれなかったけれど…君の力になれたんだ俺は嬉しい。あの時の13歳の俺を褒めたいくらいだ。」


エリザベスはもうだめだった、好きな人の前なのに、顔をくしゃくしゃにして泣いた。ずっと、あの時の判断をエリザベスは後悔していた。
アークフリードは、黙ってエリザベスの頭を撫でた。その手がエリザベスに温かくて、いつまでも涙が止まらなかった。



そんなエリザベスにアークフリードがポツンと言った。
 「エリザベス…。《王華》は本当に俺の中にあるのか?まぁ、俺にわかるはずはないだろうが…なんかピンとこなくて…重いとか、色があるとか、いや…もともと、どこに入るんだ?」



アークフリードの声に、エリザベスはようやく笑った。



アークは、いつもそうだった。
辛くて泣いている時、困っている時、エリザベスの気持ちを明るい方向に導いてくれる。


「《王華》はこの中に移したの…」とエリザベスは、胸元にかかるペンダントを見せた。

「いつ?」

「えっ?え…っと」簡単に言えなかった…初めての夜だとは、そんなことはエリザベスは言えるはずがない。

エリザベスの動揺を見て、アークフリードはなんとなくわかってしまった、でもアークフリードの顔を見ることができないエリザベスはごまかす為に《王華》を身に纏った。



アークフリードの眼の前に、紫色に輝く髪が風もないのに舞い、やがてエリザベスの体に、ふんわりと落ちてきた。



体に満ちてくる魔法を感じているのか、エリザベスは眼を瞑り、唇を少し開き…まるでそれは口づけを待っているように見え、アークフリードは、誘われるように唇を寄せようとしたら、エリザベスの眼が開いた…紫の瞳…だった。

アークフリードは少し照れたように笑って、唇に寄せようとした自分の唇を、エリザベスの瞼に落とし、そして照れくささを隠す為に、エリザベスの耳元で

「エリザベス、君のその姿は…。あの夜に俺から君へと移った《王華》か?」と…囁くように言った。



 今度はエリザベスが真っ赤になり、しどろもどろに

「あ、ああ、い、い今は私の中の《王華》を使ったんだけど…。あ、ああの夜…そういうことがなくても、私はアークから魔法は取り出せたんだけど、でも、あ、あの夜のことは、魔法を取り出すためじゃないから…、えっ…と。」



「俺のものになりたかったって事かい?」



エリザベスは、あ****ぁぁとわけのわからない声をあげ、1オクターブぐらい高い声で

「け、けッ、怪我をな、なおすから」と言って治癒魔法を使った。



アークフリードは暖かい風に包まれたような気がしたら、左手の傷は見る見る塞がっていった。



エリザベスは、治癒したアークフリードの左手を触り、今度は左胸の古傷を触った。
「この傷の治療は…お父様の治癒魔法が使われたの。でも…叔母様に奪われた《王華》で、ここまでしかできなかった。お父様…アークを助けてくださってありがとうございます。」



そう言ってエリザベスは、アークフリードの胸の傷をまた触った。
胸の傷跡を柔らかく触るその力加減に、アークフリードもう待てそうになかった。



「エリザベス王女殿下。」



突然、アークフリードが畏まって、エリザベスを呼んだ。



「アーク?」


「またあの夜を頂戴したい、どうぞこの願いを叶えてくださいませ。」



エリザベスは、真っ赤な顔で

「あ、アーク!!アークは変わったわ、そ…そんな恥ずかしいことを言う人じゃなかったわ!」

「13歳の頃とは違うさ。」と大きな声でアークフリードは笑い…「好きなんだ。」と言った。

「君が好きなんだ、ミーナの赤い髪も緑の瞳も、エリザベス紫の髪も瞳もすべて…」

「ア、アーク。」

「ただ、君が好きなんだ。君だから好きなんだ。」



エリザベスはアークフリードの胸にもたれた…胸が熱くなるのを感じ素直に言えた。

「幸せです。」とアークフリードは笑って「俺も…」と言って、エリザベスを抱き上げた。







ベットへと誘うアークフリードの腕に抱かれ、愛される喜びを知っているエリザベスの体は震えた…。


ーこの人を失しなわなくて良かった。



だがその時…エリザベスの体に違う震えが来た。アークフリードを失ったら…自分はどうなるのだろうと思ったからだ。あの時のように一面を火の海にしてしまうかも…。




あぁ…私は…私は…きっと壊れてしまう。





エリザベスは、アークフリードの首筋に顔を寄せた。何も考えたくない。ただ、今は…今はこの人が欲しい。

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