紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

文字の大きさ
54 / 78

53

しおりを挟む
ふたりの心と体が一緒だったのは…本当に刹那の間だった。
王宮からの使者で…その時間は終わりを告げた。


そして、その知らせをふたりに伝えにきたのは、コンウォール男爵が自らだった。
鼓舞しなければ…若いふたりのことを思うと心が折れそうだったからだ。


「王宮より使者が参っております。国王陛下からのお召しです。急ぎお支度を」


エリザベスもアークフリードも、バクルー王が帰国まで後6日、いよいよだろうとは思ってはいたが、やはり緊張と…不安な気持ちからか…エリザベスは、隣に立つアークフリードを、アークフリードは、エリザベスを見た。



アークフリードに言葉はなかったが、優しく微笑みエリザベスを促した…。

エリザベスは、長らくアークフリードを見つめていたが、黙って頷き部屋を出た。

アークフリードは、エリザベスが出て行った扉を見つめたまま、エリザベスにとうとう聞けなかった言葉を、後ろに控えていた、コンウォールに聞いた。

「コンウォール殿、エリザベスがバクルー王のもとへ行くのは、俺やフランシスの為では…」
静かな部屋にアークフリードの声が低く響く


 「アークフリード様、申し訳ありません。」と言って一旦、頭を下げたが、コンウォールだったが、すぐに顔をあげ

「騎士としてのプライドをお捨てください。…酷い事を言っているとわかっております…が…アークフリード様になにかあったら、エリザベス様はおそらく生きてはおられません。バクルー王が言ったそうです。
アークフリード様おひとりに、100人、いや1000人の兵士たちに狙えと命じると…。エリザベス様はこうも仰っておいででした、

魔法で、防げるかもしれないが、だが、万が一、1本の矢が、ひと振りの剣がアークフリード様の急所を突いたら…、死んだ人を生き返せることはできないと…。

どうか、エリザベス様のために、私が用意いたしました隠れ家へ、フランシス様と身をお隠しくださいませ。」


「やはり俺に…逃げろという事か…。エリザベスをバクルー王のもとへやって、俺に隠れていろと…。」

その声は怒りと言うより、泣いていた。


「13年前と同様に、俺は…俺はエリザベスを守れないのか…足手まといなのか…」

「アークフリード様…エリザベス様は、《王華》を…二つお持ちになりました。
《王華》があるかぎり、大丈夫でございます。バクルー王は、エリザベス様にはなにもできません。もし、あるとしたらアークフリード様に何かあった時…どうぞ、どうぞお願い致します。」



あの、コンウォールが泣いていた。崩れるように床に座り込み、頭を下げていた。

「コ、コンウォール殿。」アークフリードは、もうなにも言えなかった。



騎士の名誉、男としてプライドなどは…もういい…。

だが、愛する人を守れないどころか…足手まといになるかもしれないことが辛かった。

俺は何の為に剣の腕を磨いたんだ…。俺は…。







エリザベスは、扉の向こうで聞いていた…。「アーク…」と言って、胸元のペンダントを触った。このペンダントは、5歳の誕生日にあなたから貰ったもの、だからこの中にマールバラ王家が代々引き継いできた《王華》を…ううん、あなたが守ってくれた《王華》をいれた。

私はあなたと一緒に行くの。一緒に戦うの。あなたがいるから私は必ず勝てる。
まだ、バクルー王は私が二つの《王華》を手中に入れたことに気づいていない…。
《王華》がふたつあれば… 長い時間、大勢の兵士を倒すことができる、体力も魔法も尽きないだろう。


二つの《王華》さえあれば…勝てる。



…そして…エリザベスは自分のお腹を触った…。



おそらく私はアークの子を身ごもっているだろう。マールバラ王家は、自分が愛した人の間にしか、子供ができない…。
アーク…あなたがいるから、そしてこの子がいるから、私の魔法はより強くなる。
今の私は13年前の私とは違う。大事な人たちを守ることができる。



でも…でも…ごめんなさい。



あなたの名誉を汚すこととなっても、あなたを失うことはできない。
そんな危険さえも、冒したくない。



そう心の中で言うと、使者の待つ部屋へと顔を上げ向かった。









ノーフォーク王国の王宮内、バクルー王はいい加減疲れていた…。


ノーフォーク王の話は、カトリーヌのことばかりだったからだ。

こいつはカトリーヌじゃなくて、パメラを抱いていることがわからないんだなぁ…魅了魔法は怖いぜ。
俺としたことが…ここまで魅了魔法にやられているとは想像しなかった、
俺は掛けられなくて良かったぜ。



くわばらくわばら…。



いい加減、カトリーヌいやパメラのすばらしさに関する話は、もういい!!と怒鳴りたいくらいだ。
 裏でパメラを通じてこの男の操り、この国を牛耳ってはいたが…。

やはり、こいつではもうだめだ。早く切って、俺がノーフォークを治めよう。
ノロノロしていたら、この腑抜けのせいで、俺がこいつを操っていたことが露呈して、この国の重鎮たちが動くやも知れん。せっかく、兵を温存してこのノーフォークを奪うことができるのに…。


それにしても…こう…パメラに腑抜けにされるとは…。

あぁそうだった…パメラだ…。どうするか…。

まだ、アークフリードを押さえてもらわなくてはいかん。 

今夜、あいつを抱いて、懐柔するか…。

閨房の睦言など、信頼できないものはないと思うのだが、一番効果的なものも、これだしなぁ…。



だが、寝物語で、騙されるような女も男も詰まらん。

そう…女なら…。

俺は好奇心旺盛で賢い女が良い。俺と張り合うくらいの度胸もあれば…なお良い。

そう思うと思わず、バクルー王の口元が弧を描き、言葉が口に出た。



 「あいつはいい女だ」と…。



その時ノーフォーク王が…「そうなのだよ、バクルー王。」と言った。


バクルー王は、噛み合わなかった会話が、こんな所で合うとはと大笑いした。





エリザベスがもうすぐここにやって来る。

俺とおまえの婚約が公布されるという話を……どんな顔で聞くんだ。



見せてもらおうか…。お前の最初の一手を。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。 衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得! だけど……? ※過去作の改稿・完全版です。 内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。

見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ
恋愛
18歳の近衛兵士アツリュウは、恋する王女の兄の命を救ったことで、兄王子の護衛官になる。王女を遠くから見られるだけで幸せだと思っていた。けれど王女は幼い頃から館に閉じ込められ、精神を病んだ祖父の世話を押し付けられて自由に外に出れない身だと知る。彼女の優しさを知るごとに想いは募る。そんなアツリュウの王女への想いを利用して、兄王子はアツリュウに命がけの戦をさせる。勝ったら王女の婚約者にしてやろうと約束するも、兄王子はアツリュウの秘密を知っていた。彼は王女に触れることができないことを。婚約者になっても王女を自分では幸せにできない秘密を抱え、遠くから見るだけでいいと諦めるアツリュウ。自信がなく、自分には価値がないと思い込んでいる王女は、アツリュウの命を守りたい、その思いだけを胸に1人で離宮を抜け出して、アツリュウに会いに行く。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

走馬灯に君はいない

優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

恋は、やさしく

美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。 性描写の入る章には*マークをつけています。

処理中です...