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9、恋愛小説の主人公は恋愛するために異世界に来るんじゃないんですの?
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婚約破棄をしてから、ジャスティン様は一層私に優しく接するようになった。紳士だ。
朝はわざわざ迎えに来てくれて、どこに行くにもまるで護衛騎士のようにエスコートしてくれる。
好物のスイーツも差し入れしてくれて、ちょっとした理由を見つけては高価な宝石のアクセサリーや可愛いぬいぐるみを贈ってくれるのだ。
「ジャスティン様、嬉しいですけど、わたくしじゃなくてマナちゃんにあげなくては好感度が上がりませんわ」
私に遠慮して聖女(魔女?)への恋心を秘め、惹かれる素振りを見せないようにするのは、小説のジャスティン様にもあったことだ。
……せっかく婚約を破棄したのに、小説と同じように気を遣わせてしまうなんて。
申し訳ない、と思っていたら、マナちゃんが目を吊り上げる。
「コーデリアちゃんはどうしてあたしと彼氏をくっつけたがるの。あたし、そもそも元の世界に彼氏いるよ」
「な、なんですって!! 彼氏持ちで異世界でハーレムする主人公はさすがに好感度が低くなるんじゃないかしら!」
「あたしはハーレムしないよ!」
えっ、ハーレムしないの――!?
衝撃の事実が発覚した瞬間だった。
「じゃあ、なぜ異世界に来ましたの? 恋愛小説の主人公は、恋愛するために異世界に来るんじゃないんですの?」
「それはあたしが知りたいよ。そんでもって、早く帰して欲しいよ」
マナちゃんはそう言って、ノートに落書きをした。
落書きの内容は様々で、絵だったり文字だったり。時には、数学の公式を書いたり、歴史の年号を書いたり、外国語の単語を書いたり。
「忘れたくなくて」
そう言って、元の世界のいろんな事を思い出してノートに綴る横顔は悲しそうだった。
「ドラマや漫画の続きも気になるし、ネットもしたいし、飼い猫吸いたいし、彼氏といちゃいちゃしたいし……受験だってある……」
受験という言葉を出したとき、マナちゃんの「帰りたい」という顔が「やだな」という顔に変わった。
「あー、受験しなくても何不自由なく暮らせるならこっちの世界も魅力的に思えるような……でも帰りたいような……うん、帰りたいよ」
「……きっと帰れますわ」
気休めにしかならない言葉は、虚しかった。けれど慰めようという気持ちは伝わったみたいで、マナちゃんはニカッとした。
「コーデリアちゃんは帰りたいと思わない?」
マナちゃんがノートに人の絵を描く。
元の世界の思い出を懐かしそうに語りながら。
「あたし、元の世界で毎日同じような1日繰り返しててつまんないって思ってたけど、こんな風に急にみんなに会えなくなるなんて思わなかった」
そういえば私は元の世界に戻りたいと全然思わない。きっと、死んだからだ。前の自分が終わったという意識があるのだ。
「わたくしは死んでますから……」
声は、なんとなくしんみりしてしまった。
「そっかぁ……。でも、あたしもこっちで長く暮らしてたらこっちもこっちで仲良しができて、お別れが辛くなりそう。慣れてきたらこの人はこんな人~って変わってきて、ね」
マナちゃんは困ったように眉を下げて笑った。
「意地悪する人や悪口言う人もいるけど、仲良くしてくれる人もいるからさ……コーデリアちゃんとか」
貴族の子弟たちが多い学園では、マナちゃんの喋り方や所作に眉を顰める人もいる。ざっくばらんなトークは、貴族社会特有の綺麗なお花に刃を隠すような社交とは性質が違いすぎるのだ。
「わたくしはマナちゃんが好きですわ」
「ありがと! この世界にコーデリアちゃんがいてよかった!」
私たちはきゅーっと抱きしめあった。ジャスティン様が何か言いたそうな顔で見つめている。
――もしかして混ざりたいのかしら。
「コーデリア、帰りは僕の家の馬車でお送りしますよ」
「ありがとうございます、ジャスティン様」
マナちゃんと別れて馬車に乗り込む学園帰り、送ってくれるというジャスティン様が真剣な声で名前を呼ぶ。
「……コーデリア」
ただならぬ声色にドキりとして顔を仰げば、整った顔立ちが秀麗な眉を顰めていた。
「帰るって何ですか? 死んでますからって、何ですか?」
さっきのマナちゃんとの会話のことだ。
そういえば、私は前世のことを話していなかった。家族にも、ジャスティン様にも。
マナちゃんは異世界の人だから、なんとなく自然に「わたくしも記憶がありますの」と打ち明けていたけれど。
「……お話ししますわ」
私は口元に手を当てて、すこし考えた。
この特殊な状況、身の上をどこまで話すべきか。どう伝えるべきか。
それが少し、悩ましかった。
朝はわざわざ迎えに来てくれて、どこに行くにもまるで護衛騎士のようにエスコートしてくれる。
好物のスイーツも差し入れしてくれて、ちょっとした理由を見つけては高価な宝石のアクセサリーや可愛いぬいぐるみを贈ってくれるのだ。
「ジャスティン様、嬉しいですけど、わたくしじゃなくてマナちゃんにあげなくては好感度が上がりませんわ」
私に遠慮して聖女(魔女?)への恋心を秘め、惹かれる素振りを見せないようにするのは、小説のジャスティン様にもあったことだ。
……せっかく婚約を破棄したのに、小説と同じように気を遣わせてしまうなんて。
申し訳ない、と思っていたら、マナちゃんが目を吊り上げる。
「コーデリアちゃんはどうしてあたしと彼氏をくっつけたがるの。あたし、そもそも元の世界に彼氏いるよ」
「な、なんですって!! 彼氏持ちで異世界でハーレムする主人公はさすがに好感度が低くなるんじゃないかしら!」
「あたしはハーレムしないよ!」
えっ、ハーレムしないの――!?
衝撃の事実が発覚した瞬間だった。
「じゃあ、なぜ異世界に来ましたの? 恋愛小説の主人公は、恋愛するために異世界に来るんじゃないんですの?」
「それはあたしが知りたいよ。そんでもって、早く帰して欲しいよ」
マナちゃんはそう言って、ノートに落書きをした。
落書きの内容は様々で、絵だったり文字だったり。時には、数学の公式を書いたり、歴史の年号を書いたり、外国語の単語を書いたり。
「忘れたくなくて」
そう言って、元の世界のいろんな事を思い出してノートに綴る横顔は悲しそうだった。
「ドラマや漫画の続きも気になるし、ネットもしたいし、飼い猫吸いたいし、彼氏といちゃいちゃしたいし……受験だってある……」
受験という言葉を出したとき、マナちゃんの「帰りたい」という顔が「やだな」という顔に変わった。
「あー、受験しなくても何不自由なく暮らせるならこっちの世界も魅力的に思えるような……でも帰りたいような……うん、帰りたいよ」
「……きっと帰れますわ」
気休めにしかならない言葉は、虚しかった。けれど慰めようという気持ちは伝わったみたいで、マナちゃんはニカッとした。
「コーデリアちゃんは帰りたいと思わない?」
マナちゃんがノートに人の絵を描く。
元の世界の思い出を懐かしそうに語りながら。
「あたし、元の世界で毎日同じような1日繰り返しててつまんないって思ってたけど、こんな風に急にみんなに会えなくなるなんて思わなかった」
そういえば私は元の世界に戻りたいと全然思わない。きっと、死んだからだ。前の自分が終わったという意識があるのだ。
「わたくしは死んでますから……」
声は、なんとなくしんみりしてしまった。
「そっかぁ……。でも、あたしもこっちで長く暮らしてたらこっちもこっちで仲良しができて、お別れが辛くなりそう。慣れてきたらこの人はこんな人~って変わってきて、ね」
マナちゃんは困ったように眉を下げて笑った。
「意地悪する人や悪口言う人もいるけど、仲良くしてくれる人もいるからさ……コーデリアちゃんとか」
貴族の子弟たちが多い学園では、マナちゃんの喋り方や所作に眉を顰める人もいる。ざっくばらんなトークは、貴族社会特有の綺麗なお花に刃を隠すような社交とは性質が違いすぎるのだ。
「わたくしはマナちゃんが好きですわ」
「ありがと! この世界にコーデリアちゃんがいてよかった!」
私たちはきゅーっと抱きしめあった。ジャスティン様が何か言いたそうな顔で見つめている。
――もしかして混ざりたいのかしら。
「コーデリア、帰りは僕の家の馬車でお送りしますよ」
「ありがとうございます、ジャスティン様」
マナちゃんと別れて馬車に乗り込む学園帰り、送ってくれるというジャスティン様が真剣な声で名前を呼ぶ。
「……コーデリア」
ただならぬ声色にドキりとして顔を仰げば、整った顔立ちが秀麗な眉を顰めていた。
「帰るって何ですか? 死んでますからって、何ですか?」
さっきのマナちゃんとの会話のことだ。
そういえば、私は前世のことを話していなかった。家族にも、ジャスティン様にも。
マナちゃんは異世界の人だから、なんとなく自然に「わたくしも記憶がありますの」と打ち明けていたけれど。
「……お話ししますわ」
私は口元に手を当てて、すこし考えた。
この特殊な状況、身の上をどこまで話すべきか。どう伝えるべきか。
それが少し、悩ましかった。
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