魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

文字の大きさ
23 / 33

4-2

しおりを挟む
「あれ? コレット嬢?」
「え?」
 
 自習室の中にいたアトレイン様とレイオンが揃って顔を上げて、不思議そうな眼差しを向けてくる。

「コレットも誘ってみました!」
「はい! よろしくお願いします!」

 コレットは明るく言い切って、空いていた席にすとんと腰を下ろした。
 その潔さに一瞬ぽかんとしたアトレイン様に、セレスティンが生真面目な声で補足する。

「こいつ、友達がいなくて自習室を使わせてもらえなかったんですよ。それでパメラが誘ったんです」
「そうか。俺の大切なパメラが優しいエピソードが聞けて幸せだ。歓迎するよ、コレット」

 アトレイン様のどこかうっとりしたような声に、コレットの背筋がぴんと伸びた。
 少し照れくさそうに「……お邪魔します」と小さく返す姿に、やっぱりちょっと可愛げを感じてしまう私だ。

「おお、コレット嬢、『お邪魔します』が言えるとは! 礼儀ってやつを知らないと思ってましたよ」
「レイオンも失礼だよね。コレットはさっき『ありがとう』も言ってたよ」
「言わなかったら逆にドン引きですよ」

 レイオンとセレスティンの軽口を、アトレイン様が苦笑しながら手で制した。

「はいはい、そこまで。せっかくだし、そろそろ始めようか」

 その声で空気が一気に落ち着く。
 ページをめくる音が響き始め、勉強会が始まった。

 ……と思いきや。

「さて、コレット嬢は大人しく勉強できるでしょうかね?」
 
 レイオンがぼそりと呟いた瞬間、コレットがすかさず彼の隣に移動する。

「お勉強より、イチャイチャしたいってお誘いですか?」

 にやりと笑って腕を絡めるコレットに、レイオンが「うわ、ちょっ……!」と慌てて距離を取る。
 セレスティンはすかさずため息をついて、冷静に言った。

「二人で別室に行ってくれる? 静かにしてくれたら何も言わないけど」
「ひどくないか?」

「あと、アトレイン様、鞄からはみ出してますけど、こちらのノートは何が書いてあるんですか? 『夢』『秘密』って書いてて気になるんですけど」

 セレスティンが何気なく手に取ったノートを、アトレイン様が血相を変えて奪い取った。

「そのノートはダメだ!」
「ダメだと言われると見たくなるんですけどねー?」
 
 わいわいと賑やかに騒ぐ三人のやり取りに、私はふと思い出して秘密の夢ノートを鞄の奥へとぎゅうぎゅうと隠した。
 危ない、危ない。うっかり持ってきちゃったよ。
 このノートは最近アトレイン様とレイオンの筋肉育て妄想日記になってるから、絶対秘匿しなきゃ。

 なんだか、とても仲間って感じがして。
 胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。
 
 それからしばらく、笑い声とペンの音だけが自習室に満ちていた。
 
「う~~ん。ボク、ここの魔法陣の構成、何回説明を読んでもわからないよ」
 
 セレスティンが教科書を指差す。
 
「ああ、それなら俺が実演してみせた方がわかりやすいかもしれないね」
 
 アトレイン様が説明を始めた。
 彼は心なしかセレスティンに最近優しい。
 レイオンの婚約者だとわかったから?
 
「この魔方陣はベースになる外枠をまず火属性で作るんだ。そこから内側に向かう線を風属性で引いて……」
  
 アトレイン様は簡単そうに小さな魔法陣を作っているけど、複数属性を織り交ぜた魔法陣を展開するのは高度な技だ。
 休憩室のあちらこちらから感嘆の吐息が漏れている。
 
 丁寧で、わかりやすい。
 さすが成績優秀な『完璧な王太子』だ。
 
「なるほど。ありがとう。読むより実演を見た方がわかりやすいや」
 
 セレスティンが頷くと、今度はコレットが手を挙げた。
 
「殿下~! あたしも質問! この魔法生物の分類、全然覚えられないの」
「コレット、そこは暗記するしかない」
「殿下はあたしに冷たいですよね。ふんだ。本当は全部もう暗記済です~!」
 
 赤い舌を出すコレットの肩をレイオンが掴んで、「じゃあテストしてやるよ」と問題を出していく。

「きゃっ、レイオン様にテストされちゃう。満点取ったらキスしてね」
「絶対しない」

 きっぱりと拒絶するレイオンに、セレスティンが「してやればいいのに」と突き放したことを言う。

 賑やかだな……。
 
 こんな風に、みんなで勉強するのは楽しい。
 前世ではこんな経験はなかったから、嬉しい。
 
「パメラ」
 
 アトレイン様の声に、顔を上げる。
 
「その問題に詰まってる? ずっと手が止まってるが、わからないところがあったら教えようか?」
「え……あ、はい。そうですね……ここの計算式がよくわからないかも」
「見せてごらん」
 
 アトレイン様が私の隣に座り、ペンを取る。
 近い距離に、心臓がとくんと跳ねた。
 
「ここはこうやって考えるんだ」
 
 声が近い。
 説明のために身を寄せた肩が私の肩に触れている。
 
「あ、あ、ありがとうございます……」
 
 顔が熱い。
 きっと真っ赤になっている。
 
「わかった?」
「は、はい……!」
 
 アトレイン様が優しく微笑む。
 その笑顔に、胸がきゅっと締め付けられた。
 
「パメラ? どうした?」
「い、いえ! なんでもありません!」
 
   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
 
 勉強会も終盤に差し掛かった頃、レイオンが話題を変えた。
 
「そういえば、試験後の打ち上げパーティ、楽しみだよな」
「ああ、あれか」
 
 アトレイン様が頷く。
 
「打ち上げパーティ? そんなのがあるのね」
 
 コレットが首を傾げながらテーブルの上のお菓子ボックスからマフィンを2つ取り、私の前に置いた。
 
 ん? 私の分?
 
 視線を向けると、コレットはふいっと目を逸らした。

 なんか、野生の小動物が獲ってきたものをプレゼントしてくれた、みたいな謎の感動がある。
 
「レイオン様! パーティってドレスを着てダンスしたりする? あたしとダンスして」
「だから、婚約者の前で浮気させようとするなって」
 
 レイオンは呆れ顔だけど、セレスティンは「ボクは全然構わないけど」と冷たい態度だ。
 それにしてもコレットはぐいぐいアプローチするなぁ。
 
「ねえねえ。レイオン様。打ち上げパーティってどんなことをするんです?」  
「知らないのか? 試験が終わったら、学園の中庭でお祭りがあるんだ。屋台も出るし、音楽隊も来る」
「素敵! あたし、そういうの大好き!」
 
 コレットが目を輝かせる。
 うんうん、原作でも楽しいイベントエピソードなんだよね。
 前世、ベッドの上でお祭りを想像していたのを思い出す。自分でお祭りの会場を歩けるのが楽しみだ。
 
「それに、虹灯篭レインボーランタンっていう伝統行事もあるんだ」
 
 セレスティンが説明を加える声は、レイオンに向けて喋った時とは比べものにならないくらい明るい。
 ギャップがありすぎて可哀想かも、と思って顔色を窺うと、レイオンはけろりとしている。……慣れを感じる。
 
虹灯篭レインボーランタン?」
「真実を口にすると虹色に光る灯篭よ。それをみんなで空に打ち上げるの」
 
 聞き流していた会話がふと自分の中に着地して、「あれ?」と気づく。
 
 虹灯篭レインボーランタンって、パメラが真実を暴かれる魔法アイテムだ?
 
 私の背筋に、冷たいものが走った。
 
 小説で読んだシーンが脳裏に蘇る。   

『私は婚約者として、誰よりもアトレイン殿下を愛しているのです!』 

 パメラがアトレイン様への愛を唱えたのに、灯篭は光らなかった。
 そして彼は、こう言ったのだ。   

『あなたは俺の婚約者として問題行動が多かったが、俺を慕ってくれているのだと思っていた。だが、俺への好意は偽物か……』 

 それがきっかけで、アトレイン様はパメラに完全に愛想を尽かしたんだ。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。

氷雨そら
恋愛
聖女としての力を王国のために全て捧げたミシェルは、王太子から婚約破棄を言い渡される。 そして、告げられる第一王子との婚約。 いつも祈りを捧げていた祭壇の奥。立ち入りを禁止されていたその場所に、長い階段は存在した。 その奥には、豪華な部屋と生気を感じられない黒い瞳の第一王子。そして、毒の香り。  力のほとんどを失ったお人好しで世間知らずな聖女と、呪われた力のせいで幽閉されている第一王子が出会い、幸せを見つけていく物語。  前半重め。もちろん溺愛。最終的にはハッピーエンドの予定です。 小説家になろう様にも投稿しています。

【悲報】氷の悪女と蔑まれた辺境令嬢のわたくし、冷徹公爵様に何故かロックオンされました!?~今さら溺愛されても困ります……って、あれ?

放浪人
恋愛
「氷の悪女」――かつて社交界でそう蔑まれ、身に覚えのない罪で北の辺境に追いやられた令嬢エレオノーラ・フォン・ヴァインベルク。凍えるような孤独と絶望に三年間耐え忍んできた彼女の前に、ある日突然現れたのは、帝国一冷徹と名高いアレクシス・フォン・シュヴァルツェンベルク公爵だった。 彼の目的は、荒廃したヴァインベルク領の視察。エレオノーラは、公爵の鋭く冷たい視線と不可解なまでの執拗な関わりに、「新たな不幸の始まりか」と身を硬くする。しかし、領地再建のために共に過ごすうち、彼の不器用な優しさや、時折見せる温かい眼差しに、エレオノーラの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 「お前は、誰よりも強く、優しい心を持っている」――彼の言葉は、偽りの悪評に傷ついてきたエレオノーラにとって、戸惑いと共に、かつてない温もりをもたらすものだった。「迷惑千万!」と思っていたはずの公爵の存在が、いつしか「心地よいかも…」と感じられるように。 過去のトラウマ、卑劣な罠、そして立ちはだかる身分と悪評の壁。数々の困難に見舞われながらも、アレクシス公爵の揺るぎない庇護と真っ直ぐな愛情に支えられ、エレオノーラは真の自分を取り戻し、やがて二人は互いにとってかけがえのない存在となっていく。 これは、不遇な辺境令嬢が、冷徹公爵の不器用でひたむきな「ロックオン(溺愛)」によって心の氷を溶かし、真実の愛と幸福を掴む、ちょっぴりじれったくて、とびきり甘い逆転ラブストーリー。

すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~

水川サキ
恋愛
家族にも婚約者にも捨てられた。 心のよりどころは絵だけ。 それなのに、利き手を壊され描けなくなった。 すべてを失った私は―― ※他サイトに掲載

【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました

ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」  公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。  留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。  ※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。 【完結】

【完結】地下牢同棲は、溺愛のはじまりでした〜ざまぁ後の優雅な幽閉ライフのつもりが、裏切り者が押しかけてきた〜

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
悪役令嬢の役割を終えて、優雅な幽閉ライフの始まりだ!! と思ったら、なぜか隣の牢との間の壁が崩壊した。 その先にいたのは、悪役令嬢時代に私を裏切った男──ナザトだった。 一緒に脱獄しようと誘われるけど、やっと手に入れた投獄スローライフを手放す気はない。 断れば、ナザトは「一緒に逃げようかと思ったけど、それが嫌なら同棲だな」と言い、問答無用で幽閉先の地下牢で同棲が開始されたのだった。 全4話です。

「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました

平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。 一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。 隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

処理中です...